BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

物欲。

2025年01月09日 | 日記
最近、物欲が徐々になくなってきているような気がします。
以前はパートの給料を全て、本や文具、お菓子などに使ってしまって万年金欠状態だったんですが、最近になると欲しい文具(主にシャーペン)は全て持っているので、偶に文具店や百均に行っても「買わんでいいか」と思ってしまうようになりました。
まぁ、いいことですよね。
ノートも買いためたものが沢山あるし、シャーペンも70本位あるし、筆箱も5個くらいあって、「ミニ文具店」でも開けるレベルで色々とあるので、もう買うのはやめようと思います。
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碧の邂逅 1

2025年01月09日 | F&B×名探偵コナンクロスオーバーパラレル二次創作小説「碧の邂逅」

素材表紙は、てんぱる様からお借りました。

「FLESH&BLOOD」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。

作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。


(どうして、こんな事に・・)

紅蓮の炎に包まれたガレオン船を見ながら、コナンは呆然とした様子でその場に立ち尽くしていた。

『可哀想に。君さえ居なければ、彼らは生きていたのにねぇ。』

炎を受けて黄金色に輝く悪魔の瞳が、コナンを捉えた。

『何でこんな事をするんだ!』

『戦争では必ず人が死ぬ。不幸にも彼らは、自ら災いを招いたのさ。まぁ、それは避けようのない死だけれど。』

悪魔はそう言った後、薄笑いを浮かべた。

『さぁ、教えておくれ。君は一体、何者なんだ?』

『江戸川コナン・・探偵さ。』

『それだけではないだろう?大丈夫、正直に言えば、殺しはしないさ。』

コナンは、目の前に立つ悪魔と出会った日の事を思い出していた。

確か、その日コナンは、蘭の親友・鈴木園子の誘いで鈴木財閥が経営する大型テーマパークへ遊びに来ていたのだった。

「博士、見えて来ましたよ!」
「うわ~、すっげぇ!」
「わたしに感謝しなさいよ、今日は鈴木財閥経営のテーマパーク、海賊村プレオープンの日なんだからね!」
そう言って蘭の隣で高笑いしているのは、彼女の親友である鈴木園子だった。
コナン達は、オープン前から話題沸騰の海賊村のプレオープン招待券に応募したが、外れてしまった。
「行きたかったのにな~」
「残念!」
「まぁ、物事には諦める事も大切よね。」
「えぇ~!」
阿笠博士の家で、元太、光彦、歩美、そしてコナンと哀は、パソコンの画面を見て溜息を吐いた。
大航海時代のヨーロッパを舞台にした巨大テーマパーク“海賊村”のチケットは半年先の分まで完売してしまった。
コナン達は暫くパソコンの前で落胆していたが、ひょんな事から園子に招待され、“海賊村”へとやって来たのだった。
「うわぁ~、広い!」
「みんな、はぐれないようにね!」
「わかってますって!」
「博士は、来られなくて残念だったわね。」
阿笠博士はコナン達と共に“海賊村”へ来る予定だったのだが、彼は風邪をひいてしまい、来られなくなってしまった。
「今日は、博士の分まで楽しみましょう。」
「あぁ、そうだな。」
暫くコナン達は、“海賊村”のアトラクションやショーを楽しんだ後、ガレオン船クルーズへと乗り込んだ。
「内部まで、ガレオン船内を再現しているわね。エンジンと、横揺れ防止装置がついている以外は。」
「確かに。」
コナンが哀とそんな事を話していると、今まで晴れていた上空を突然黒雲が覆い、船は嵐に襲われた。
「皆様、早く船室の中へ!」
「コナン君、わたし達、大丈夫だよね?」
「大丈夫よ。多分、船はもうすぐ港に・・」
哀がそう言った時、雷鳴が轟き、船が大きく揺れた。
「きゃぁぁ~!」
「みんな、しっかりロープに掴まって!」
コナン達は互いの身体にロープを巻き付けていたが、そのロープは、次第に嫌な音がして今にも切れそうになっていた。
「みんな、しっかり掴まって!」
コナン達が居る船室の中にも、大量の海水が入って来た。
「この船、あと数分で沈没するわよ。」
「救命ボートはないのか!?」
「このガレオン船には、救命ボートはないわ。見栄え重視にしたのは、あのタイタニック号と同じね。」
哀がそう呟いた時、コナン達の身体を繋いでいたロープが切れた。
「灰原、元太、歩美、光彦~!」
コナンは必死に哀達を捜したが、彼らの姿は見えなかった。
(クソ、一体何処に・・)
やがてコナンは、哀達を捜す内に体力を消耗していった。
いつの間にか嵐は過ぎ去り、コナンは必死にマストの破片にしがみついていた。
『ジェフリー、あそこ!』
遠くで人の声が聞こえ、一隻のボートが自分達の元へとやって来る気配がした。
(あぁ、助かった・・)
