こんにちは、有限会社人事・労務 パートナーの瀬戸山です。
私は、農と食を媒介とした「まち・場・コミュニティづくり」を仕事にしようと、実証実験を繰り返しています。私が現在関わっているのは、浅草で地元の子どもたちの情操教育を目的に「浅草田圃プロジェクト」の実施や、地元の越谷で複数人で農園を営む「コミュニティファーム」の運営、渋谷で組み立て式の農園を仮設した「シブヤ系循環型農園」を企画、巣鴨の大正大学で江戸野菜をキーワードにシビックプライドを醸成する「たねや街道」企画を運営したり、都市部や近郊部でのさまざまな活動に参加しています。
その反面、継続できない活動もたくさんありました。地域にとって多少のインパクトはあっても、目的が抽象的、あるいは「楽しさ」や「お洒落」という感覚だけで始めてしまって、本質的な意味のある活動ではない場合、そのほとんどは短期間で消滅してしまいます。
では、地域に関わり続けるのは、どのような活動なのか。
今回は、「地域に関わる」ということの最近の気づきについて、まとめさせていただきます。
まずはじめに、私が「地域」を意識したきっかけは「農」と「食」でした。
私がまだインターン生だった頃、弊社の自社ファームである「アルパカファーム(現:田心ファーム)」の農縁長を務め、浅草の行きつけの飲食店の軒先をお借りして、野菜の販売をおこなっていました。浅草には大きなスーパーはありますが、特に私たちの事務所がある入谷側には、新鮮でこだわりのある野菜を購入できる場所がありませんでした。そのため、昔の浅草にいた行商人のように、地域を越境して野菜を販売し、農と食の距離が近い暮らしを実現できればと考え、この活動がはじまりました。
はじめは、住宅街の中で大きな声を出すということだけでも恥ずかしくて、野菜は全然売れませんでした。そんな様子を見かねて、地元の人たちが「ああしたらいい、こうしたらいい」とアドバイスをくれて、なんとか体裁を整えていました。そんな中で、一番よく聞かれるのは「この野菜はどうやって食べるの?」という質問。はじめのうちは、全然答えられず、むしろお客さんに聞いてばかりでしたが、それを何度も繰り返していると、次はもう買いにきてくれなくなってしまう。なので、ちゃんと質問に答えられるように、毎回仕入れた野菜は事前に料理して食べておくのが習慣になりました。
農と食、地方と都市をつなぐ役割を担いたい。その目的に対して、真摯に取り組んだ結果、今この軒先での野菜販売は「田心カフェ」として継続されています。
この経験をもとに、前述のようにさまざまな活動を通し、実証実験を繰り返してきました。しかし、まちなかに仮設の畑を出現させたり、畑を移動できるようにしたりすることで、果たしてこの活動は誰の何を解決し、どんな幸せを生み出しているのだろうか。この数年、暮らしに農やグリーンを取り入れる需要は高まってきました。でも、その中で刹那的な「たのしさ」や「お洒落」以外に何を生み出すのか。そんな迷いが生じていました。
そんなモヤモヤを抱えながら、先日、徳島県神山町に行く機会がありました。
神山町は、都内のIT企業がサテライトオフィスを置いていたり、アーティストを招いてアートフェスを開催したり、最近では神山まるごと高専という教育のプロジェクトが実施間近だったり、変化し続けるまちとして注目を集めています。
その、地域の変化の担い手であるNPO法人グリーンバレーの方々にお世話になり、田植えをしたり、竹を切り出したり、川でサウナに入ったり、地域の持つポテンシャルを満喫しながら、さまざまなお話を聞かせていただきました。
事務局長曰く、神山町でのプロジェクトは、30年以上前に取り組んだ「国際交流事業」からはじまったそうです。地元の商工会議所のメンバーを連れてアメリカへ渡り、交流をする。ただそれだけでも、当時は「英語が喋れないから」という理由で反対されていました。そこで、創設者の大南さんは毎週のように商工会議所のメンバーに英語を教え、何年もかけてようやく国際交流が実現したそうです。
その経験から、神山町にAET(Assistant English Teacher)の先生を海外から受け入れることになりました。そのときのAETのおもてなしの経験から、「アート・イン・レジデンス」という、アーティストを神山町に招き、アート作品を一緒につくる活動がはじまります。美術館などのハードを持たない神山町に、わざわざアーティストが滞在して作品をつくりたくなるのは、神山町の資源的なポテンシャルだけでなく、「まちの人と一緒につくる(まちの人たちが協力する)」というコンセプトと、まちの人たちのおもてなしだったと言います。
その「まちの人たちの協力」「滞在時のおもてなし」という2つがキーとなり、まちに仕事をもつ人が集まる「ワーク・イン・レジデンス」という活動がはじまり、ゆくゆくは都内の企業のサテライトオフィスが集まり、現在の神山町の姿になりました。
大切にしているのは、ソフト(人が集まる)からはじめるということ。
足りないからハードを作ったり、課題があるから解決できるスキルのある人を集めるのではなく、「人が集まる」からはじめる。
以前にグリーンバレーさんの書籍を読みましたが、この「行間」の部分は読み取れませんでした。30年という長い年月をかけて、地域が変化し続けている。ハードをただつくるだけでもなく、スキルのある人を集めるだけでもない。「日本の田舎をステキに変える!」というミッションに向かい、地域の方々が「協力」して「おもてなし」できるくらい心を耕す。
地域は、人の集まり。人が変化すれば、地域は変化する。
地域に関わるということは、人に関わるということ。
今の刹那的な問題や課題だけを観るのではなく、大局観をもって役割を担うことで、グリーンバレーさんのように何十年もかけて地域に関わることができる。
「農」や「食」を媒介に、そんな地域との関わり方をしていきたいと思います。