父に誘われて釣りに行くことになった。日頃行くこともないはずの川の様子を父はなぜかよく知っていた。2つの川が合流する手前辺りに行こう、という。あそこなら釣れそうだ、と。自転車なら30分かからないだろう。冬の間、何度も転倒してやっと覚えた自転車である。今やどんなに近くても自転車で出かけるほど自転車が無くては生活ができない体になっていた。父と初めての釣りに自転車で行ける、というそれだけのことで私は有頂天になった。
ほんの数日前まで切る風がまだ冷たく頬にあたっていたはずだったが、その日は急に暖かくなって春らしい柔らかい風が体をそっと押した。父の荷台にも私の荷台にも縞模様の袋入り釣り竿が差してある。母が作ってくれたおにぎりと水筒が父の自転車のかごに入っている。
家の前から森の脇を抜けてなだらかな坂が続いている。坂をくだり切った所が木々のトンネルの終点で、眩しい光の中にまだ掘り返されて水が入る前の春の田んぼの光景が広がる。おおむねれんげ草やシロツメクサに覆われ、緑の中に点々とピンクと白の花の絨毯が敷き詰められたように続いている。田んぼの周辺の用水路の水はまだ浅くあぜ道を走る自転車から覗くと水面まではかなりある。これが田植えの時期になると水が用水路の中で膨れるほどたっぷりになって速い。
目的の場所に着き自転車を置いていい場所を探す。川の水もまだ多くはないが土手の下がよどみになっている所が何か所かあり、そういう場所ではすでに釣り糸を垂らしている人が何人もいる。適当な場所を見つけて、父はちょうどいい所にあった大きな石の上に腰をおろした。ぽかぽかのいい陽気だ。私は近くの草の上に陣取った。庭で見つけておいたミミズを缶から出して針に付け、静かに水に垂らす。
耳のそばを飛んだ虫を追い払ったら、頭上にいきなり鳥の声が聞こえて来て、かぶっていた野球帽を持ち上げて空を仰ぐ。父も同じように見上げていて「ヒバリだな」とのんびり言った。その後父はフナを2匹釣り、私は小さなカメを1匹釣った。甲羅に針が引っかかって釣り上げる事ができたのだ。大物だと思って大騒ぎしたがカメだとわかって少しがっかりした。
小さなびくを持って行っていたが父はフナを川に戻してしまい、びくにはカメ1匹だけが収まった。前年の夏に死んでしまった金魚のための水槽で飼えるだろう、と夕暮れを前にしたあぜ道を自転車で走りながら父は言った。カメはおそらくクサガメかイシガメだろうと思うが、よくわからない。帰ったら図鑑で調べてみよう、と。
調べてみたらクサガメであることがわかった。私は早速水槽に砂利を敷き、庭にあった少し大きめの石を置いてカメの家を作り、バケツに水を入れて水道水のカルキ抜きの準備をした。水の準備が終わるまでカメは水槽に入れられない。外の石造りの流しの中で一晩過ごしてもらおう。逃げないように紐をぐるっと体の周りに巻いて端を蛇口の所に結んでおこう。
カメが存外活動的であることを知らなかった浅はかな少年の期待は翌朝すっかり裏切られた。紐だけが残っていてカメは姿を消していたのだ。
それから何か月かたった夏の日、森の外れにある水神様の澄んだ池の端で少し大きくなったこのクサガメに再会したときは嬉しくて小躍りするという言葉がぴったりするぐらい喜んで飛び跳ねたのを覚えている。遠い昔の思い出だ。(三)
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ほんの数日前まで切る風がまだ冷たく頬にあたっていたはずだったが、その日は急に暖かくなって春らしい柔らかい風が体をそっと押した。父の荷台にも私の荷台にも縞模様の袋入り釣り竿が差してある。母が作ってくれたおにぎりと水筒が父の自転車のかごに入っている。
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カメが存外活動的であることを知らなかった浅はかな少年の期待は翌朝すっかり裏切られた。紐だけが残っていてカメは姿を消していたのだ。
それから何か月かたった夏の日、森の外れにある水神様の澄んだ池の端で少し大きくなったこのクサガメに再会したときは嬉しくて小躍りするという言葉がぴったりするぐらい喜んで飛び跳ねたのを覚えている。遠い昔の思い出だ。(三)
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