
高齢者は運転免許を返納したほうがいいのか。精神科医の和田秀樹さんは「高齢者が特に事故を起こしやすいというデータはなく、免許返納を求める根拠はない。高齢者から免許を奪うことは老いを一気に加速させ、生きる楽しみも奪ってしまうことになる」という――。
【この記事の画像を見る】 ※本稿は、和田秀樹『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■高齢者にとって免許更新のハードルは高くなっている
70歳を過ぎると、運転免許の更新のたびに高齢者講習を受けなければいけません。
74歳までの前期高齢者で普通自動車免許所持の方は実車ありの2時間の講習ですが、75歳を過ぎた後期高齢者になると、この講習にくわえ、運転技能検査と認知機能検査が必要になります。
認知機能検査ではっきりと認知機能の低下が認められれば医師の診断書の提出や臨時適性検査を義務付けられ、そこでもし認知症と判断されれば本人がいくら希望しても免許は取り消しあるいは停止となります。
ところが現状はどうかといえば、まず高齢者講習は居住地に近い自動車教習所か試験場で受けることになります。膨大な層をなす団塊世代が該当しますから、この予約がなかなか取れません。後期高齢者に義務付けられている認知機能検査も予約制ですが、これもなかなか取れません。
コロナのせいもあって予約人数を制限している教習所もかなり多いといいます。高齢者にとって免許更新のハードルはだんだん高くなっているのです。 ■「返納したほうが…」と弱気になってはいけない
「何だか面倒くさくなってきたな」ついそんな気持ちになってしまう人もいるでしょう。
「あちこちの教習所に電話してもなかなか都合の合う日の予約が取れない。最近はたまにしか運転しないんだから、免許なんかなければないでやっていけるかな」
ふとそう考えてしまいます。
しかも講習通知書の裏面には免許返納の手続きの説明が印刷されてあります。
「そうか、身分証明書代わりの『運転経歴証明書』というのがあるのか」 あれこれ迷ってしまい、家族に「返納したほうが安心だよ」と言われると、つい弱気になってしまうかもしれません。
でも、都会暮らしでふだん運転することがないとしても、ここで弱気になってはいけません。ふと車で長い旅行に出たくなったり、旅行先でレンタカーを借りたりすることもあるからです。自由な時間を楽しみ尽くすというのが、これからの人生のテーマです。そのためにも、移動手段の選択肢を減らしてはいけません。
まして地方に住んでいて、週に1度の買い物や通院に車を使っているような人は、免許返納をしてはいけません。不便になるだけでなく、生活の自由度が大きく低下して、老いを一気に加速させる可能性があるからです。
■ブレーキとアクセルの踏み間違いの原因
高齢者の運転は危険だというイメージがあります。暴走して事故を起こすたびにマスコミに大きく報道されます。高速道路での逆走、交差点や駐車場でのブレーキとアクセルの踏み間違いなど、たしかに不自然で認知症が原因だと思われてしまいます。
でも私は、こういった普段はしないような不自然な事故の原因のほとんどが薬による意識障害ではないかと考えています。というのは、こういう事故を起こした人のほとんどは普段は暴走や逆走をしていないからです。
いっぽう、高齢になると複数の薬を常用している人が多く、代謝も落ちていますから副作用が出やすくなっているのです。低血圧や低血糖、低ナトリウム血症などになると意識障害も起こしやすくなります。
事故を起こしたドライバーがそのときの状況を「よく覚えていない」と言うことがありますが、これも認知症より意識障害を疑っていい証言でしょう。
■「高齢者は事故を起こしやすい」は本当か
そもそも、高齢になれば事故を起こす確率が高くなるというデータなどありません。
警察庁交通局が発表する交通事故状況(平成30年版)によれば、原付以上の免許を持っている人口10万人当たりの年齢層別事故件数でいちばん多いのは16歳から19歳の年齢層でおよそ1500件、次いで20歳から24歳が876件です。 25歳から29歳でも624件です。
高齢者はといえば、70代で500件前後、80代前半でも604件です。その他の年齢層の30代から60代が概ね450件前後ですから高齢者が特別、事故率が高いとは言えません。
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