 コナンはそう思って安堵した瞬間、意識を失ってしまった。
「みんな、大丈夫?」
「そこに居るのは、哀ちゃんなの?」
哀が暗闇の中で歩美達に呼び掛けると、彼らは全員居た。
「コナン君は?」
「それが、手を離しちゃって・・」
「コナン君、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。それよりも、今わたし達が置かれている状況を理解する必要があるわね。」
哀はそう言うと、自分達をカンテラで照らしている黒衣の男達を見た。
その中で一際目立っていたのは、黒髪に美しい翠の瞳をした男だった。
『ビセンテ様、この子達をどうしますか?』
男の隣に立っている金髪碧眼の少年がそう言って哀達の顔をカンテラで照らした。
『この子達はあの遭難したガレオン船に乗っていたのだろう。レオ、この子達に温かい毛布とスープを。』
『シ、マエストロ!』
少年はチラリと哀達を見た後、船長室から出て行った。
『君達は何処から来たんだ?肌の色からして、トルコ人ではないな・・』
「この人、何言っているのかわからないよ。」
「英語じゃないし・・」
「みんな、ここはわたしに任せて。」
哀は、パニックになりかけている歩美達にそう話し掛けた後、男の方へと向き直った。
『わたし達は日本人よ。ここは何処なの?』
『日本人、だと・・』
男の美しい翠の瞳に動揺の色が走ったのを見逃さなかった哀は、次の言葉を継いだ。
『ここは何処?』
『サンティアゴ号の船長室だ。わたしはビセンテ=デ=サンティリャーナ、海軍将校だ。』
『そして、この船の責任者ね。』
『何故そんな事がすぐにわかった?』
『さっきの子の、あなたに対する態度よ。あなたの事を、あの子は、“マエストロ”と言った。わたし達の事を尋ねるあの子の口調は、上官に対する部下そのものだったわ。』
『スペイン語は何処で習った?』
『使節団に居た神父様に習ったの。』
『使節団か・・』
男は暫く考えた後、哀にこう言った。
『君達の事は、わたしが保護する。』
『ありがとう。わたしは灰原哀、あの子達はわたしの友達よ。』
『そうか。ではアイ、君達はこのサンティアゴ号の船員となった。だが、君達はまだ子供だから、レオに仕事を教えて貰うといい。』
『わかったわ。』
こうして、哀達は『サンティアゴ号』に保護された。
『これから、何処に行くの?』
『ラ=ロシェル。わたし達にとっては忌々しい異教徒達の牙城だが、物資調達の為なら仕方あるまい。』
『そう・・』
「ねぇ哀ちゃん、わたし達どうなるの?」
「大丈夫、あの人達がわたし達を保護してくれるわ。それよりもみんな、落ち着いて聞いて。わたし達が居るのは、本物の大航海時代みたい。」
「え~!」
「じゃぁ、僕達あのおっさん達に殺されちゃうのか?」
「それはないわ。」
「コナン君は、一体何処に・・」
「彼なら、また会えると思うわ。」
哀がそう言ったのと同じ頃、コナンはイングランドの海賊船『グローリア号』に保護され、その船長であるジェフリー=ロックフォードと、そのキャビン=ボーイである赤毛の少年と共に食事をしていた。
(俺、これからどうなっちゃうんだろう・・)
『どうした、体調が悪いのか?』
『さっきまで冷たい海水に浸かっていたんだから、無理もないよ。坊や、名前は?』
『江戸川コナン。』
「推理小説マニアの親が名付けたのかな・・」
『カイト、どうした?』
『ううん、珍しい名前だなぁって。』
赤毛の少年はそう言った後、コナンをハンモックに寝かせた。
「ねぇ、さっき僕の名前の事について、何か言っていたよね?」
「え‥君・・」
「さっき食事していた時に気づいたんだけれど、お兄さん、日本人だよね?英語を話せるのは、英語圏で幼少期から暮らしていたからだよね?」
「うん。コナン君、少し俺の話を聞いてくれる?」
赤毛の少年―東郷海斗は、コナンに自分の身に起きた出来事を話した。
「そう・・海斗さんもタイムスリップして来たんだね。僕も、友達と一緒にタイムスリップしたんだ。まさか大航海時代のテーマパークに行ったら、本物の大航海時代―16世紀のヨーロッパにタイムスリップするなんて思いもしなかったよ。」
「俺もだよ。俺はキャプテン=ドレイクの足跡を辿る旅に出たら、いつの間にか16世紀のプリマスにタイムスリップしていた。ホーの丘で会ったスペイン人にその事を話したら、狂人扱いされた。」
「どうして?」
「俺は、16世紀の事に詳しくて、当時の歴史事情にも詳しくなったんだよね。それで、彼に言ってはいけない事を口にした。」
「アルマダが、負けるとか?」
「そう。そしたら彼は、俺の首を絞めて来たんだ。それで、気絶していたところをジェフリー・・さっきのブロンドの人に助けて貰ったという訳。」
「そうだったんだ。ジェフリーっていう人は、この船で一番偉い人だね。それで、海斗さんを襲ったのは、どんな人だったの?」
「黒ずくめで黒髪で翠の瞳をしていたよ。確か名前はヴィンセント。」
「ヴィンセント・・イングランド人じゃないね。」
