宝塚新理事長が「いじめはあったのでしょう」と吐露 生徒は「ご遺族に誠意を」と要求も「今回認めたら全てを認めることに」
宝塚新理事長が「いじめはあったのでしょう」と吐露 生徒は「ご遺族に誠意を」と要求も「今回認めたら全てを認めることに」
11/25(土) 10:58配信
デイリー新潮
遺族側に「証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい」
宝塚大劇場
11/25(土) 10:58配信
デイリー新潮
遺族側に「証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい」
宝塚大劇場
>「劇団の会見で一番問題だったのは“週刊誌報道が故人に精神的プレッシャーを与えた”とした点です。工場長のせいにしたビッグモーター社長と同じで、私は他に責任を分ける『他分(たわけ)論法』と呼んでいます」
現役団員Aさん(25)の自殺を受け、宝塚歌劇団は11月14日に調査結果を公表。が、そこにはきわめて不誠実な“演出”が施されていた。実は会見直後、劇団幹部は耳を疑う言葉を口にしていたのである。
【写真を見る】「このままではダメ!」とパワハラ廃止を訴えた男役トップ・彩風咲奈
***
居並ぶ面々からは、将来ある女優が自死を余儀なくされたという厳然たる事実を真摯に受け止める様子は、微塵もうかがえなかった。
宙(そら)組娘役のAさんが自宅マンションで飛び降り自殺を遂げたのは9月30日。彼女は一昨年8月、宙組の上級生であるMからヘアアイロンを額に押し付けられてやけどを負ったとされ、これが今年2月「週刊文春」で報じられる。以来、複数の先輩幹部から罵詈雑言を浴びせられるなど、度重なるパワハラを受けていたというのだ。
今月14日の記者会見で劇団は、遺族側が主張するいじめやパワハラについて、
〈ヘアアイロンをあてたのは故意ではなかった〉
〈いじめやハラスメントは確認できなかった〉
と、外部弁護士9名による調査結果を淡々と列挙し、さらに遺族側が寄せた反論に対しても、
〈証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい〉
辞任する木場健之(こばけんし)理事長に代わって12月1日から劇団トップに就く村上浩爾(こうじ)専務理事は、そう言い放ったのである。
「今回の件を認めれば、これまで起きていた全てを認めることになる」
が、こうした会見もまた“お芝居”だったというほかない。さる宝塚関係者が明かす。
「会見から3日後の17日、中止となっていた大劇場での雪組公演が12月1日から実施されるとの発表がありましたが、その前日16日には雪組生が集まり、村上新理事長や組プロデューサーとの話し合いの場が設けられました」
そこでは、
「男役トップの彩風咲奈(あやかぜさきな・93期)が、『このままではお客様の前に立てません』と切り出し、あわせて“指導”と称した従来のパワハラ的慣習を廃止するよう求めたのです」
男役2番手の朝美絢(あさみじゅん・95期)もこれに呼応し、他の生徒たちも「(Aさんの)ご遺族に誠意を示してほしい」などと口々に訴えたというのだが、
「村上新理事長ら幹部は、『法的にはパワハラに該当しませんが、いじめはあったのでしょう。一昨日の会見では言いませんでしたけど』と口を開いたのです」
にわかに信じ難い発言であり、その理由については、
「『皆さんは歌劇団にいる限り、誰もが被害者であり、また加害者にもなり得る』とのことで、『今回の件を認めれば、これまで起きていた全てを認めることになる。宙組の上級生だけでなく、生徒全員を守るための判断だった』というのです」
この日、数時間に及んだ話し合いの終盤では、
「村上さんは『それでは皆さん、12月の公演から頑張ってください!』と、何事もなかったかのように呼びかけ、唖然とする生徒たちも多かったといいます」
現役団員Aさん(25)の自殺を受け、宝塚歌劇団は11月14日に調査結果を公表。が、そこにはきわめて不誠実な“演出”が施されていた。実は会見直後、劇団幹部は耳を疑う言葉を口にしていたのである。
【写真を見る】「このままではダメ!」とパワハラ廃止を訴えた男役トップ・彩風咲奈
***
居並ぶ面々からは、将来ある女優が自死を余儀なくされたという厳然たる事実を真摯に受け止める様子は、微塵もうかがえなかった。
