ジェネリック使わないと薬代が高くなる!?10月から新制度スタート「先発薬」選ぶと自己負担増
11/16(土) 7:53配信
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日刊スポーツ
10月からジェネリック医薬品を使わないと自己負担が増える新制度が施行された(HANS LUCAS=ロイター)
<ニュースの教科書>
10月から医師が処方する一部の医薬品をめぐり、薬代が増える制度が始まったのをご存じですか? 薬には、先に開発された先発薬と、主に特許が切れた後に製造され、同じ効き目があり価格が安い後発薬(ジェネリック薬)があります。新しい制度で、両方あり、患者の希望で先発薬を選んだ場合、通常の1~3割の患者負担のほかに「特別の料金」を支払うことになりました。医療費が公費で無料になっていることが多い子どもも、この場合は自己負担金が発生します。どんな制度? 問題点は? 薬局の現場の声も聞いてみました。
■現場で制度説明
だれでも、薬局で「ジェネリック薬でも大丈夫ですか?」などと聞かれた経験はあると思います。「最初に開発された方が効きそうだから」とか「後発薬が合うか不安」などの理由で、先発薬を選ぶ人も少なくないようです。
新制度が導入されて約1カ月、現場の様子はどうでしょう。キャリア22年、北海道の調剤薬局に勤務し、医薬品情報サイト「おじさん薬剤師の日記」(https://kusuri-yakuzaishi.com/)で身近な薬関連の情報を分かりやすく発信・解説している男性薬剤師に聞きました。
-患者の反応はいかがですか?
おじさん薬剤師 患者さんの9割が新制度を知らない感じです。基本的に「問診(アンケート)」で「後発薬を希望しない(先発薬希望)」の方を対象に制度を説明しています。どれくらい負担金が増えるの? と質問されます。300円程度、増えるくらいなら「これまで通り先発薬を希望する」方も多いです。処方日数が90日など長期になると1000円以上も増えるケースもよくありますが、この場合は「試しに後発薬を飲んでみる」と選ぶケースが多い印象です。
■「効かない気が…」
-トラブルや困ったことはありませんか?
薬剤師 例えば80歳以上の患者さんで「先生が処方した薬を飲む」という解釈の方がいて、説明しようとしても「先生が処方した通り薬を出して」という答えが返ってきます。これまでは処方箋通り先発薬で調剤していたのですが、新制度の説明をすると「安い方」を選ぶ方が多いです。
でも、ずっと飲んできた先発薬を急に後発薬に切り替えることへの戸惑いもあります。例えば10種類の先発薬すべてを後発薬に切り替えるケースもあります。支払い時点では安くなって喜んでお帰りになりますが、数日後「薬が効かない気がするから、元の先発薬に戻してほしい」と電話がかかってくることがあるんです。この1カ月で3日に1回くらいの頻度でありました。1度お渡しした薬を途中で取り換えることはできませんと説明しているのですが。
睡眠薬や痛み止め、かゆみ止めといった薬は、ある程度の即効性を求めて服用される方が多いのですが、それらを後発薬に変更すると「効果があるか不安」という気持ちで使用することもあって、「効かない、効果が薄い」と感じられる患者さんが一定数おられる印象です。「次回、戻しましょう」と回答したり、「もう1度、病院を受診して薬を出してもらってください」と回答するしかありません。
■子どもにも影響
-患者や流通に影響が大きいのは、どんな薬?
薬剤師 高血圧症や脂質異常症、高尿酸血症や糖尿病といった生活習慣病の患者さんの処方日数は2~3カ月など長期処方のケースが多いです。例えば、人気がある降圧剤の「アジルバ20mg」は、先発薬を選ぶと1日の負担金が12・8円程度増えます。90日処方の場合、1割負担~3割負担によって負担金の増額分は異なるのですが、700円~900円ほど増額となります。また高用量の精神科の薬は先発薬と後発薬の差額が大きい印象があり、3割負担で1錠当たり20円の負担増というケースも十分に考えられます。抗うつ薬、抗精神薬を高用量で併用している方が、先発薬を希望されると、1日当たり100円以上も負担金が増えるケースも想定されます。
子どもの薬にも負担金が発生します。一般的に5日程度の風邪薬ならば先発薬を希望しても負担金は100~300円程度の増額です。しかし、例えば塗り薬のヒルドイドソフト軟膏は、肌が敏感な子どもの肌全体を覆うようにして塗布するため大量処方されることがあります。1度に500グラムが処方された場合、先発薬を希望すると1300円程度の負担金が発生します。後発薬を選ぶと負担金は0円です。これまでは、負担金0円だった先発薬を希望される方が多い印象でしたが、新制度で状況が変わりました。
■支払い1円単位
-新制度について、現場としてどのようにお考えですか?