「うん。彼の本名は、ビセンテ=デ=サンティリャーナ、スペイン人の海軍将校だった。」
「そうか・・」
コナンは、哀達の事を想った。
彼女達は、今何処に居るのだろう。
『おい、ガキ共はどうした?』
『まったく、一体何処に行っちまったんだ?』
水夫達の濁声を遠くから聞きながら、哀達は今後の事を話し合っていた。
「ここは、16世紀のヨーロッパで間違いないわ。」
「ねぇ哀ちゃん、あの翠の瞳の人以外、英語を話せる人は居ないの?」
「えぇ。それに、ここでは働かないと生きていけないわ。わたし達に出来る事をしましょう。」
「うん。」
こうして哀達とコナン達はそれぞれ『グローリア号』と『サンティアゴ号』で過酷な船上生活を送った。
「あ~あ、腹減ったなぁ。うな重食いてぇなぁ・・」
「元太君、この樽を運び終わったらお昼ですから、頑張りましょう。」
「でもよぉ・・」
哀達が水が入った樽を甲板から船倉へと運んでいる途中、『サンティアゴ号』は嵐に襲われた。
『みんな上がって来い、そこは危険だ!』
「灰原さん、大丈夫ですよね?」
「大丈夫よ。」
同じ頃、『グローリア号』も嵐に襲われていた。
「気持ち悪い・・」
「頭がクラクラする・・」
荒波に揉まれて激しく揺れる『グローリア号』の中で海斗とコナンが船酔いに苦しんでいると、雷鳴と共に何かが焦げたような臭いがして来た。
「トーマスを呼べ、マストから落ちた奴が居るぞ!」
海斗とコナンが甲板へと向かうと、そこには雷を受けたミズン・マストがあった。
「誰がマストから落ちたの?」
「ジムだ。」
水夫達によって折れたマストの下から救出されたジムの脛から白い骨の破片が突き出ていた。
「酷ぇな・・」
「処置するしかねぇですよ。」
「処置って、どういう事?」
「トーマスが面倒を見てくれる。あいつは鋸の使い方を心得ているからな。」
「じゃぁ・・」
海斗とコナンは、ジムの手術に立ち会った。
麻酔無しの足の切断手術は、二人にとっては酷なものだった。
嵐が治まり、『グローリア号』はフランスのラ・ロシェルに寄港する事になった。
「これを被っておけ。」
そう言ってジェフリーが海斗に手渡したのは、黒の天鵞絨の、フード付きのマントだった。
「赤い髪は目立つからな。」
「ねぇ、これからどうするの?」
「宿に泊まる。」
「随分賑わっているね。」
「ここは交易が盛んだからな。カイト、コナン、二人共余り目立つ事はするなよ。」
「わかっているよ。」
同じ頃、『サンティアゴ号』も、ラ・ロシェルの港に着いた。
『旦那、おかしな連中を先程見かけましたよ。綺麗なツラをしたイングランド人と、苺のような真っ赤な髪をした坊やでさぁ。』
『何だと・・他には、誰か居たのか?』
『そうですね・・赤毛の坊やの後ろに、小さい坊やが居ましたよ。』
(江戸川君なの?)
『どうした?』
『さっきあの人が言っていた、“小さい坊や”・・もしかしたら、わたしの友達なのかもしれないの。』
『そうか。』
コナン達がラ・ロシェルの街を歩いていると、突然黒ずくめの服を着た一団がやって来た。
『ヴィンセント・・』
ビセンテを見て驚愕の表情を浮かべている赤毛の少年の隣にコナンが居る事に、哀は気づいた。
「江戸川君!」
「灰原・・」
『あの子は、知り合いなのか?』
『ええ、前に話していた友達よ。』
『そうか。』
ビセンテは暫く考えた後、赤毛の少年と何かを話していた。
しかし、赤毛の少年は、ビセンテを拒絶した。
『そうか・・ならば、力ずくでも・・』
『カイト、下がっていろ!』
ビセンテと赤毛の少年との間に割って入ったのは、金髪碧眼の美男子だった。
「コナン君、無事だったんだね!」
「心配していたんですよ!」
コナンは、哀達と再会した。
だが、再会の時は短かった。
『行くぞ、お前達!』
「コナン君、また会えますよね?」
「あぁ、また会えるさ!」
ラ・ロシェルで哀達と別れた後、コナンと海斗が彼らと再会したのは、収穫祭・ラマスに沸くプリマス、ホーの丘だった。
『その子供も連れて行け。』
『はい。』
「うわぁ、賑わっていますね!」
「そりゃぁ、年に一回、小麦の収穫を祝うお祭りだもの。」
「色んな形のパンがある、おいしそ~!」
「みんな、はぐれないようにしてね!」
宮廷から追い出された元道化師から海斗がプリマスに戻って来ているという情報を得たビセンテ達は、ラマスの最中、広場の雑踏の中から“ホーの丘”へと向かう一台の粗末な馬車を見つけた。
「あ、コナン君だ!」
「あの赤毛の兄ちゃんも居るぜ!」
海斗とコナンの姿を見つけた歩美達が駈け出して行くのを見たビセンテ達は、慌てて彼女達を追い掛けた。
その一時間前、海斗とコナンは『白鹿亭』から出て、ホーの丘へと向かった。
「タイムスリップの法則がある?」
「うん。リリーは、ホーの丘で妖精の輪を見たって言っていたけれど、俺が見たのは、ボウリングのピンだった。もしかしたら、ホーの丘にタイムスリップのヒントが隠されているかもしれない。」
「僕達がこの世界にタイムスリップした時、ガレオン船の中だったよ。」
「カイト、そこで何をしている!」
「あ・・」
