中小企業のES=人間性尊重経営のパイオニア/有限会社人事・労務 ES組織開発・人事制度改革ブログ

社員の幸せ、職場の幸せを基準に経営を、社風を変えたいと本気で思っている社長さん・人事担当者の方へのエールをあなたへ!

~初回を通じて学んだ多様性のあるコミュニティの強さと集合知の見つけ方~ 「だいすけ!えりな!の聞いてガッテン!下町しまうまラジオ」始まりました!

2020-12-24 18:01:42 | 地域貢献

みなさん、こんにちは。(有)人事・労務の山﨑です。

 

下町のラジオ局・鳥越アズーリFMにて、

月に一回「だいすけ!えりな!の聞いてガッテン!下町のしまうまラジオ」という番組を持つことになりました。

恐縮ながら、私 山﨑がパーソナリティーを務めております。

人生の先輩でもあり下町の経営者でもある「ご意見番・だいすけ」こと代表矢萩とともに、95年生まれデジタルネイティブ世代、ゆとり世代とも言われている山﨑が、しまうまな企業・しまうまな人を取り上げながら旧くて新しい働き方・生き方を探していく・・・そんなラジオを目指しています。

「しまうま」って??

タイトルにつけた「しまうま」はゼブラ企業にちなんでいます。

 

ゼブラ企業とは、「創業10年以内」、「評価額10億ドル以上」「非上場」「テクノロジー企業」の4つを満たすユニコーン企業に対立して、「企業利益」と「社会貢献」という相反する2つを両立させている企業のことです。

会社としての売上をしっかり作りつつ、持続可能性や共存性を大切にしている企業のことですね。

また、特徴としてコミュニティを大切にし、協力的であり、経済性と社会性の両立に重きを置いています。Withコロナの時代で、ますますこの共存という考え方は注目していく必要があるのではないでしょうか。

私たちは、ラジオの中で「ゼブラ企業」というビジネスモデル視点としての捉え方だけではなく、個人から生まれる感情や地域との繋がりから生まれている広がりなどにも着目しながら、1年を通じて、私たちなりの解釈と意味付けをしていきながらこのマスコットの定着とともに成長していきたい、そんな想いがあります。

 

ここまで、ラジオの概要になりますが、第一回までの歩みを通して私自身が感じたことと学びをお伝え出来ればと思います。

【ラジオ当日までの歩み】

  • 「集合知を創ることの難しさ」

初回放送までの歩みの中で、一番感じたことはこの部分です。

 

まず最初

・必要なものが何か、用意にどのくらい時間がかかるのか分からない

・自分にどのくらい話せる力があるのか分からない

・そんな中で自分判断だけで進めすぎていてはチームとしての企画にならない

 

分からないことだらけの中なんとなく一つにまとめないといけないという気持ちだけが先走り、「みんなの意見を尊重したい。」出てくる意見を全部拾い上げていて、結局自分はどうしたいのか、何を目的としているのか分からない状態がありました。

 

あっちへ、こっちへ情報を繋いで、繋いでいる間に更新されていて、把握するのに必死で、自分が起点となって動いている意味があるだろうか?と若干ネガティブになることも。

 

そんな中で、「失敗しても良い。」「その案、やってみようか。」「こんなイメージなのね。一旦作ってみるよ!」と周りからたくさんの声をいただき、自分が良いと思うことと一人一人が良いと思うことが重なる瞬間を少しずつ経験していきました。

そこで大切になってくるのはやはり「対話」。

持っているイメージがまだ言葉にならないのなら、色で、写真で、単語で、まず伝える。

発信しない前にまだイメージや完成図は固まるわけがないのですね。

 

  • 「当日談修さんから学んだ”気働き”と“笑い”の大切さ」

打ち合わせを終え、あっという間に本番がスタート。

なんと初回記念のゲストとして、人事・労務が10年を超えるお付き合いになる真打の落語家・立川談修さんをお招きいたしました。

 

緊張の中、談修さんからお伺いしたことは

師匠の立川談志さんから学んだ「気働き」(気遣いをすること)のお話と「笑い」の大切さ。

目の前にいる師匠一人にすら、気遣いが出来ないときに大勢の人を笑わせることはできない。人を良く見て、その人が何を感じているかキャッチできないと笑いは起こらないということを仰っていました。

