新型コロナが“あの”外食チェーンを直撃 一方で松屋、スシロー、鳥貴族が順調なワケ
> 海外で人気の豚骨ラーメン「一風堂」などを展開する力の源ホールディングスは、93.3%(103.2%)。銀座、浅草など、やはりインバウンドの比率が高い大都市都心店の売り上げ減の影響が厳しく出ている。
❸・10・2021
新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こす外食への影響はどうなっているのか。2月の既存店売上高を見る限り、丼物・うどん・カレー・ファストフードなどの日常食や、回転寿司・ファミレスといった郊外型の大衆店に関しては、多くのケースで19年2月の実績を上回っている。
【画像で一気に見る】新型コロナに耐えられそうなチェーンと苦戦しそうなチェーン
一方で、宴会需要が高い居酒屋やディナーレストラン、訪日観光客に支えられたインバウンドに強い店、社用族が接待に使う高級店、イベントの中止が相次ぐ大型商業施設にある店、人と人の接触の機会が多いバイキングなどは、概して売り上げが急減し苦戦を強いられている。
自宅でのリモートワークが増加しているため、デリバリーへの需要が高まり、「ウーバー・イーツ」や「出前館」などを使った注文が増えている。これは、従業員や他の客との「非接触性」が高いことも影響している。
上場企業が公表している2月の月次報告だけでなく、店舗訪問や電話によるリサーチ、各種メディアの報道を加味すると、新型コロナの影響はざっと上記のような状況となっている。
苦戦する店舗では「時間を短縮しての営業」「席の間隔を離す」「衛生管理の徹底」「バイキングの一時休止」といった対策を打ち出し、客数の回復に懸命だ。 好調なチェーンは?
まず、日常食を提供している低価格の和風・洋風のファストフードは、軒並み好調。つまり新型コロナの影響を受けていないどころか、売り上げが伸びている。
具体的には、ゼンショーホールディングス「すき家」の2月の既存店売上高は前年同月比110.0%(1月の既存店売上高は前年同月比で101.9%、以下同様に表記)。
松屋フーズホールディングス「松屋」は115.4%(106.4%)、アークランドサービスホールディングス「かつや」は106.3%(104.3%)、トリドールホールディングス「丸亀製麺」は110.0%(108.1%)、日本KFCホールディングス「ケンタッキーフライドチキン」は112.8%(108.5%)、壱番屋「CoCo壱番屋」は102.5%(100.3%)、モスフードサービス「モスバーガー」は115.9%(108.7%)、日本マクドナルドホールディングス「マクドナルド」は114.7%(102.6%)、などとなっている。
苦戦しているチェーンは?
2月の既存店売上高が、前年同月比で下回っているチェーンもある。
テン コーポレーション「天丼 てんや」は98.2%(95.2%)、すかいらーくホールディングス「ガスト」など全業種は99.6%(97.6%)にとどまった。しかし、両社とも、19年10月の消費増税以降の景気後退局面で、2月は1月より売り上げが改善しており、十分に健闘している。
吉野家ホールディングス「吉野家」の97.9%(109.5%)を見ると、確かに2月が大きく落ち込んでいる。しかし、18年と19年の2年連続で、2月にソフトバンクのユーザーを対象に、牛丼(並盛)1杯が無料となるクーポンを提供する大型キャンペーンを実施した影響だという。
こうして見ると、特殊な事情がある吉野家を除き、2月には1月以上に好調に推移したチェーンが大半で、19年2月よりも業績が軒並み上がっているのだ。
この理由について、「閏(うるう)年で2月の営業日が、19年より1日多かった」「新しく天皇誕生日が祝日に加わり、休みの日が増えた」といったように、営業日が有利に働いたと複数のチェーンから聞かれた。
また、ドライブスルーに力を入れている日本マクドナルドに、非接触性の高さからドライブスルーの利用が増えたのかと聞いた。しかし「売り上げが上がった主因は、ごはんバーガーなどの新商品が好評だったから。特にドライブスルーのお客さまの比率が増えたわけではない」(同社・広報)とのことだった。
すき家や松屋などは、2月いっぱい実施された、「PayPay」のポイント還元キャンペーンの効果も顕著に表れている(40%還元)。
すき家は「クリームチーズ アラビアータ牛丼」、松屋は「シュクメルリ鍋」と、季節限定のヒット商品にも恵まれた。
テークアウトが増えた
デリバリーやテークアウトの増加は、19年10月の消費増税以降、外食チェーンに共通する傾向だ。イートインの税率が10%に上がったのに対して、軽減税率が適用されて8%に据え置かれるテークアウトが好まれている。
スシローは19年10月以降、既存店売上高が全て前年同月比で増加している。しかも、平均して8%近い伸び率を示しているが、デリバリーやテークアウトが大きく貢献している。近年不振だったモスバーガーの復調も、同様の理由である。
フードデリバリーを請け負う企業の業績も好調だ。出前館は118%(107%)となっており、2月はの売り上げ増は2割近くに迫った。同社の広報によると、「デリバリーを始めたいという飲食店からの問い合わせが急増しており、これまでの2~3倍となった」と驚いている。
ウーバーが展開するウーバー・イーツでは「拠点やサービスの提供を始める店舗の増加が、売り上げ増に寄与している」(同社・広報)という。既にサービスを始めている店の注文は、19年10月の消費増税以降に増えているが、新型コロナによって顕著に増えたとまでは言えないそうだ。