広場から迷いなく馬車の方へと向かって来る人物を見て、海斗はバツの悪そうな顔をした。
コナンがちらりと広場の方を見ると、そこにはナイジェル=グラハムの姿があった。
「ナイジェル、実は・・」
海斗はナイジェルにホーの丘の事を話すと、彼は自分も同行すると言って来た。
(嫌な予感がするな・・)
そして、その予感は的中してしまった。
「江戸川君!」
「灰原、それにおめぇらも、何でここに?」
「あなたなら、わたし達がここに居る意味がわかるでしょう?」
哀の言葉を聞いた後、コナンは激しい剣戟の音が丘の方からしている事に気づいた。
「きゃぁ~!」
コナン達が見たものは、左右に交差した剣で首を固定されたナイジェルの姿だった。
『その子供も連れて行け。』
『はい。』
海斗は、ビセンテ達と共にスペインへと向かった。
「ねぇ海斗さん、さっきホーの丘でタイムスリップの法則を探していたって・・」
「リリー・・『白鹿亭』の女将は、ホーの丘でタイムスリップしたけれど、ひとつ気になる事があって・・」
「気になる事?」
「俺とリリーがこっちにタイムスリップした時、季節が半年程ずれていたんだ。」
「季節のずれ、か・・もしかして、暦が関係しているのかもしれないよ。」
「暦・・そうか。でも、“トンネル”の問題は・・」
「“トンネル”?」
「こっちに来た時にくぐったんだ。それは一方通行で、開く時に限られている。」
「そう。それにしても、あの人は訛りの無い英語を話すよね?」
「うん。彼は、スペイン人でイングランドに潜伏している工作員だと思う。」
「そうね。それよりも海斗さん、あなたはどうして彼につけ狙われているのかしら?」
「それは、俺の所為だよ。」
海斗はコナン達に、ホーの丘でビセンテに会い、そこで“スペインはイングランドに負ける”と予言し、彼の怒りを買ってしまった事を話した。
「ビセンテさんは、あなたが稀代の予言者だと知って、スペインまで連れて行くつもりね。」
「馬鹿みてぇ、占いに本気になるなんて・・」
「この時代は科学や医療、情報網が発達していないの。あのノストラダムスの予言みたいに、自分の国の未来を知っている海斗さんを召し抱えたいと思うのは当然だわ。」
「でもよぉ、あのおじさん怖いよなぁ。」
「わたし達、これからどうなっちゃうの?」
「さぁね。」
イングランドを離れ、リスボンに寄港した『サンティアゴ号』から降りたコナン達は、そこで二人の男と出会った。
金髪碧眼の長身の男、ヤンと、その主人と思しきイエスズ会の僧衣に身を包んだラウル=デ=トレド。
華奢な身体に、細面に整った美貌の持ち主であるラウルは、光を受けて黄金色に輝く瞳でコナンと海斗を見つめた。
(え?)
まるで全身を舐めるかのような執拗なラウルの視線を浴びた二人は、小声で話し始めた。
「嫌な感じがするね、あの人。」
「う~ん、あんまり関わらない方がいいかも。」
エル=エスコリアル宮で毒を盛られた海斗は、パストラーナで療養する事になった。
「海斗さん、もしかして、ジェフリーさんの事、好きなの?」
「えっ、何急に!?」
「だって、海斗さん口を開けばジェフリーさんの事ばかり話しているよね?」
「うん・・」
そう言った海斗の顔は、赤くなっていた。
「それにしても、ビセンテさんって、海斗さんに対して過保護だよね。」
「まぁ、きっとヴィンセントは俺の事を弟のように思っているって・・」
「ふぅん・・」
(多分、違うと思うけどなぁ・・)
恋愛に疎いコナンでさえも、ビセンテが海斗に向ける視線は、恋する男のそれだと気づいてしまった。
『カイト、大公夫人がお呼びだ。』
『わかった。』
海斗が、大公夫人の居る塔へと向かった時、コナンは廊下でラウルと会った。
『おや、珍しい。』
ラウルは黄金色に光る瞳でコナンを見た。
『おいで。君にも話したい事がある。』
『話したい事?』
『行けば、わかるさ。』
ラウルにコナンが連れられたのは、大公夫人が居る塔だった。
そこでコナンと海斗は、ラウルとエボリ大公夫人が知り合いである事を知った。
『さてと、君達の力を、わたしの為に使って貰うよ。まぁ、君達が下手な真似をすると、君のお友達がどうなるのか、賢い君達ならわかるよね?』
ラウルの本性―己の欲の為ならば、平気で人を傷つける悪魔の顔を知った海斗とコナンは、無言のまま塔を後にした。
「これから、どうするの?」
「ジェフリー達に会えたし、これからどうするのかは色々と考える・・」
海斗は、そう言った時、激しく咳込んだ。
「大丈夫?」
「うん・・ちょっと、風邪をひいたかも。」
海斗の言葉が、嘘を吐いているとコナンはすぐに気づいた。
ビセンテが狩りから帰って来た日、海斗はエボリ大公夫人から折檻を受けた。
「海斗さん、大丈夫?」
「うん・・」
海斗がエボリ大公夫人から折檻を受けたその日の夜、海斗はコナンに、逃亡計画を打ち明けた。
「上手くいくの?」
「やってみないと、わからないよ。」
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碧の器 1