 

私たちは気を遣うという言葉を、なんとなくネガティブに捉えがちですが、尊重し合う関係は気持ち良く気を遣い合う関係なのではないだろうか、と私自身は感じました。

「気持ち良く気を遣い合う」そんな職場は素敵だと思います。

社労士の川口先生を師匠に持つ矢萩からは、師弟関係について「恩送り」の話がありました。

受けた恩を師匠に直接送り返すのではなく、次の世代へ還元していくことが大切だ、と。

 

思えば、私がこのラジオのパーソナリティーを務めるにあたり、ラジオの経験があり、今は人事労務を独立しているメンバーから心構えなどを教えてもらいました。

師弟関係でいうと兄弟子、というところでしょうか。

いずれ私も、次の世代へ自分が得たものを還元できるように。

まずは今自分へ引き継がれている想いを受け止めて、体現していく修行の期間をしっかり過ごしていきたい。

 

  • 「共感によってつながりやエネルギーが生まれる場所 田心カフェ」

また、このラジオを行うにあたり、人事・労務のコミュニティ「903シティファーム」が運営する田心カフェのミニコーナーも持つことにしました。

https://hatarakuba.com/tagokoro-cafe/

 

浅草というまちで、「農」「食」をキーワードに人が集まり、お客様やスタッフという隔たりなく、つながりを軸に地域性を生んでいく・・・そんな想いをコンセプトにしている田心カフェは、このラジオの中で取り上げている「下町」(働くと暮らしを融合させながらしなやかに生きている場所)を体現している場です。

そんな田心カフェのしまうまな活動も毎月お伝えしていく予定です。

【最後に】

まだまだこのラジオの試みは始まったばかり。

これから1年ラジオを通じて、

2回目、3回目、10回目・・・と失敗を繰り返しながらクオリティは上がっていくかもしれません。

それでも、この第1回目に向けた経験は一度しかなく、成功体験がないまま始め、コミュニティとして一つになる経験というのは変えられない自分の財産となりました。

 

自分の一人の力では出来ないからこそ、良いものが創れる。

自分一人の力ではないからこそ、ぶつかったり、新しい発見がある。

自分一人では、起こせない伝播を起こすことが出来る。

 

多様性があるからこそ、強くしなやかなコミュニティになるのですね。

そんな愛着のある「下町のしまうまラジオ」をこれからも応援宜しくお願い致します。

 

↓ 2020年12月22日放送分がこちらからご覧いただけます ↓

 


人間中心ではなく自然を軸とした地域社会のデザイン-TERAKOYA読書会Ⅵ-第1回

2020-12-23 15:52:07 | 地域貢献

「街道ぜんぶが学びの場」と称して、Youtubeでのライブ配信やZoomでのセミナーなどオンラインとリアルをおりまぜて開催した日光街道太陽のもとのてらこや

日本ES開発協会Youtubeチャンネル▼

例年以上に、街道沿いのまちの方たちの温かなおもてなしをいただき、ご縁を深める道のりとなりました。
それぞれのまちには、モノも人も往来しさまざまな働き(仕事)が混ざり合う「街道」という資産をもったまちとしての誇り・気概があり、他のまちとも道でつながりヨソモノを温かく迎え入れる越境人材としての気質が流れていました。
だからこそ、このような制約ある状況の中でも力強く行動するまちの方たちの存在がより際立ったのではないかと感じています。

一方、このイベントを開催する前の10月に、「都道府県魅力度ランキング」が発表されました。
なんと、日光街道のゴール地・日光東照宮を含む栃木県は、最下位。手前の埼玉県は38位。古河や日光東往還がある茨城県は42位。
いずれも、なんだか残念な結果となり、皆で「何でだろうねえ」としばし議論をする場面がありました。
「魅力」をどう定義するか、という点がありますが、12回このイベントを開催し、まちのさまざまなご縁の方たちと交流を深めてきたわたしたちにとっては、日光街道沿いには魅力あるまちが連なっています。

そこには、「つながりの豊かさ」「越境人材の存在」「接点を増やす場づくり」といった視点から捉えた魅力があり、
「このまちに関わりたい」「このまちを応援したい」「このまちを紹介したい」という気持ちを高めてくれます。
結果、直接的な住民を増やすことはできませんが、少しずつ「関係人口」を増やしていくことには寄与しているのではないかとも考えています。

