中小企業のES=人間性尊重経営のパイオニア/有限会社人事・労務 ES組織開発・人事制度改革ブログ

社員の幸せ、職場の幸せを基準に経営を、社風を変えたいと本気で思っている社長さん・人事担当者の方へのエールをあなたへ!

おさえておくべき法制度改正と人事労務面での対応

2022-06-30 18:06:42 | 人事制度

先日、ロードサービス業の経営者向けのオンラインセミナーにて、西田と髙橋が「おさえておくべき法制度改正と人事労務面での対応」をテーマに講義を行いました。

午前午後あわせて150名近くの方にご参加いただき、注目の高さを感じるセミナーでした。セミナーでは、おさえておくべき法改正の動きと必要となる人事労務面の対応について中心にお話しました。

トラック運転手はどこからどこまでが労働時間になる?

残業時間は何時間まで許される?

社員を指導する際にパワハラと言われないために気を付けるべきことは?

一部、感想をご紹介いたします。

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知らない間に新しい法改正やハラスメントの内容が細かく設定されてることに驚きました。
常に情報を入手して社内共有及び対策を進めて行きたいです。

労務関連は時代の流れを感じます。我々が社会に出たころの常識と今の常識は違います。また、これから先の未来もまた変わっていくであろうことがよく理解できました。
特にロードサービス業務は24時間対応なので、お車のトラブルで困ったお客様の対応依頼が来ると、現場作業に追われてしまうと、つい長時間労働が常態化してしまいます。
経営者自らが労務に関して知識を身につけ、顧問社労士任せにしてはいけないと感じました。
有意義な時間をありがとうございました。

以前から今回の内容は知っていたものの、改めてセミナーで話しを聞くと更にイメージがつきやすく、また今回レジュメがあり話しを伺えて良かったです。
さらに、なんとなく知っていて詳しい内容までは理解しきれていないことも再認識することができたので、今回のセミナーに参加することができ、よかったです。

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道路上の安全、そして人の命を預かる仕事において危険が迫った場面でも適切な対応が取れるようにするために、会社として業界としてどうすべきか考える一助となればと思います。


多様な時代に重視すべき社員の「あり方」(Being)

2021-03-22 17:36:00 | 人事制度

 以前のブログで、「これからの時代組織は自律分散型の組織構造に変容していかなければならない」とのべました。

「アフターコロナの組織のあり方と人事制度」

しかし、その変容とはいわいる人事制度などの組織のルールや制度といったハード部分を作り替えれば、できるわけでなく、むしろそこで働く人材(ソフトの部分)がかわらなければ決してうまくいきません。逆に、働く社員の意識構造にあわせて、その自律的な働き方を邪魔しないように、制度のほうもその発達段階に応じて徐々に変化させていくと考えたほうがいいいでしょう。

 

これまでの人事制度は、例えば目標管理やコンピテンシーなどを活用することはかなり効果がありました。大量生産大量消費を前提とした時代のピラミッド型組織において、過去の経験から会社や上司がもっていノウハウを社員に伝え、ある程度決められたやり方で働いてもらうことで、かなりの確率で予想された成果を上げることができたからです。ただ、社会全体が多様化し、これまでにないスピードで変化が起こっている現代において(もちろんすべてがそうだとは言えませんが)その効果がでにくくなってきているのです。

目標管理は上司と部下で面談を行い、今期の達成すべき目標を会社目標に沿って設定します。その目標を達成するために部下は1年間活動し、上司はこれを支援します。しかし、今の組織では1年間も同じ目標を追い続けることで、企業の業績に本当に貢献できるでしょうか?1年後の目標などを具体的に立てることが不可能になってきているのです。

また、コンピテンシーでは、業績の高い社員の行動特性を抽出し、その特性を他のメンバーも実施することで全体のレベルをあげようというものです。これも、職務内容が皆同じで、そのプロセスが変化しない環境なら効果はありました。しかし、今は一人ひとり担当する職務は多様で、しかもそのプロセスも常に変化が起こります。「業績を必ず出す行動特性」を抽出すること自体が難しくなっているのです。