宙(そら)組娘役のAさんが自宅マンションで飛び降り自殺を遂げたのは9月30日。彼女は一昨年8月、宙組の上級生であるMからヘアアイロンを額に押し付けられてやけどを負ったとされ、これが今年2月「週刊文春」で報じられる。以来、複数の先輩幹部から罵詈雑言を浴びせられるなど、度重なるパワハラを受けていたというのだ。
今月14日の記者会見で劇団は、遺族側が主張するいじめやパワハラについて、
〈ヘアアイロンをあてたのは故意ではなかった〉
〈いじめやハラスメントは確認できなかった〉
と、外部弁護士9名による調査結果を淡々と列挙し、さらに遺族側が寄せた反論に対しても、
〈証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい〉
辞任する木場健之(こばけんし)理事長に代わって12月1日から劇団トップに就く村上浩爾(こうじ)専務理事は、そう言い放ったのである。
「今回の件を認めれば、これまで起きていた全てを認めることになる」
が、こうした会見もまた“お芝居”だったというほかない。さる宝塚関係者が明かす。
「会見から3日後の17日、中止となっていた大劇場での雪組公演が12月1日から実施されるとの発表がありましたが、その前日16日には雪組生が集まり、村上新理事長や組プロデューサーとの話し合いの場が設けられました」
そこでは、
「男役トップの彩風咲奈(あやかぜさきな・93期)が、『このままではお客様の前に立てません』と切り出し、あわせて“指導”と称した従来のパワハラ的慣習を廃止するよう求めたのです」
男役2番手の朝美絢(あさみじゅん・95期)もこれに呼応し、他の生徒たちも「(Aさんの)ご遺族に誠意を示してほしい」などと口々に訴えたというのだが、
「村上新理事長ら幹部は、『法的にはパワハラに該当しませんが、いじめはあったのでしょう。一昨日の会見では言いませんでしたけど』と口を開いたのです」
にわかに信じ難い発言であり、その理由については、
「『皆さんは歌劇団にいる限り、誰もが被害者であり、また加害者にもなり得る』とのことで、『今回の件を認めれば、これまで起きていた全てを認めることになる。宙組の上級生だけでなく、生徒全員を守るための判断だった』というのです」
この日、数時間に及んだ話し合いの終盤では、
「村上さんは『それでは皆さん、12月の公演から頑張ってください!』と、何事もなかったかのように呼びかけ、唖然とする生徒たちも多かったといいます」
トップスター以下、組を挙げて叫んだ切なる思いも、これでは聞き届けられそうにない。
「やりたい人だけでやればいいじゃない」
社会部デスクが言う。
「Aさんは生前、複数の先輩団員らにハラスメントを受けていたと報じられています。『マインドが足りない』『うそつき野郎』などとAさんをののしったといい、やけどの一件とは別に、遺族の弁護団は11月10日に開いた会見で、こうした言動をパワハラだと指摘したのです」
一連の“主犯”と目されているのは、先輩のS。彼女の言動は、とりわけ下級生に恐れられてきたという。
「入団7年目のAさんは(1~7年目による)新人公演の『長の期』でしたが、娘役の彼女は男役については詳しく分からない。そこに追い討ちをかけるように、Sからは『下級生はどうなっているんだ』などと、責任を一身に押し付けられて詰(なじ)られることもしばしばあったというのです」
そう話すのは、さる現役劇団員の保護者である。
「そのSさんは現在“パワハラなんてなかったのだから”と言わんばかりに、『PAGAD』東京公演に向けて練習しています。トップスター就任後、東京宝塚劇場でのお披露目となる舞台でもあり、会見前には下級生に対して『やりたい人だけでやればいいじゃない』と呼びかけたり『頑張ろう』とガッツポーズで鼓舞したり、張り切っていたといいます」
「このまま東京でできるのかな」「休演しようか」
が、当初11月25日に始まるはずだった公演は、12月14日まで中止に。
「下級生たちは現在、とても舞台に立てる心の余裕はなく、『Sさんはどんな神経してるんだ』『このまま東京でできるのかな』『休演しようか』と、口々に不安を漏らしていると聞きました」(同)
先のデスクは、
「遺族の弁護団は、劇団に対して再検証とともに面談を求めています。一方で劇団は目下、過重労働や受け継がれてきた慣習などの改善を検討すべく、宙組のみならず五つの組と専科の全生徒と現場スタッフへの聞き取りを進めています」
もっとも、会見で村上専務理事は、
〈全てがおかしいとか、全て変えないといけないとは思っていない〉