このコロナ禍で、過密な東京を抜け出し地方で暮らすという選択肢も増えてきました。
でも、地方には地方の、つながりが強い故の大変さも存在しています。
わたしたちが関わる「働く」というコトは、それぞれの地域の特性の中で暮らしかたが育まれ、そこから自ずと働き方が形づくられるのが本来だと言えます。例えば、雪国には雪国の、離島には離島の、山あいには山を中心とした暮らしかたがあり、そこでの時間の流れ・モノの往来などを踏まえた仕事が生まれ、働き方が形づくられてきました。
しかし、今のこの働き方改革の流れは、そういった「地域の特性で育まれた暮らし」という地盤を捉えずに、表面的なところで議論してしまっているようにも感じます。また、特に戦後の都心への一極集中の流れは、「都会に行けば仕事がある」「地方の暮らしは不便」という固定概念を強め、地域に根差した暮らしかたの魅力を見えなくしてしまったのではないかとも感じます。

Stay Home、Social Distance で、これまでの当たり前がとても貴重なものであったのだと気づかされたいまこの時期だからこそ、「ローカルと都市のあり方」「地域の暮らしから考える働き方」を考えていくことで、これからのわたしたちの幸せな生き方を描くヒントを見つけ出せるのでは、ということで、今回のこの読書会&セミナー開催に至りました。

◆オンライン読書会◆
「地域のつながりを起点とした幸せな経済のまわしかた」

課題図書は『経済成長なき幸福国家論(平田オリザ×藻谷浩介)』です。一回目の要約講義は、第一章。

この章は、著者の演劇人である平田オリザさんと経済人・藻谷浩介さんが、それぞれどのような文脈で地域を語るのか、という整理から始まります。
まずドキリとするのは、「下り列車に乗った先の地方で舞台をつくる」というオリザさんが表現する言葉。
特別な理由なく「就職は東京で」と決めて、ひたすらに上り列車に乗ってはたらく場を探していた自分の学生時代をふと思い出しました。

あの頃はまだインターネット出始めの時期。地方の大学だと唯一学内の回線に繋がったゴツいパソコンで、緊張しながらYahoo検索をして情報を集めていたものです。
就職氷河期である上に、広がる情報格差。でも、学生はそんなことに気づくはずもなく、「大学を出たらフルタイム正社員で働くものだ」という固定概念のもとで、一生懸命、都会でのキャリアを夢見て上り列車に乗っていたのでした。
運良くわたしは今の職場で働く縁をいただき、「まずはインターンから」「仕事は週3日分しかないから、あとは副業しても良い」「社労士資格ではなくキャリアコンサルタントを取ってみたら」等、矢萩が示すユニークな道筋に自分の変わり者精神が引き出され、今のキャリアを歩ませてもらっていますが、そのような「枠にはまらない」生き方をしているわたしのような人間にとっては、過干渉がない都会は暮らしやすいとも言えます。

一方、電車も車もたくさん動いて何でもモノが買える都会は、便利だけれども、震災やこのコロナ禍で露呈されたように「脆さ」があります。
東京一極集中であらゆる物理的なつながりは存在しているけれども、無縁社会という言葉にも表されるような”オモテには見えないつながり”の希薄さも内包している、都会。
そこには、「”経済成長=幸せ”という概念」がいつまでも残り、なにかひずみが生じていることにはうすうす気づきつつも、変わらなくても何とかなる生温さを持った日本社会の構造ができあがっているのではないかと感じます。
そのような状況を「東京中心発想のやばさ」とバッサリ言い切る著者が、これからの日本の生きる道として掲げるのが「文化」です。

ここではゲームやアニメの文化が取り上げられていますが、例えば、つい最近には、茅葺きや畳、左官など「伝統建築工匠の技・木造建築を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。また、同じく2013年に登録された和食文化も、日本が世界に誇る文化遺産です。
このような文化に焦点をあて、現代の資本主義社会において課題として浮き彫りになっているところに、文化をアップデートしながら取り入れ、課題解決をしていく地域づくりこそ、これからの日本に必要な道筋である、というわけです。
東京には江戸文化、関東一円にも日光東照宮を基点とした日光街道をはじめとするさまざまな文化遺産が存在しています。