もちろん、今後も、職種、仕事の内容や本人の等級などによっては、これからも有効な手法である場合も当然あります。例えば、入社から3年以内の新人を育成、評価する場合はどちらも有効な手法でしょう。しかし、多くの企業では、ある程度職業経験をつんで、複雑な業務にたずさわるようになると、このような定型的な評価は限界がくるようになっているのではないでしょうか。

このように、人材育成・評価において、これまでの「決められた目標にむかって努力する」「きめられた優秀モデルの人材になるように具体的なスキルを磨く」というだけでは、自律分散的な組織では対応できなくなってきているのです。では、会社は社員のどのような点に注目し、育成・評価すべきなのでしょうか。

これからはBeingといわれる、その社員の「あり方」(意識・思い・人生哲学・視座など)を会社はもっとも意識すべきなのです。

 

 

 

Beingの一つの指標に「視座」があります。今日や明日のことしか考えずに仕事をしている人が、成し遂げることができる仕事は、限られるでしょう。世の中にいいインパクトを与えるような業績をあげるリーダーは、自分個人のことよりも、組織全体はもとより、地域や社会全体にとって何が最も良いことかという広い視野で行動しています。この人間的な成長がないまま、Doing、Knowingだけを伸ばそうとしても、ベース(Being)が狭ければその上にあるDoing、Knowingを高めることはできません。これは逆三角形や長方形になることはないのです。

これからの組織は、そこに所属しているメンバーのBeingをしっかりと把握し、その高まりに応じた役割を与えていくべきです。また、Beingいかにして高めていくか、その経験と気づきの成長の場をどのようにつくっていくかを重視すべきなのです。特に自律分散型の組織を目指す企業にとっては、人事制度や社員育成においてBeingを重視した仕組みを作っていかなければならないでしょう。


アフターコロナの組織のあり方と人事制度

2021-03-17 21:25:58 | 人事制度

アフターコロナの組織のあり方と人事制度

 

 (有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。人事制度構築のお手伝いをさせていただいている中で、この1年、組織の在り方、そして個人の働き方があきらかに大きく変わってきています。

いろいろな要素が考えられますが、主に次のような理由といえるでしょう。

 

・テクノロジーが発達し、場所や時間を気にせずに働くことが可能になってきた

・以前であれば一部の経営トップなどにしか入らなかった情報がほぼ無料で誰でも得ることができるようになってきた

・個人が情報発信したり、個人同士で情報共有することができるようになった。

・単純な仕事はAIや機械でカバーできてしまうことが多くなってきた。

・個人(特に若者)の働くことへの意識が、これまでの利益追求型(資本主義型)から、社会や地域への貢献へと変化してきた。

 

 このような変化が徐々に進んできていた中で、2020年の新型コロナパンデミックがトリガーとなり、一気に組織の在り方や働き方が変化しました。具体的には以下のようなことが起こり、この傾向はさらに続くのではないでしょうか。

 

・テレワークやワーケーションといった場所を選ばない働き方の増加

・副業(複業)の増加

・フリーランサーなど、雇用にとらわれない働き方の増加

・オフィスの縮小・分散化

・ギグワーカーの増加

・一部企業の独占化(巨大化)と地域企業の増加

・株式会社以外の組織の増加(NPOや社団法人、ワーカーズコープなど)

 

このような中で、組織の在り方は、単に利益を求めるだけの集団ではなく、地域や社会のことを意識し、その課題を解決していくために地域社会と結びつきながらイノベーションを生み出していくことが求められる時代になってきています。そして、その組織は、明らかにこれまでのピラミッド型組織からの変容が必要になります。それが「自律分散型」の組織なのです。自律分散型組織とは、

・多様な価値観を認め、一人一人の個性や能力を十分に発揮しながらも

・組織として強いつながり(関係性)をもつ

組織のことを言います。

 

 「ティール組織」(フレデリック・ラルー著 栄治出版)でも述べられているとおり、組織には発達段階があります。ここで述べられていることは、細かい点はさておき、日本の中小企業にもあてはまります。