つまり、日常食のグループは、商品のヒット、ポイント還元効果、デリバリーやテークアウトの好調などが複合的に作用して、新型コロナに負けず、2月を乗り切ったといえるだろう。
低価格でない総合居酒屋は苦戦
居酒屋はどうなっているのか。日常食に近い低価格帯は好調で、おしゃれな中高価格帯や宴会需要の多い総合居酒屋は苦戦している。
2月と1月の既存店売上高は、鳥貴族「鳥貴族」は106.0%(107.5%)、串カツ田中ホールディングス「串カツ田中」は102.9%(117.4%)といったように、主に2~4人程度の小人数のグループを対象に商売をしている低価格の店は比較的順調だ。
東京・新橋に集中出店しており、立ち飲みを主力とする格安居酒屋、魚金グループの店舗をざっと見ても、そんなには顧客が減っているようには見えない。
しかし、自宅で仕事をするリモートワークが広がってくると、特に都心部に集中する居酒屋は、低価格といえども影響を受けてくる可能性が高い。
女性が好むようなおしゃれで中価格帯の居酒屋「KICHIRI」を主力とする、きちりホールディングスは93.6%(99.5%)。前年割れしているだけでなく、2月は1月より6ポイントほど落下している。顧客が不要不急の集まりを避けている傾向が出ている。
居酒屋というよりディナーレストランのカテゴリーに入り、東京都心部を中心に「モンスーンカフェ」「ラ・ボエム」などのおしゃれな店を経営するグローバルダイニングも92.6%(102.0%)となっており、急に客足が鈍っている。
会社の経費で行くような高級店も、多くの企業が不要不急の酒席を自主規制しているため、全般に苦戦を強いられている。グローバルダイニングが経営する「権八」は84.1%(100.9%)と厳しい。権八の西麻布店は小泉純一郎元首相・ブッシュ元米国大統領の会食に使われた
総合居酒屋は、「2月後半から失速した」との状況認識だ。つまり、一般国民に新型コロナに対する危機感が広がってくると共に売り上げが落ちた。20~30年と長く営業している店も多くある総合居酒屋は、「毎日のように1人で来るヘビーな常連客を抱えている強みはあるものの、3月と4月の宴会のキャンセルが相次いでいる」(養老乃瀧)と、頭を抱えている。他のチェーンも同様だ。
3月と4月は、卒業・入学・入社・転勤などといった歓送迎会の季節で、居酒屋(特に総合居酒屋)にとっては書き入れ時。それだけに、新型コロナの収束を待ちわびている。また、花見の宴席も自粛する流れとなっている。
1皿100円を基本とする大手回転寿司も軒並み好調だ。あきんどスシロー「スシロー」は112.0%(107.0%)、くら寿司「無添くら寿司」は112.1%(104.8%)、カッパ・クリエイト「かっぱ寿司」は103.7%(100.3%)、元気寿司「元気寿司」と「魚べい」は110.0%(106.9%)といった具合だ。
低価格の中華も、王将フードサービス「餃子の王将」は111.2%(109.9%)、ハイデイ日高「日高屋」は104.7%(100.8%)と、同様に好調であった。
ファミレスも全般に堅調で、サイゼリヤ「サイゼリヤ」は106.6%(105.1%)、ロイヤルホールディングス「ロイヤルホスト」は103.9%(103.8%)となった。
インバウンドに強い店が苦戦
総合居酒屋と同様に厳しいのは、商業施設や、中国・韓国をはじめとする外国からの訪日観光客に依存している飲食店である。
「住宅街や駅前にある店舗はともかく、銀座、新宿、道頓堀のようなインバウンドのお客さまの比率が高い店は厳しい」(かに道楽)と顔を曇らせる。
海外で人気の豚骨ラーメン「一風堂」などを展開する力の源ホールディングスは、93.3%(103.2%)。銀座、浅草など、やはりインバウンドの比率が高い大都市都心店の売り上げ減の影響が厳しく出ている。
インバウンドで人気の一蘭が新たに提案する店舗で、普段は行列ができる「銀座一蘭」では、客室スペースを半分しか開けておらず、それも埋まらない時間帯があるほどだ。同店は素材を厳選して重箱で提供する「1杯1180円」(税込)の特別なラーメンを出す店として、19年10月のオープン時に話題になった。
浅草のアーケード商店街やその周辺部の人通りは、お店の店員たちに聞くと「普段の2分の1~3分の1以下」と激減。飲食店では、1人か2人の顧客の貸しきり状態になっている店が多くなっている。
比較的顧客が入っているように見えた老舗居酒屋「ニュー浅草」本店でも、普段は2階まで満席なのが、1階のみの営業で空席が目立つほど。宴会のキャンセルも相次いでいるという。
イベントを自粛している商業施設に入居しているレストランも、施設自体の来館数が減って厳しい。近年、商業施設への出店を強化してきたリンガーハットは97.5%(98.1%)と、減少傾向だ。すかいらーくでも、観光地と共にショッピングセンターでの不振が足を引っ張って、売り上げが前年同月の水準に届かなかった。
東証1部上場のクリエイト・レストランツ・ホールディングスは「磯丸水産」のSFPホールディングスの親会社である。一方、商業施設に小じゃれた空間が特徴のカジュアルダイニングを出店してきた。例えば、「イクスピアリ」(千葉県浦安市)に約20店も集中的に出店している。
東京ディズニーリゾートの臨時休業に伴い、その玄関口にあるイクスピアリも、2月29日から3月15日まで臨時休業中だ。さらに延長されるようだと、莫大な減収は避けられないだろう。