2025年01月09日 | FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説「碧の器」

表紙は、かんたん表紙メーカー様からお借りしました。

「黒執事」「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

「はぁ・・」
その日、ファントムハイヴ社社長・シエル=ファントムハイヴは何度目かの溜息を吐いていた。
というのも、新商品を開発しようと思い立ったはいいものの、中々そのアイディアが湧いてこない。
かといって、今更中止にも出来ない。
「坊ちゃん、失礼致します。」
ベルを鳴らしてもいないのに、部屋に滑るように入って来たのは、ファントムハイヴ伯爵家執事・セバスチャンだった。
「本日のデザートは、ガトーショコラのクランベリーソースがけでございます。」
「悪くない。」
「おやおや、仕事が余り進んでいらっしゃらないようですね?」
セバスチャンは、書類の山を前にして唸るシエルにそう言うと、一通の手紙を差し出した。
『可愛い坊やへ、今年の夏は異常な暑さですね。プリマスの街で、最近猟奇殺人事件が起きていて、被害者は皆10~13歳までの子供達です。どうか、子供達が安心して家族と眠れる夜を迎えられますように、ヴィクトリア。』
「プリマスか・・遠いな。」
「夏の休暇を取って、プリマスへ行かれてはいかがでしょう?そうされた方が、新商品開発のアイディアが浮かぶかと。」
「今すぐ身支度をしろ、プリマスへ向かう。」
「イエス、マイ・ロード。」
こうしてシエルとセバスチャンは、プリマスへと向かった。
「暑い・・」
ロンドンのキング=クロスから汽車でプリマスへと向かったシエルは、駅舎から出た途端、強烈な日差しに襲われ思わず顔を顰めた。
「こんな日差しだったら、エリザベス様から頂いた日傘を持って行けば良かったですね。」
「お前、ふざけているのか!?」
シエルがそう言って執事の方を睨むと、彼は黒い雨傘をさしていた。
真夏の強烈な日差しを浴びたシエルは、プリマスの警察署に着くまで何度も気絶しそうになった。
「あ、あなたは!?」
プリマス警察の記録保管庫に居た一人の刑事と、シエルとセバスチャンは鉢合わせしてしまった。
「確か君は、アバーライン君だっけ?」
「そうです。お久しぶりです、ファントムハイヴ伯爵!」
「どうして、君がここに?」
「異動になりました!」
「そ、そうか・・」
セバスチャンは記録保管庫から事件の捜査資料を書き写すと、被害者達の写真を抜き取った。
「では僕達はこれで失礼する。」
警察署を出たシエル達は、近くのカフェで昼食を取る事にした。
「フィッシュ&チップスか。ロンドンで食べた物よりも美味いな。」
「港町だから、新鮮な魚介類が入って来るので、ロンドンの物よりも美味しいのでしょう。」
「そうか。それにしても、事件の被害者達は皆黒髪かブルネットか・・しかも、年齢が・」
「坊ちゃんが、あの儀式に生贄にされた時と同じ年齢ですね。」
あの時、悪魔崇拝者達は全員セバスチャンに殺された筈だった。
だが、まだその残党が居るかもしれない。
シエルとセバスチャンは昼食を済ませると、カフェから出て、“ホーの丘”へと向かった。
そこは、何も無い所だった。
「確か、ここだったな。」
「ええ、確か最初の被害者・ジムはある儀式の最中に殺されたようです。」
「ある儀式だと?」
「妖精の国へ行く儀式だそうです。」
「下らん、妖精なんて居る訳が・・」
「悪魔を呼び出した坊ちゃんがそれを言いますか?」
「うるさい。」
「この“ホーの丘”は、妖精の国へと通じる“トンネル”があると、昔から噂されております。」
「時間の無駄だったな・・帰るぞ、セバスチャン・・」
シエルがそう言ってセバスチャンの方を振り返ろうとした時、突然シエルの足元の地面が光り出した。
「坊ちゃん!」
「セバスチャ・・」
シエルがセバスチャンに向かって手を伸ばそうとした時、シエルは地中深くに吸い込まれてしまった。
(妖精は、本当に居るのですね・・)
セバスチャンは呆然としながら、シエルを吸い込んだ“穴”を見つめた。
いつまで、気を失ってしまったのか、わからなかった。
ただシエルにわかるのは、全身に広がって来る鈍い痛みだけだった。
「う・・」
シエルが呻いて起き上がろうとすると、右足に激痛が走った。
「セバスチャン、何処だ!返事をしろ、セバスチャン!」
シエルが呼べはすぐに自分の元に駆けつけてくれる執事は、何時まで経っても来ない。
(どうなっているんだ・・)
シエルが混乱した頭で周囲の状況を確認していると、丘の麓の方から、馬車の音と人の話し声が聞こえて来た。
「カイト、本当に“ホーの丘”に・・」
「リリー、間違いないって・・」
「それにしても、こんな日に・・」
シエルは護身用の銃を取り出すと、話し声が徐々に近づいて来る事に気づいた。
海斗とリリー、ジェフリーが“ホーの丘”へと向かうと、一人の少年が自分達に銃口を向けている事に気づいた。
「誰だ、お前達!?」
「お前こそ誰だ?俺はジェフリー=ロックフォード。坊主、その身なりからして、貴族の子供か何かか?」
「僕は、シエル=ファントムハイヴ伯爵だ。」
「ファントムハイヴ伯爵・・ファントムハイヴ伯爵家の者か?」
自分の隣に立っていた恋人がそう呟いたのを、海斗は聞き逃さなかった。
「ジェフリー、どうしたの?」
「お~いジェフリー、どうした・・ってあれ、このガキは・・」
海斗達に遅れてやって来たのは、キットだった。
「キット、そいつを知っているのか?」
「知っているも何も、この子は失踪中のファントムハイヴ伯爵家の双子の片割れじゃないか!」
「えっ・・」
海斗は、思わず目の前に居る少年の服装を見た。
シルクハットに上等な外出着、そして靴下留めと、ヒールのある編み上げブーツ。