薬剤師 患者さんの支払いが10円単位から1円単位に変わったので、薬局は1円のお釣りを用意する必要が増えました。また患者さんに情報が周知されないまま導入され、調剤薬局では「説明」「後発薬の在庫を多めに確保」「薬を渡してから数日後の患者さんからの電話相談」などの仕事が増えています。
今回の制度の根幹にあるべきは、後発薬の品質が先発薬に劣らない保証にあると思います。数年前の後発薬メーカーの不祥事のようなことがあると、安心して後発薬を選べません。負担額が将来、増やしていく方向で検討される可能性もあります。政府には後発薬の品質に関して定期的な監査を行うなど有効性と安全性を担保していただき、安心して後発薬を選べる状況を作ってもらいたいと思います。【聞き手・久保勇人】
<仕組みと条件>
10月から始まっている制度は「長期収載品(先発医薬品)の選定療養」といいます。仕組みや条件は次のようなものです。
▼後発薬(ジェネリック薬)がある薬で、「医療上の必要性がある場合」を除き患者が先発薬を希望する場合は、特別の料金を支払います。
▼対象の薬は、後発薬が使われ始めて5年以上たっているか、50%以上が置き替わっている先発薬。計1096品目あり、高血圧、花粉症、保湿剤なども含まれます。
▼特別の料金は、先発薬と後発薬の差額の4分の1(+その消費税分)。患者は、元の金額から特別の料金を引いた残りの1~3割を合計した金額を負担することになります。
例えば、先発薬1錠100円、後発薬1錠60円で3割負担の場合、特別の料金(差額の4分の1)=10円+消費税=11円。従来の3割負担=100円-10円=90円×0・3=27円。
◆従来の制度の自己負担=100円×0・3=30円
◆新制度の自己負担=11円+27円=38円(1錠当たり8円増)
特別の料金が適用されない条件として、厚生労働省保険局医療課の担当者は、広報誌「厚生労働」(24年10月号、日本医療企画)で以下のようなケースを想定と答えています。
・先発薬と後発薬で効能・効果に差異があり先発薬を処方する必要がある場合。
・後発薬を使用した場合、副作用やほかの薬との飲み合わせによる相互作用が生じたり先発薬との間で治療効果に違いが出るなど先発薬を処方する必要がある。
・各学会などのガイドラインで、先発薬を使用している患者については後発薬へ切り替えないことを推奨している。
・剤形上の違いで後発薬の調剤が難しい。
・流通などの問題で後発薬の在庫がない。
この制度を導入した理由について、保健局担当者は「医療保険の負担の上昇を抑え、将来にわたって国民皆保険を守っていくため」とし、「目指しているのは、より多くの方に後発薬の利用への切り替えをご検討いただくこと。経済的負担も軽くすることが可能」「また医療保険者による保険給付が減少することで、医療保険財政の改善が見込まれるということが狙いです」などと説明しています。
医療費は年約2%で上昇し、23年度は概算で47・3兆円に上ります。医療費抑制策の1つとして、約2割を占める薬剤費も焦点になりました。うち後発薬は数量でのシェアは80%超えですが、金額シェアは約56%にとどまるため、厚労省は金額シェアを29年度末までに65%以上にすることを目標にしています。
一方、後発薬をめぐっては、数年前からメーカーによる品質不正などの発覚が相次ぎました。日本製薬団体連合会の最新調査で、後発薬の供給状況は、全ての受注に対応できない状況や出荷停止が約24%(品目数ベース)。「依然供給不安は続いている」としており、一刻も早い安定供給が課題となっています。
◆久保勇人(くぼ・はやと)1984年入社。文化社会部、スポーツ部など経験。