 昭和の行動経済成長の時代の日本の組織は、その多くが、アンバーからオレンジ的な組織だったでしょう。典型的なピラミッド型組織です。大量消費大量生産を重視し、欧米にキャッチアップしようとする日本は、非常にこの組織マネジメントがうまく機能したといえます。バブルがはじけて平成に入り、IT企業などが多くではじめたころから、フラットでボトムアップを重視するグリーン企業も見られるようになってきました。しかし、組織が大きくなってくる過程や時間が経過するなかでグリーン組織はオレンジやアンバーになってしまうことも少なくないようです。結果として、コロナ前の日本の企業はいまだにオレンジ的要素が最も多く、それにアンバーやグリーンの要素が混じっているような組織構造をしている企業が多いのです。

 もちろんすべての企業がティール型になるのがいいわけではありません。業種や地域、そしてなによりその企業の組織風土や社員の意識構造によって、もっとも適した組織構造が1社1社違うはずです。また、同じ一つの組織の中にも、単純にすべて「ティール」だとか「オレンジ」だといってしまうことはできず、実際はティール的要素の強い組織にもオレンジ的な部分が含まれていたり、またその逆もあるのです。

 しかし先ほどみたように、世の中全体の急激な変化の中で、どのような組織であっても、その組織構造を変容させていく必要性があり、その方向性は地域や社会のことを意識し、その課題を解決していくために地域社会と結びつきながらイノベーションを生み出していく自律分散型(いわいるティール組織に近い)の組織であることは間違いないでしょう。

 では、自律分散型組織の人事制度とはどのように構築すればいいのでしょうか。今からスタートするベンチャー企業なら、いきなりフラットで書籍「ティール組織」にでてきているような人事制度に挑戦することはできるかもしれません。しかし、すでに組織として(おそらくピラミッド型の組織)歴史があり、人事制度がすでにあるような企業にとっては、どのような変容の過程をたどるかも重要になってきます。既存の企業がどのような人事制度を構築していくべきか、事例なども含めて、またご紹介できればと思っています。


Being(あり方)を軸とした等級基準

2020-12-17 11:19:49 | 人事制度

Doing・KnowingのベースとなるBeing

(有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。以前のブログで、多様な働き方時代の「Being」(社員のあり方)を重視した組織づくりについて述べさせていただきました。

*11月24日ブログ 「多様な時代に会社が重視すべき社員のBeing」

 

これからの時代、能力を発揮し組織に貢献するためには(Doing=やっている)、さまざまな経験を経て能力を身につけなくてはならず(Knowing=知っている)、その経験や能力を身に着けるためには、本人の人生や仕事への意識や視座(Being=あり方)を高めていかないといけないということです。このDoing、Knowing、Beingは、ちょうど三角形のようになっており、いくらがんばっても、Beingの幅が狭ければ、おのずと得られる能力や成果も限られてくるのです。

 

 

自律分散型組織の等級基準はBeingにも注目すべき

さて、このように企業は単に三角形の一番上のDoingだけを見るのでなく、そのベースとなっているKnowingやBeingにも注目して、組織づくりや人材育成を進めていく必要があります。当然、これから自律分散型組織を目指すのであれば、人事制度の基軸となる等級基準にもこのような考え方を組み込んでいくべきです。

 

 

現在、多くの企業で運用される人事制度では、主にDoingを軸に等級基準がつくられています。つまり、どのような能力を発揮できるか、そしてどのような成果をだしてくれるのか=期待役割です。同一賃金同一労働がスタートし、この傾向はさらに強くなるようにも思われます。

しかし、一口に「期待役割」といっても、これからより複雑な社会のなかで、複雑な組織運営をしていくうえでは、この「期待役割」を事前に明確に具体的に示すこと自体が難しくなってきています。初級等級(上記の例でいえば、E-1からE-3くらいまで)であれば、具体的な職務を限定し、期待される発揮能力や成果、役割を具体的に示すことはできるでしょう。しかし、すでに1等級以上になってくると、その業務は複雑であり、期待する役割を具体的かつ短期的に示すことが難しくなります。

Doingについては抽象的にならざるをえないでしょう。Doingのみの等級基準は、実際に等級が高くなった方には理解できたとしても、その経験をまだしておらず、背景が見えにくい低い等級の者にとっては抽象的でわかりにくいものになるといわざるを得ないでしょう。

 