どう見ても、16世紀の服装ではない。

「どうしたの、カイト?」
「リリー、もしかしたらあの子、俺達と同じかもしれない。」
「え?」
海斗がリリーに、少年の服装を見て、彼が16世紀の人間ではなく、19世紀の人間なのではないかという事を話した。
「カイト、どうした?」
ジェフリーとキットが謎の少年と睨み合っていると、海斗が自分達の方へと近づいて来た事に気づいた。
「ねぇジェフリー、この子はきっと俺と同じなんだと思う。」
「そりゃ一体どういう事だ?」
「上手く言えないけれど・・“ホーの丘”にこの子が居るのなら・・」
「もしかして、この子も“妖精”に連れて来られたというのか?」
「“妖精”だと?」
海斗の言葉を聞いたシエルは、驚きの余り目を見開いた。
「ジェフリー、この子怪我をしているし、うちの店まで連れて行きましょう。」
リリーはそう言うとシエルの右足に触れようとしたが、シエルに邪険に手を払われた。
「僕に触るな!」
「落ち着いて、わたしはあなたを助けようとしているの。」
「助けなんて、要らない・・」
シエルはそう言って呻くと、そのまま意識を失った。
「右足は骨折しているわね。」
「“ホーの丘”でタイムスリップした時に、骨折したんじゃない?」
「やっぱり、この子の服は、この時代のものじゃないわね。ブーツはオーダーメイドだし、杖もあなたが言う通り、19世紀のものね、カイト。」
“ホーの丘”から気絶したシエルを馬車で白鹿亭へと運んだリリーは、シエルの右足の治療をしながら、海斗と話をしていた。
「やっぱり、この子の服装は薄着だから、向こうの世界は夏だったんだろうね。」
「キットとジェフリーが話していた“ファントムハイヴ伯爵家”の事が気になるなぁ。」
「後でジェフリー達に聞いてみたら?」
「そうする。」
シエルが白鹿亭のベッドの上で目を覚ますと、丁度部屋に“ホーの丘”で見た女性が入って来た。
「あら、起きたのね。」
「ここは?」
「わたしの店よ。こんな所にあなたみたいな子供を連れて来るのはいけない事だけど、緊急事態だから仕方ないわね。」
そう言いながら女性―リリーがシエルに手渡したのは、鶏肉とハーブが入ったスープだった。
いつもセバスチャンが作ってくれた料理とは比べ物にならない程の粗末なものだったが、シエルは空腹だったのでそのスープを平らげた。
「今は、何年だ?」
「1589年1月よ。それがどうかした?」
「そんな、嘘だろう・・」
コメント

黒衣の聖母 3

2025年01月09日 | 薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説「黒衣の聖母」

素材表紙は湯弐さんからお借りしました。

「天上の愛地上の恋」「薔薇王の葬列」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。


「ハイリンヒ様、おはようございます。」
「ハイリンヒ様、お召し替えをなさいませんと。」
翌朝、女官達がそう言いながらハイリンヒの部屋に入ると、そこには寝台の上で互いの手を握り合いながら眠っているリヒャルトとハイリンヒの姿があった。
「リヒャルト、一緒に朝ご飯食べようよ!」
「いいえ、俺は・・」
「ハイリンヒ様がそう仰っておられるのですから、遠慮するものではありませんよ。」
「は、はい・・」
ハンガリー人の女官からそう言われ、リヒャルトはその日の朝からハイリンヒと食事を共にするようになった。
「ねぇ、リヒャルトはどうして左右の目の色が違うの?」
「これは生まれつきなので、何故左右の目の色が違うのかは俺にもわかりません。それよりもあの白い犬は・・」
「あの子、犬じゃなくて狼なんだ。昔ここへ来た時、森で怪我をして倒れているのを見つけて世話をしていたら、いつの間にか僕に懐いちゃったんだ。」
「そうなのですか。名前はお付けになられたのですか?」
「ううん、まだ付けていないんだ。これといった名前が思い浮かばなくて。リヒャルト、僕と一緒にこの子の名前を考えてくれない?」
「わかりました。」
リヒャルトがそう言った時、窓の外から賑やかな笑い声が聞えて来た。
ふと窓の外を見ると、邸宅の中庭ではルドルフとアルフレートが、ルドルフの愛犬・アレクサンダーと戯れていた。
「どうやら仲直りできたようですね、あの二人。」
「そうだね。」
イシュルで休暇を過ごした皇帝一家は、王宮があるウィーンへと戻った。
「リヒャルト、どうしてもメルクに行っちゃうの?」
「休暇の時には必ずこちらへ帰って来ますから、どうか聞き分けてください。」
「嫌だよ、ずっと一緒に居たのに、独りぼっちになるなんて耐えられないよ!」
「ハイリンヒ様・・」
リヒャルトとアルフレートがメルクへと発つ前日の夜、ハイリンヒはリヒャルトに駄々を捏ね、リヒャルトを困らせた。
「俺がメルクに行っても、アマリリスが居るでしょう?」
「そうだけど、アマリリスは言葉が話せないよ。ねぇ、毎日僕に手紙をくれる?」
「ええ、毎日手紙を書きますよ。だから、俺のメルク行きを許していただけますね?」
「わかったよ・・」
リヒャルトはそう言ってハイリンヒと毎日手紙を出すという約束をかわし、リヒャルトはアルフレートと共にメルクへと向かった。
メルクでの集団生活は厳格な規則などがあり、最初は慣れなかったものの、それぞれ友人ができ、二人は次第にメルクでの生活に慣れていった。
「それ、ハイリンヒ様への手紙かい?」
「ああ。毎日手紙を出さないとハイリンヒ様は駄々を捏ねてしまわれるから・・」
リヒャルトが図書館でハイリンヒへの手紙をしたためていると、そこへ友人のマリウスがやって来た。
「そういえばさっき、君の幼馴染も手紙を書いていたよ。きっとその相手はルドルフ様だと思うなぁ。」
「どうして、そう思うんだ?」
「だってあいつ、ルドルフ様の話ばかりするんだもの。まるで恋人の話をしているかのようだったぜ、あいつ。」
「恋人、ねぇ・・」

一時期険悪な関係だったルドルフとアルフレートだったが、最近二人は毎日手紙のやり取りをしたりしている。

「それで、お前はハイリンヒ様とどういう関係なんだ?」
「別に、ただの友人同士だが・・」
「嘘つけ。ハイリンヒ様への手紙を書いている時のお前の顔、まるで恋人へ向けて手紙を書いているような顔だったぜ。」
「そんな・・」

リヒャルトは友人からそんな指摘を受けて頬を赤く染めながら、ハイリンヒ宛の手紙を封筒に入れた。

「アマリリス、リヒャルトから手紙が届いたよ!」
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黒衣の聖母 2