と述べ、また親会社である阪急阪神ホールディングスの角(すみ)和夫会長は本誌(「週刊新潮」)に、
「向こう(遺族側)の弁護士が言ったのが、すべて正しいとは思っていません」
そう言い切っていたのだ。
社会部デスクが言う。
「Aさんは生前、複数の先輩団員らにハラスメントを受けていたと報じられています。『マインドが足りない』『うそつき野郎』などとAさんをののしったといい、やけどの一件とは別に、遺族の弁護団は11月10日に開いた会見で、こうした言動をパワハラだと指摘したのです」
一連の“主犯”と目されているのは、先輩のS。彼女の言動は、とりわけ下級生に恐れられてきたという。
「入団7年目のAさんは(1~7年目による)新人公演の『長の期』でしたが、娘役の彼女は男役については詳しく分からない。そこに追い討ちをかけるように、Sからは『下級生はどうなっているんだ』などと、責任を一身に押し付けられて詰(なじ)られることもしばしばあったというのです」
そう話すのは、さる現役劇団員の保護者である。
「そのSさんは現在“パワハラなんてなかったのだから”と言わんばかりに、『PAGAD』東京公演に向けて練習しています。トップスター就任後、東京宝塚劇場でのお披露目となる舞台でもあり、会見前には下級生に対して『やりたい人だけでやればいいじゃない』と呼びかけたり『頑張ろう』とガッツポーズで鼓舞したり、張り切っていたといいます」
「このまま東京でできるのかな」「休演しようか」
が、当初11月25日に始まるはずだった公演は、12月14日まで中止に。
「下級生たちは現在、とても舞台に立てる心の余裕はなく、『Sさんはどんな神経してるんだ』『このまま東京でできるのかな』『休演しようか』と、口々に不安を漏らしていると聞きました」(同)
先のデスクは、
「遺族の弁護団は、劇団に対して再検証とともに面談を求めています。一方で劇団は目下、過重労働や受け継がれてきた慣習などの改善を検討すべく、宙組のみならず五つの組と専科の全生徒と現場スタッフへの聞き取りを進めています」
もっとも、会見で村上専務理事は、
〈全てがおかしいとか、全て変えないといけないとは思っていない〉
と述べ、また親会社である阪急阪神ホールディングスの角(すみ)和夫会長は本誌(「週刊新潮」)に、
「向こう(遺族側)の弁護士が言ったのが、すべて正しいとは思っていません」
そう言い切っていたのだ。
「ビッグモーター社長と同じ」
遺族側代理人の一人は、かつて電通過労死事件で労災認定を勝ち取った川人博(かわひとひろし)弁護士。また、亡くなる直前のAさんの総労働時間は月437時間で、法定労働時間からの超過分は277時間。ちなみに過労自殺認定は160時間以上が目安だという。
株式会社リスク・ヘッジ取締役の田中辰巳氏は、
「川人弁護士は、過労死を中心とした労働問題のエキスパートで、常に労働基準監督署を動かそうと行政に働きかけていきます。穏やかながらシャープな物言いで会見もうまく、企業にとっては手ごわい相手でしょう」
そう前置きしながら、
「劇団の会見で一番問題だったのは“週刊誌報道が故人に精神的プレッシャーを与えた”とした点です。工場長のせいにしたビッグモーター社長と同じで、私は他に責任を分ける『他分(たわけ)論法』と呼んでいます」
そもそも第三者委員会による調査とは、
「当該企業が対価を支払って依頼するもので、警察や労基署のようなプロの検証ではありません。不都合な結果は真摯に受け止め、今回のような『いじめはなかった』という好都合な結果は参考程度にとどめなければならないものを、金科玉条のように言い切ってしまったのだから大失敗です。結果的に労基署の調査を大きく引き寄せることになったと思います」
〈素晴らしい舞台は暴力と搾取の上に成り立ってきました〉
実際に、日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士は、
「過労自殺が認定される月の超過160時間をさらに100時間以上超えるとは、考えられない労働です」
そうあきれつつ、
「歌劇団の労働者性は明らかになっておらず、労基署の調査対象になっていなかったのでしょう。パワハラがあれば労災は認められやすくなりますが、今回の場合は労働時間だけで十分クリアできると思います」
宝塚では5年目までは歌劇団社員、6年目からは個人事業主として業務委託と、契約方法が変わるのだが、