文化に着目すれば、都会と地方・中央と周辺という分断ではなく、別の角度で地域のあり方を考えることができるでしょう。そして、目には見えない価値を大切に捉える視点は、お金ではない共感でつながるこれからの経済との相互作用もあり、地域にハレの空気を流し込んでくれるのではないかと思います。

このような「文化」に焦点をあてたまちづくりに取り組む地域のひとつとして頭に浮かぶのが、日光街道の東往還、利根川沿いの水運のまち・境(茨城県猿島郡)です。
江戸時代に水運で発展した河岸の文化を土壌に、ヒトが集う商業施設や美術館などをまちの人々と共に運営し、クラフトビール(さかい河岸ブルワリー)などの新たな価値を創りながら、起業家やヤングファミリーが暮らしやすいまちを展開しています。

そこには、力強いリーダーシップと共に、異なりを取り入れる越境人材的な存在があり、成長というよりは変化という言葉がぴったりなまちであるとも言えます。

読書会の特別講義の中で、ジャーナリストの浅川芳裕さんは、地域でスマートテロワールを推進する上での「放牧」という考え方をお話くださいました。
土地にひつじなどの動物を放すと、自由にあるきまわる中で徐々にエサ場や水飲み場、歩くルートといった秩序が自然とできていくわけだから、最初からルールや制度の枠組みに囚われず、まずは放牧の感覚で動いていけば良い。
そこには、人間中心ではなく自然を軸とした地域社会のデザイン、という考え方が重なります。
これからの地域のあり方を考える時に、数や規模、お金といった目に見える資産を指標とする枠組みを一度とっぱらって、そこにある自然や文化を中心としたデザインを描いてみる、ということがいま必要なのではないかと思うのです。

次回は第二章、「地方の活力に学べ」をお送り致します。


Being(あり方)を軸とした等級基準

2020-12-17 11:19:49 | 人事制度

Doing・KnowingのベースとなるBeing

(有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。以前のブログで、多様な働き方時代の「Being」(社員のあり方)を重視した組織づくりについて述べさせていただきました。

*11月24日ブログ 「多様な時代に会社が重視すべき社員のBeing」

 

これからの時代、能力を発揮し組織に貢献するためには(Doing=やっている)、さまざまな経験を経て能力を身につけなくてはならず(Knowing=知っている)、その経験や能力を身に着けるためには、本人の人生や仕事への意識や視座(Being=あり方)を高めていかないといけないということです。このDoing、Knowing、Beingは、ちょうど三角形のようになっており、いくらがんばっても、Beingの幅が狭ければ、おのずと得られる能力や成果も限られてくるのです。

 

 

自律分散型組織の等級基準はBeingにも注目すべき

さて、このように企業は単に三角形の一番上のDoingだけを見るのでなく、そのベースとなっているKnowingやBeingにも注目して、組織づくりや人材育成を進めていく必要があります。当然、これから自律分散型組織を目指すのであれば、人事制度の基軸となる等級基準にもこのような考え方を組み込んでいくべきです。

 

 

現在、多くの企業で運用される人事制度では、主にDoingを軸に等級基準がつくられています。つまり、どのような能力を発揮できるか、そしてどのような成果をだしてくれるのか=期待役割です。同一賃金同一労働がスタートし、この傾向はさらに強くなるようにも思われます。

しかし、一口に「期待役割」といっても、これからより複雑な社会のなかで、複雑な組織運営をしていくうえでは、この「期待役割」を事前に明確に具体的に示すこと自体が難しくなってきています。初級等級(上記の例でいえば、E-1からE-3くらいまで)であれば、具体的な職務を限定し、期待される発揮能力や成果、役割を具体的に示すことはできるでしょう。しかし、すでに1等級以上になってくると、その業務は複雑であり、期待する役割を具体的かつ短期的に示すことが難しくなります。

Doingについては抽象的にならざるをえないでしょう。Doingのみの等級基準は、実際に等級が高くなった方には理解できたとしても、その経験をまだしておらず、背景が見えにくい低い等級の者にとっては抽象的でわかりにくいものになるといわざるを得ないでしょう。

 