2025年01月09日 | 薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説「黒衣の聖母」

素材表紙は湯弐さんからお借りしました。

「天上の愛地上の恋」「薔薇王の葬列」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。


そう言ってリヒャルトを迎えたハイリンヒの部屋は、美しい調度品や家具で飾られており、部屋の中央には真紅のチンツ張りのソファが置かれてあった。

「ハイリンヒ様にはご機嫌麗しく・・」
「そんな堅苦しい挨拶はしないで!それに僕を“様”づけで呼ぶのを止めて。僕は、君と友達になりたいんだ!」
「俺と、友達に?ですが、俺は平民で・・」
「友達になるのに、身分なんて関係ないよ!ねぇ、ここに一緒に座って、お互いの事を話そうよ!」
「は、はい・・」
ハイリンヒに勧められ、リヒャルトは恐る恐るソファの上に座った。
そこはふわふわで座り心地が良く、こんな高価なソファに座る事も、見た事もリヒャルトは今まで一度もなかった。
「君は、あの子・・アルフレートって言ったっけ?あの子と一緒の村出身なの?」
「はい。俺は赤ん坊の時に親から捨てられて、村の神父様が俺の事を育ててくださいました。アルフレートと俺は幼馴染で、アルフレートの両親には彼らが流行病で亡くなるまで、彼らは俺の事を本当の子供のように接してくれました。でも、小さい貧しい村で、俺達のような育ち盛りの子供二人を抱えた神父様の心情を慮ると、俺達はウィーンへ来て良かったのだと・・」
「そう、君は色々と辛い目に遭ったんだね。リヒャルト、僕の事を何不自由なく育った、甘えん坊の貴族の子と思っているの?」
「それは・・」
「そう思ってもいいよ。でも僕は、この国の皇太子でありながら病弱で、勉強もスポーツもゲームも、弟のルドルフと違って何も出来ないんだ。だからゾフィーお祖母様も、お父様もルドルフの方ばかり可愛がるんだ・・」
そう言ったハイリンヒの蒼い瞳が、涙で潤んでいる事にリヒャルトは気づいた。
「ごめんね、暗い話をしちゃって。ねぇ、リヒャルトは何が得意なの?僕は絵を描いたり、物語を書いたりするのが好きなんだ。」
ハイリンヒはソファから立ち上がると、窓際に置かれている机の上から一冊のスケッチブックを取った。
「見ても、宜しいでしょうか?」
「うん、いいよ。」
リヒャルトがスケッチブックを開くと、そこにはシュタルンベルク湖の美しい青と翠が鮮やかに描かれ、その中央に白い犬と戯れているハイリンヒの姿が描かれていた。
「とてもお上手ですね。」
「ありがとう。」
「俺は刺繍や裁縫、それに料理をするのが好きで、良く村の子供達からはそんな女みたいな事をするなと揶揄われました。でも教会には女手が居なかったので、俺が神父様の代わりに家事をこなすしかなかったんです。」
「そうなんだ。ねぇリヒャルト、君はお菓子も作れるの?」
「はい。何度か村の教会の集まりでパイを焼いたことがあって、それが村の大人達に喜ばれた事があります。」
「そうなんだ!じゃぁ今度、君が作ったパイが食べたいな!」
「はい・・」
屈託なく笑うハイリンヒの姿を見たリヒャルトは、彼の笑顔に孤独だった心が少し癒された。
「ハイリンヒ様、もうすぐラテン語の授業ですよ。」
「わかったよ。じゃぁまた後でね、リヒャルト!」
「ではこれで失礼いたします、ハイリンヒ様。」
ラテン語教師と入れ違いにハイリンヒの部屋から出たリヒャルトは、パイのレシピを調べる為、ホーフブルク宮殿内にある王宮図書館へと向かった。
そこは約740万冊もの蔵書を収蔵し、尚且つ美しい天井のフレスコ画や、大理石の彫像に囲まれた世界で一番美しい図書館と謳われている場所であった。
広大な図書館内で何とか自力で菓子作りの本を何冊か持って来たリヒャルトがそれに目を通そうと長テーブルの前に腰を下ろした時、丁度マイヤー司祭の手伝いを終えたばかりのアルフレートが図書館に入って来た。
「アルフレート、もうマイヤー司祭の手伝いは終わったのか?」
「うん。リヒャルト、どうしてお菓子作りの本を読んでいるの?」
「先ほどハイリンヒ様にお会いして、菓子作りが得意だと言ったら、今度俺のパイを食べたいとおっしゃったから、今色々とパイのレシピをこの本から調べている所なんだ。」
「ハイリンヒ様はルドルフ様と同じ顔をしていらっしゃるけれど、ハイリンヒ様の方がルドルフ様よりもお優しそうだね。」
「そういえば、お前はルドルフ様の遊び相手として暮らしているんだったな。ルドルフ様はどんな性格をされているんだ?」
「う~ん、気難しい性格をしていらっしゃるし、僕より3つも年下の割には陛下と政治のお話なんかをされているよ。どうしてそんな事が知りたいの、リヒャルト?」
「いや、ハイリンヒ様の弟君だから、少し知りたくてな。それにしても、貴族の生活というのは堅苦しいことだらけだな。故郷には余りいい思い出は全くないが、時々のどかな時間が流れるあそこへ戻りたい。あそこなら、人の顔色を窺ったり、口煩い女官達に監視されたりする事もないからな。」
「そうだね・・でも、ここでなら多くの事が学べる。父さんが昔、言っていたよ、“金銀財宝は人に奪われるが、学んだことは決して奪われない。何よりもそれはお前自身の財産となる”って。」
