夢。
古い欧州の街並みの隅にそれは身体を横たえていた。紅とビリジアンと白に塗り分けられた、マイクロバスほどの小さな車体は、城壁に囲まれた細い路地を走らせるには都合よかった。
何故か私がそいつのオーナーで、気の合う仲間で時々磨きに来ていたのだ。
小さな車庫の中で俺達四人はいつものように取り留めなく駄弁っていたのだが、どこぞの玉木代表にそっくりな友人aは「おい、ちょっとこいつ走らせようぜ!」他のふたりもすぐ賛成。おれは慌てて「こいつ廃車なんだからだめだよ、うん」バレたら大変だ。大目玉喰らうのはこちらだからな。
止める間もなく電車はするすると表へ走り出した。なんせ整備がいいから朝飯前だな。
片側がけの木張りクロスシートを軋ませながら、ゆっくりと石貼りの軌道を歩き出した。
裏通りだから人影もクルマも疎ら。友人bも無理せず1ノッチのまま。たぶん今飛び出してシャッターを切ったなら、素晴らしい写真が撮れるんだろうなと考えた。
その瞬間友人bは「さて悪戯はここまでだな」と電車を止めて、ゆっくり元来た軌道を戻り始めた。もうちょい先まで行こうよ!と言いたい気持ちを抑え、幸せ気分にニヤニヤが抑えられなかった。
車庫に戻ってそっと扉を閉め、いつもより丁寧にたっぷりと磨き上げた俺。うむうむ。