一方で、日本型経営といわれた年功序列型賃金では、Knowingを重視してきたといえます。組織への帰属意識を高め、様々な経験とジョブローテーションなどから得た経験と知識をしっかりと発揮できる人物が成果も残し、組織内も動かすことができて、等級を上げることができました。しかし、グローバル化が進み、過去の成功体験があまり意味を持たないほどに時代の変化が激しい現在では、Knowingのみを重視していては正しい評価はできません。今は成果がでていても、1年後には成果が出なくなってしまう可能性が高いからです。すでに多くの企業が日本型の終身雇用、年功序列型人事を放棄していることからもわかるとおり、Knowingに重きを置きすぎる等級基準もこれからの時代に合っているとは言えないのです。

 

このように、Doing、Knowingという視点を残しつつも、これからはBeingという視点をより重視していかなければなりません。この複雑な社会において、組織にとって重要な役割を担い、高い成果をだす(Doing)ためには、本質的で柔軟な能力と知識(Knowing)が必要です。それを見極めるためには、その人物がどのような意識や視座で仕事をしているか、もっといえば、どのような「生き方」をしているか(Being)というところまで見極める必要があるのです。

企業の等級基準にこのような抽象的なものさしを組み込むことに抵抗がある方もいるかもしれません。企業は硬直的で機械的な組織マネジメントから、まるで生命体のような多様で柔軟に対応できる組織に変化していかなければなりません。

そのためには社員一人一人の意識や視座を高め、より一人一人の個性が活かされる場を作っていくことが必要なのです。社員が安心して幸せを感じながら働ける場とは、その個性が周囲に理解され、活かされている状態でなければいけません。

一人一人が「自分」のことしか考えていない状態の職場ではそのような状態には絶対にならないのです。「自分」⇒「自分と相手」⇒「周囲全体」⇒「広く社会」という段階を経て、より多くの社員が、より広い視座をもつようになって、はじめて多様で柔軟で安心な職場となるのです。そして、そのような職場がこれからの時代に成果を出し続けることができる可能性が高いでしょう。

Being=あり方については、経営者や会社役員の方であれば、これまでも多かれ少なかれ意識をしていたことではないでしょうか。しかし、これからの時代は早い段階から社員にもこのことを意識してもらい、様々な経験・対話・内省を通して高めていってもらう必要があるのです。

 


「同一労働同一賃金」のポイント

2020-12-07 19:51:38 | 人事制度

みなさん、こんにちは!有限会社人事・労務の西田です。

 

今回は少しかたい話になりますが、最近、ニュースや新聞などで同一労働同一賃金という言葉を耳にすることが多くなってきました。

今年の4月から施行されている「同一労働同一賃金」関連の法改正、いわゆるパートタイム・有期雇用労働法が、来年4月1日からは中小企業も適用となります。その言葉から何となくどのような法律なのか、なんとなくイメージはつくけど、はっきりしないという方も多いかと思います。

 

「同一労働同一賃金」とは、正社員と非正社員(アルバイトや契約社員等)との間での不合理な待遇差を禁止するものです。よって、正社員同士やアルバイト同士などは対象とならず、あくまで正社員とアルバイト、正社員と契約社員といった形態で比較し、そこに不合理な待遇差があった場合は法律違反ということになるのです。

そこで問題となるのは、何をもって「同一」と見るのかという部分です。そこで今回は今年の10月の大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件の最高裁判決から同一性のポイントについてまとめていきます。

 

「同一労働同一賃金」の考えのもととなる「不合理な待遇差の禁止」について、パートタイム・有期雇用労働法の第8条に「①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差を禁止するもの」とされています。

つまり、この①、②、③の内容を考慮して「同一労働同一賃金」を判断するということになります。それでは、この①、②、③は具体的にどのようなことでしょうか。

①の職務内容を更に分けると「業務の内容」と「責任の程度」に分けられます。業務の内容とは、主に「中核的業務(役割)に実質的に差異があるか」「業務量や休日、深夜業務の状況」「臨時対応業務の差」「幅広い業務を任されているか、限定的業務」といったことが該当します。