一方で、日本型経営といわれた年功序列型賃金では、Knowingを重視してきたといえます。組織への帰属意識を高め、様々な経験とジョブローテーションなどから得た経験と知識をしっかりと発揮できる人物が成果も残し、組織内も動かすことができて、等級を上げることができました。しかし、グローバル化が進み、過去の成功体験があまり意味を持たないほどに時代の変化が激しい現在では、Knowingのみを重視していては正しい評価はできません。今は成果がでていても、1年後には成果が出なくなってしまう可能性が高いからです。すでに多くの企業が日本型の終身雇用、年功序列型人事を放棄していることからもわかるとおり、Knowingに重きを置きすぎる等級基準もこれからの時代に合っているとは言えないのです。

 

このように、Doing、Knowingという視点を残しつつも、これからはBeingという視点をより重視していかなければなりません。この複雑な社会において、組織にとって重要な役割を担い、高い成果をだす(Doing)ためには、本質的で柔軟な能力と知識(Knowing)が必要です。それを見極めるためには、その人物がどのような意識や視座で仕事をしているか、もっといえば、どのような「生き方」をしているか(Being)というところまで見極める必要があるのです。

企業の等級基準にこのような抽象的なものさしを組み込むことに抵抗がある方もいるかもしれません。企業は硬直的で機械的な組織マネジメントから、まるで生命体のような多様で柔軟に対応できる組織に変化していかなければなりません。

そのためには社員一人一人の意識や視座を高め、より一人一人の個性が活かされる場を作っていくことが必要なのです。社員が安心して幸せを感じながら働ける場とは、その個性が周囲に理解され、活かされている状態でなければいけません。

一人一人が「自分」のことしか考えていない状態の職場ではそのような状態には絶対にならないのです。「自分」⇒「自分と相手」⇒「周囲全体」⇒「広く社会」という段階を経て、より多くの社員が、より広い視座をもつようになって、はじめて多様で柔軟で安心な職場となるのです。そして、そのような職場がこれからの時代に成果を出し続けることができる可能性が高いでしょう。

Being=あり方については、経営者や会社役員の方であれば、これまでも多かれ少なかれ意識をしていたことではないでしょうか。しかし、これからの時代は早い段階から社員にもこのことを意識してもらい、様々な経験・対話・内省を通して高めていってもらう必要があるのです。

 


「同一労働同一賃金」のポイント

2020-12-07 19:51:38 | 人事制度

みなさん、こんにちは!有限会社人事・労務の西田です。

 

今回は少しかたい話になりますが、最近、ニュースや新聞などで同一労働同一賃金という言葉を耳にすることが多くなってきました。

今年の4月から施行されている「同一労働同一賃金」関連の法改正、いわゆるパートタイム・有期雇用労働法が、来年4月1日からは中小企業も適用となります。その言葉から何となくどのような法律なのか、なんとなくイメージはつくけど、はっきりしないという方も多いかと思います。

 

「同一労働同一賃金」とは、正社員と非正社員(アルバイトや契約社員等)との間での不合理な待遇差を禁止するものです。よって、正社員同士やアルバイト同士などは対象とならず、あくまで正社員とアルバイト、正社員と契約社員といった形態で比較し、そこに不合理な待遇差があった場合は法律違反ということになるのです。

そこで問題となるのは、何をもって「同一」と見るのかという部分です。そこで今回は今年の10月の大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件の最高裁判決から同一性のポイントについてまとめていきます。

 

「同一労働同一賃金」の考えのもととなる「不合理な待遇差の禁止」について、パートタイム・有期雇用労働法の第8条に「①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差を禁止するもの」とされています。

つまり、この①、②、③の内容を考慮して「同一労働同一賃金」を判断するということになります。それでは、この①、②、③は具体的にどのようなことでしょうか。

①の職務内容を更に分けると「業務の内容」と「責任の程度」に分けられます。業務の内容とは、主に「中核的業務(役割)に実質的に差異があるか」「業務量や休日、深夜業務の状況」「臨時対応業務の差」「幅広い業務を任されているか、限定的業務」といったことが該当します。

正社員と非正規社員における役割や従事している業務が同じかどうかという部分はもちろんですが、例えば、正社員は休日や深夜、または欠勤等の社員に変わって対応することがあるかなどの状況も判断されます。メトロコマース事件では、正社員が休暇や欠勤で不在の販売員に変わって取った代務業務を担当していることも判断要素となっています。また、メトロコマース事件や日本郵便事件においても、非正規社員が特定の限定業務に専従していたことに対して、正社員の幅広い業務に従事することを判断要素としています。