「お前の父さん達は、村でつまはじきにされていた俺に唯一優しくしてくれた。俺がお前とここで多くの事を学び、それを身に付ける姿を天国から二人が見守ってくださるのかもしれないな。」
「そうだね。これからお互いに頑張ろう、リヒャルト。」
「ああ。」
リヒャルトとアルフレートが誓いの握手を交わしたとき、図書館に皇妃付きの女官が入って来た。
「二人とも、ここに居たのですね。わたくしと共について来なさい、皇妃様があなた方をお呼びですよ。」
「は、はい!」
「わかりました、すぐに参ります。」
女官と共に二人が向かったのは、皇帝一家が集まっている部屋だった。
「皇妃様、二人をお連れ致しました。」
「ご苦労様、アデーレ。」
「皇妃様、ご機嫌麗しく・・」
皇妃の玲瓏な声が頭上から響いて来たので、アルフレートは慌てて彼女にそう挨拶すると、彼女は鈴を転がすかのような声で笑った。
「まぁ、そんな堅苦しい挨拶など要らないわ、同じバイエルン出身ではないの。さぁ、顔を上げなさい、二人とも。」
「はい・・」
アルフレートとリヒャルトが恐る恐る俯いていた顔を上げると、そこには欧州随一の美女と謳われた、オーストリア=ハンガリー帝国皇妃・エリザベートの姿があった。
「貴方達が、ルドルフとハイリンヒがわざわざバイエルンから連れて来たお友達ね?」
「はい、皇妃様。僕はアルフレート=フェリックスといいます。こちらは、僕の友人のリヒャルトです。」
「初めまして皇妃様、リヒャルト=プレトリウスと申します、以後お見知りおきを。」
「リヒャルト、貴方左右の瞳の色が違うのね?前髪で隠している左目を少しわたしに見せて頂戴。」
「はい・・」
リヒャルトがいつも前髪で隠している左目をエリザベートに見せると、彼女はほぅっと感嘆の溜息を吐いた。
「綺麗な銀色ね。まるで美しく磨き上げられたダイヤモンドみたいだわ。」
「有り難き幸せにございます、皇妃様。」
「そうだわ、この子は末っ子のマリア=ヴァレリーよ。この子達とも仲良くしてあげてね。」
そう言うとエリザベートは、揺り籠の中で眠っている赤ん坊を二人に見せた。
「皇妃様、もうお発ちになりませんと。」
「ええ、わかったわ。フランツ、わたしはこれからハンガリーへと向かうから、子供達の事を宜しくお願いしますわね。」
「シシィ、もう行ってしまうのかい?」
「そんなに寂しがらないでくださいな。一度ゲデレーにいらして。ジゼル、ルドルフ達の事を頼むわね。」
「はい、お母様。」
「お母様、僕もゲデレーに行っては駄目ですか?」
「まぁハイリンヒ、我儘を言ってはいけないわ。今度沢山貴方にお土産を買って来てあげるから、先生達の言う事を良く聞きなさいね。」
「わかりました、お気をつけて、お母様。」
ハイリンヒとルドルフ、そして双子の姉である皇女・ジゼルとエリザベートはそれぞれ別れの抱擁を交わした後、アルフレートの額にキスをして彼にこう言った。
「メルクへ行って沢山お勉強をしていらっしゃい、アルフレート、リヒャルト。わたしは貴方のような賢い子は大好きよ。」
エリザベートが去った後、ルドルフが憎悪の眼差しをアルフレートに向けている事にリヒャルトは気づいた。
アルフレートが突然外へと飛び出して行ったルドルフの後を慌てて追った姿を見たリヒャルトは、庭園で二人が言い争っている姿を見た。
激昂したルドルフが、手に持っていた乗馬用の鞭でアルフレートの頬を強かに打った。
「君はとっくに僕の共犯者だ!」
そうアルフレートに言い放ったルドルフの美しい顔は、涙に濡れていた。
「アルフレート、大丈夫か?」
「うん、大丈夫・・」
「マイヤー司祭様の所へ一緒に行こう。傷の手当てをしないと。」
マイヤー司祭の元へアルフレートをリヒャルトが連れて行くと、マイヤー司祭から傷の手当てを受けたアルフレートが突然泣き出した。
「どうしたんだ、アルフレート?そんなに傷が痛むのかね?」
左頬にガーゼと絆創膏を貼られても、アルフレートの美貌はそれで衰えることはなかった。
「アルフレート、傷は大丈夫なの?」
「はい、ジゼル様。ただマイヤー司祭様から、傷跡が残ると言われました。」
「まぁ、そんな綺麗な顔をしているのに可哀想だわ。ルドルフを後できつく叱ってやらないと。」
その日、ルドルフの姿を二人は見ることはなかった。
それから暫く経ち、イシュルへと向かう皇帝一家と共に、二人もイシュルへと向かった。
夕食後、ルドルフがアルフレートを連れて外出したのを見送ったリヒャルトが厨房で作ったパイを持ってハイリンヒの部屋へと向かい、ドアをノックすると、中からハイリンヒの愛犬が爪でドアを引っ掻く音が聞こえて来た。
「ハイリンヒ様?」
嫌な予感がしてドアを開けて部屋の中に入ると、そこには寝台で横たわり、じっと発作に耐えているハイリンヒの姿があった。
「今、人を呼びます。」
「やめて、呼ばないで・・誰にも、こんな姿を見せたくないんだ。お願いだから、放っておいて・・」
「わかりました。では俺が、あなた様の手を一晩中握ってあなた様のお傍に居ます。」
リヒャルトはそう言うと、ハイリンヒの手を優しく握った。
「有難うリヒャルト、君は僕の天使だ。」
「朝になったら、一緒にパイを食べましょうね、ハイリンヒ様。それまで、ゆっくりと休んでください。」

その夜は一晩中、リヒャルトとハイリンヒは互いの手を握り合ったまま眠った。
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