正社員と非正規社員における役割や従事している業務が同じかどうかという部分はもちろんですが、例えば、正社員は休日や深夜、または欠勤等の社員に変わって対応することがあるかなどの状況も判断されます。メトロコマース事件では、正社員が休暇や欠勤で不在の販売員に変わって取った代務業務を担当していることも判断要素となっています。また、メトロコマース事件や日本郵便事件においても、非正規社員が特定の限定業務に専従していたことに対して、正社員の幅広い業務に従事することを判断要素としています。

また、「責任の程度」については、決済できる金額や管理する部下の人数、決済権限の範囲、トラブル発生時や臨時対応で求められる対応レベルなどとともに、成果への期待度や人事評価の査定範囲等もポイントになります。

日本郵便事件では、正社員は組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研鑽、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される一方で、契約社員の人事評価は正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない、としています。つまり、人事制度での求める役割や期待の範囲等もポイントに挙がります。

 

次に、②「職務内容・配置の変更の範囲」については、将来の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等の有無や範囲等になります。

これは、配置変更や転勤があるかどうか、また職務内容が限定されているかどうかといったことや、昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されているかどうかというキャリアアップやコース、将来の見込みの違いもポイントになります。

 

最後は、③「その他の事情」です。名前の通り、事情によって判断されるということですが、具体的なポイントとしては、労使の協議や社員への説明、周知が丁寧に行われているか、会社の経営状況に加え、長期勤務の期待がどうか、正社員登用制度が実質的にあるかどうかといったところも判断になります。

例えば、退職金などは長期功労に対する報償という意味合いで支給していることが多いかと思います。長期雇用を前提としている正社員には支給して、期間契約を結び、原則として限定的な期間のサポートとして勤務している契約社員やアルバイトには長期勤務を期待しているわけではないので、退職金は支給しない。あるいは金額が少ないといったことであれば、合理的な理由と言えそうですが、実態として契約社員もアルバイトも正社員と同じように長期間働いているのに退職金を払わないということであれば、長期功労に対する報償として退職金を支給するのであれば、それは合理的とは言えなくなってくるでしょう。

 

今回のメトロコマース事件では、「退職金は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給するものとした。」とされており、人財の確保や定着、様々な部署の継続的に就労することへの期待を考慮して、原告の契約社員に対して支給しなくても、不合理とは言えないという判決でしたが、一方で、判決の中で、功労報償的な性質から考えると、不支給は不合理だという反対意見がありましたので、長期功労を期待したり、実質的に長期雇用がしているようであれば、正社員ほどの支給額の水準かは別として、退職金を全く支給しないということは、リスクに繋がる可能性があります。もし、正社員には退職金を支給して非正規社員に退職金を支給しないのであれば、退職金の意味合いをはっきりと明確にして、なぜ正社員には支給して非正規社員には支給しないのかといったことを合理的に説明できて、納得感を持たせることができるということが必須になります。これは当然、賞与にも言えることです。

 

なお、今回の判決から賞与や退職金といった制度そのものに関しては、会社の事情や裁量なども総合的に判断して判決が下り、結果的に大阪医科薬科大学事件の賞与もメトロコマース事件の退職金も支給しないことが「不合理」とはされませんでしたが、日本郵便事件では、扶養手当、年末年始手当、夏季・冬期休暇など正社員と非正規の処遇差を合理的に説明することが難しい手当や労働条件に対しては相違が不合理と判断されています。

 

今回の法改正の中では、「労働者に対する待遇に関する説明義務の強化」として、非正規社員から正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に説明を求めることができるようになり、求めがあった場合は、事業主は説明をしなくてはなりません。

「合理的」とは言いにくい待遇差が正社員と非正規社員との間にあるかどうかを確認した上で、もしも、あった場合は待遇差をなくしていく、あるいは減らしていくことを判断していく必要があります。

 

最近は、例えば育児介護といった事情や個人の価値観により、正社員にはなれない、あるいはなりたくないといった方も多く、その結果、非正規社員として働いている方々も少なくありません。もちろん、非正規社員の中にも優秀な方も多く、会社として大きな仕事や責任を任せているのに、非正規社員といった理由で給与が低かったり、福利厚生が受けられないといったことも実際よく見ます。今回の「同一労働同一賃金」は、このような扱いをなくしていくための改正です。

繰り返しになりますが、中小企業は2021年4月から施行されます。それまでの期間に自社の非正規社員の実態を確認して、不当な待遇差をなくすようにしていくことをおすすめします。