「今回の故人は業務委託契約とはいえ、使用者の強い指揮監督の下にあったので労働者と見なされると思います。労災認定された後は損害賠償請求ができ、慰謝料と逸失利益が支払われることになるでしょう」(同)
宝塚OGの東小雪さんは本誌に、古巣の体質をこう喝破していた。
〈あの素晴らしい舞台は暴力と搾取の上に成り立ってきました〉
そんな歌劇団ならぬ「カルト団」には、解体的出直しが不可避である。
■相談窓口
・日本いのちの電話連盟
電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/
・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/
・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570・064・556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html
・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jscp.or.jp/soudan/index.html
「週刊新潮」2023年11月30日号 掲載
遺族側代理人の一人は、かつて電通過労死事件で労災認定を勝ち取った川人博(かわひとひろし)弁護士。また、亡くなる直前のAさんの総労働時間は月437時間で、法定労働時間からの超過分は277時間。ちなみに過労自殺認定は160時間以上が目安だという。
株式会社リスク・ヘッジ取締役の田中辰巳氏は、
「川人弁護士は、過労死を中心とした労働問題のエキスパートで、常に労働基準監督署を動かそうと行政に働きかけていきます。穏やかながらシャープな物言いで会見もうまく、企業にとっては手ごわい相手でしょう」
そう前置きしながら、
「劇団の会見で一番問題だったのは“週刊誌報道が故人に精神的プレッシャーを与えた”とした点です。工場長のせいにしたビッグモーター社長と同じで、私は他に責任を分ける『他分(たわけ)論法』と呼んでいます」
そもそも第三者委員会による調査とは、
「当該企業が対価を支払って依頼するもので、警察や労基署のようなプロの検証ではありません。不都合な結果は真摯に受け止め、今回のような『いじめはなかった』という好都合な結果は参考程度にとどめなければならないものを、金科玉条のように言い切ってしまったのだから大失敗です。結果的に労基署の調査を大きく引き寄せることになったと思います」
〈素晴らしい舞台は暴力と搾取の上に成り立ってきました〉
実際に、日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士は、
「過労自殺が認定される月の超過160時間をさらに100時間以上超えるとは、考えられない労働です」
そうあきれつつ、
「歌劇団の労働者性は明らかになっておらず、労基署の調査対象になっていなかったのでしょう。パワハラがあれば労災は認められやすくなりますが、今回の場合は労働時間だけで十分クリアできると思います」
宝塚では5年目までは歌劇団社員、6年目からは個人事業主として業務委託と、契約方法が変わるのだが、
「今回の故人は業務委託契約とはいえ、使用者の強い指揮監督の下にあったので労働者と見なされると思います。労災認定された後は損害賠償請求ができ、慰謝料と逸失利益が支払われることになるでしょう」(同)
宝塚OGの東小雪さんは本誌に、古巣の体質をこう喝破していた。
〈あの素晴らしい舞台は暴力と搾取の上に成り立ってきました〉
そんな歌劇団ならぬ「カルト団」には、解体的出直しが不可避である。
■相談窓口
・日本いのちの電話連盟
電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/
・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/
・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570・064・556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html
・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jscp.or.jp/soudan/index.html
「週刊新潮」2023年11月30日号 掲載