■運び屋 円十郎 2023.11.6
三本雅彦さんの『運び屋 円十郎』を読みました。
面白い時代活劇です。
「円十郎」は、“いかなる志”を運んだのか。
運び屋の仕事とは。
「一つ、中身を見ぬこと。二つ、相手を探らぬこと。三つ、刻(とき)と所を違えぬこと」
仕事の格は、松・竹・梅。
志とは、何か。
円十郎と父半兵衛の想いと望みとは。
登場人物たちが、魅力的に息づいている。
引取屋の兵庫(ひようご)、くくり屋の看板娘理緒、水戸藩士青木真介、試衛館の土方歳三、運び屋の元締め日出助、女中お葉、黒猫のヒメ。
彼らと一匹の行く末が、気になる物語です。
「さて、今夜も一つ頼めるかな? 珍しく連日の仕事になってしまうけど」
「お任せください」
「運びの掟、言ってご覧なさい」
これも毎回のことだ。<運び屋>として守らなければならないことを、依頼を受けるたびに言わされる。面倒ではあるが気を引き締めるつもりで口に出す。
「一つ、中身を見ぬこと。二つ、相手を探らぬこと。三つ、刻(とき)と所を違えぬこと」
日出助が頷く。掟の一、二はつまり、誰が誰に何を渡そうとしているのかを知ろうとするなというものだ。
これは依頼人のためだけでなく、自分たちが厄介な目に遭わないようにするための掟でもある。安くない金を払って運ぶよう依頼するのだから、尋常な中身ではない。そのような荷物を誰に届けたか知ってしまっては、命がいくつあっても足りないだろう。
<運び屋>の仕事の格は、松・竹・梅と分けられている。
報酬と危険度は格に応じたものになる。<松>の仕事は滅多になく、円十郎は普段、<竹>の仕事を任されていた。
<運び屋>と<引取屋>は仕事柄、敵となり得る。<運び屋>への依頼は安くない。多額の金を払ってでも運んで欲しい託す荷物は、別の誰かにとっても価値がある物だ。それを横取りしたいと願う者は、<引取屋>を頼る。
試衛館はまだ大人しいほうで、他所の私塾や道場では、老中を討つだの、異人を斬るだの、過激な話がされているという。学問や剣を学ぶはずの場所で、志を語り、熱を持ち、凶行に至る。そういう噂話を聞くたびに、円十郎は胸は冷たい氷のようなもので覆われる。
----さながら、病だ。
----志とは、なんなのだ。
まさしく病のように、人を死に追いやるものなのか。
半兵衛は<運び屋>などの裏稼業に生きる道を捨て、柳雪流を世間に示し、名を上げたいという志に蝕まれた。その結果が極貧と心労と病で、半兵衛は命を落としかけた。日出助に拾われなければ、円十郎もまた、助からなかっただろう。
志とは、己のために抱くものだ。成し遂げるためには他人を顧みない。
それも、違うのかも知れない。
『 運び屋 円十郎/三本雅彦/文藝春秋 』
三本雅彦さんの『運び屋 円十郎』を読みました。
面白い時代活劇です。
「円十郎」は、“いかなる志”を運んだのか。
運び屋の仕事とは。
「一つ、中身を見ぬこと。二つ、相手を探らぬこと。三つ、刻(とき)と所を違えぬこと」
仕事の格は、松・竹・梅。
志とは、何か。
円十郎と父半兵衛の想いと望みとは。
登場人物たちが、魅力的に息づいている。
引取屋の兵庫(ひようご)、くくり屋の看板娘理緒、水戸藩士青木真介、試衛館の土方歳三、運び屋の元締め日出助、女中お葉、黒猫のヒメ。
彼らと一匹の行く末が、気になる物語です。
「さて、今夜も一つ頼めるかな? 珍しく連日の仕事になってしまうけど」
「お任せください」
「運びの掟、言ってご覧なさい」
これも毎回のことだ。<運び屋>として守らなければならないことを、依頼を受けるたびに言わされる。面倒ではあるが気を引き締めるつもりで口に出す。
「一つ、中身を見ぬこと。二つ、相手を探らぬこと。三つ、刻(とき)と所を違えぬこと」
日出助が頷く。掟の一、二はつまり、誰が誰に何を渡そうとしているのかを知ろうとするなというものだ。
これは依頼人のためだけでなく、自分たちが厄介な目に遭わないようにするための掟でもある。安くない金を払って運ぶよう依頼するのだから、尋常な中身ではない。そのような荷物を誰に届けたか知ってしまっては、命がいくつあっても足りないだろう。
<運び屋>の仕事の格は、松・竹・梅と分けられている。
報酬と危険度は格に応じたものになる。<松>の仕事は滅多になく、円十郎は普段、<竹>の仕事を任されていた。
<運び屋>と<引取屋>は仕事柄、敵となり得る。<運び屋>への依頼は安くない。多額の金を払ってでも運んで欲しい託す荷物は、別の誰かにとっても価値がある物だ。それを横取りしたいと願う者は、<引取屋>を頼る。
試衛館はまだ大人しいほうで、他所の私塾や道場では、老中を討つだの、異人を斬るだの、過激な話がされているという。学問や剣を学ぶはずの場所で、志を語り、熱を持ち、凶行に至る。そういう噂話を聞くたびに、円十郎は胸は冷たい氷のようなもので覆われる。
----さながら、病だ。
----志とは、なんなのだ。
まさしく病のように、人を死に追いやるものなのか。
半兵衛は<運び屋>などの裏稼業に生きる道を捨て、柳雪流を世間に示し、名を上げたいという志に蝕まれた。その結果が極貧と心労と病で、半兵衛は命を落としかけた。日出助に拾われなければ、円十郎もまた、助からなかっただろう。
志とは、己のために抱くものだ。成し遂げるためには他人を顧みない。
それも、違うのかも知れない。
『 運び屋 円十郎/三本雅彦/文藝春秋 』
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