また、「責任の程度」については、決済できる金額や管理する部下の人数、決済権限の範囲、トラブル発生時や臨時対応で求められる対応レベルなどとともに、成果への期待度や人事評価の査定範囲等もポイントになります。

日本郵便事件では、正社員は組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研鑽、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される一方で、契約社員の人事評価は正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない、としています。つまり、人事制度での求める役割や期待の範囲等もポイントに挙がります。

 

次に、②「職務内容・配置の変更の範囲」については、将来の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等の有無や範囲等になります。

これは、配置変更や転勤があるかどうか、また職務内容が限定されているかどうかといったことや、昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されているかどうかというキャリアアップやコース、将来の見込みの違いもポイントになります。

 

最後は、③「その他の事情」です。名前の通り、事情によって判断されるということですが、具体的なポイントとしては、労使の協議や社員への説明、周知が丁寧に行われているか、会社の経営状況に加え、長期勤務の期待がどうか、正社員登用制度が実質的にあるかどうかといったところも判断になります。

例えば、退職金などは長期功労に対する報償という意味合いで支給していることが多いかと思います。長期雇用を前提としている正社員には支給して、期間契約を結び、原則として限定的な期間のサポートとして勤務している契約社員やアルバイトには長期勤務を期待しているわけではないので、退職金は支給しない。あるいは金額が少ないといったことであれば、合理的な理由と言えそうですが、実態として契約社員もアルバイトも正社員と同じように長期間働いているのに退職金を払わないということであれば、長期功労に対する報償として退職金を支給するのであれば、それは合理的とは言えなくなってくるでしょう。

 

今回のメトロコマース事件では、「退職金は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給するものとした。」とされており、人財の確保や定着、様々な部署の継続的に就労することへの期待を考慮して、原告の契約社員に対して支給しなくても、不合理とは言えないという判決でしたが、一方で、判決の中で、功労報償的な性質から考えると、不支給は不合理だという反対意見がありましたので、長期功労を期待したり、実質的に長期雇用がしているようであれば、正社員ほどの支給額の水準かは別として、退職金を全く支給しないということは、リスクに繋がる可能性があります。もし、正社員には退職金を支給して非正規社員に退職金を支給しないのであれば、退職金の意味合いをはっきりと明確にして、なぜ正社員には支給して非正規社員には支給しないのかといったことを合理的に説明できて、納得感を持たせることができるということが必須になります。これは当然、賞与にも言えることです。

 

なお、今回の判決から賞与や退職金といった制度そのものに関しては、会社の事情や裁量なども総合的に判断して判決が下り、結果的に大阪医科薬科大学事件の賞与もメトロコマース事件の退職金も支給しないことが「不合理」とはされませんでしたが、日本郵便事件では、扶養手当、年末年始手当、夏季・冬期休暇など正社員と非正規の処遇差を合理的に説明することが難しい手当や労働条件に対しては相違が不合理と判断されています。

 

今回の法改正の中では、「労働者に対する待遇に関する説明義務の強化」として、非正規社員から正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に説明を求めることができるようになり、求めがあった場合は、事業主は説明をしなくてはなりません。

「合理的」とは言いにくい待遇差が正社員と非正規社員との間にあるかどうかを確認した上で、もしも、あった場合は待遇差をなくしていく、あるいは減らしていくことを判断していく必要があります。

 

最近は、例えば育児介護といった事情や個人の価値観により、正社員にはなれない、あるいはなりたくないといった方も多く、その結果、非正規社員として働いている方々も少なくありません。もちろん、非正規社員の中にも優秀な方も多く、会社として大きな仕事や責任を任せているのに、非正規社員といった理由で給与が低かったり、福利厚生が受けられないといったことも実際よく見ます。今回の「同一労働同一賃金」は、このような扱いをなくしていくための改正です。

繰り返しになりますが、中小企業は2021年4月から施行されます。それまでの期間に自社の非正規社員の実態を確認して、不当な待遇差をなくすようにしていくことをおすすめします。