【4月10日投稿法話】
3月の下旬に、87歳の檀家女性が他界されました。今日は、この女性の嫁いだ先の姑さんの話を一席、させていただきます。
東京大空襲の時、防空壕の中に避難中、入口付近で爆弾が。爆風と共にあらゆる物が防空壕の中へ。咄嗟にご主人が奥さん(嫁ぎ先の姑さん)を庇って盾(前)に。その時、金属の破片がご主人の体を貫通し、奥様の腹部にめり込んだ。ご主人は即死。数十年後、5人の子供達が「ところで、あの体に入った破片はどうしたの」と母親に尋ねると「もうとっくの昔に手術したよ」と。が、子供達は「えっ、いつ、手術したんだろ」と疑問に。
その母親が、平成13年7月、92歳で他界を。通夜の日、箪笥の奥から、1冊の日記帳が。その中に『私のお腹の中には、夫のお肉通しの破片が。生涯この破片と共に生きていきます』と記載が。子供達は皆、顔を見合わせて絶句。火葬後、まさか、と思いながらも、遺骨の中を丁寧に探ると、腹部の部分に金属の破片が。すぐにお寺に連絡が。「住職。ありました。驚きました。夫婦の絆って、何なんでしょうね」と。
3月下旬に他界された、この87歳の女性は、この姑(破片)さんのお世話を長年、献身的に。看護師さんをされていた事もあり、戒名は『慈室院日光月光大姉位(じしついん、にっこうがっこう、だいしい)』と授戒を。この戒名の意味は、『慈』は、慈しみの心で、『室』は、家を、家族を守ってきた。『日光月光』は、時には、太陽の様に力強く、温かく、時には、月の様に優しく、穏やかに、と。その様な人生を歩まれてきた女性であったと。因みに、薬師如来の役目を担う為に、その職を頂いたが、ドクター。脇侍の日光菩薩、月光菩薩の役目(患者さんを癒す)を担う為に、その職を頂いたが、看護師さん、かな。よって、医師や看護師さんには拙僧、時折、戒名にこれを引用する事があります。
以前にも法話で、戒名(送り名)は、ご浄土(あの世)での名前。名無しの権平で逝かせる訳にはいかない、と。建前においては、まあ、そういう事ですね。が、それよりも、使われている漢字によって、その家の先祖がわかる(生き様、死に様)資料に。100年先、200年先で、読解力のある住職に縁あれば「この女性は、看護師さんだったのかも」と読み取ってくれるかも。
余談ですが、拙僧は住職という仕事をしていて、何が最も喜びを感じるかと言えば、戒名を授ける事かな。その人の生き様(生業も含)を漢字で表す事によって、後世の子孫に伝える事が出来る、唯一の手段が戒名にて。その戒名ですが、本来は生きている内に授けてもらうもの。時には、遺族の人達に拙僧「故人に対し、戒名にこの漢字を使って下さい、の希望はありますか」と尋ねる事が。ある時、檀家さんで、爺様3人(ファニーガイ、おもろい人)が「わしらに授戒してくれや」と拙僧に。そこで名付けた(勿論、半分冗談で)戒名が以下の3つです。
『天寿院好色一代居士位』(生涯、浮気三昧の男性)
『悪酔院狂酒変貌居士位』(日頃は静寂人、酒飲めば変貌男性)
『金銭院散漫放漫居士位』(お金にルーズ、賭け事好き男性)
これに対し、爺様達が「勘弁してくれよ。後世の笑い者になるばい。住職は『悪口も供養、忘れ去るが1番あかん』と言うが、流石にこれじゃ、堪らん」「でも、このままじゃ、こんな戒名にしかならんばい。世に言う『飲む(酒に飲まれる、欲に溺れる)、打つ(賭け事好き、お金にルーズ)、買う(異性にだらしない)』は、三大因縁にて、余程根性入れんと治らん。爺様ら、死ぬまでに改善しないや。改善出来たかどうかは、婆様に尋ねる。その状況を見て、戒名付けたる」と。
次回の投稿法話は、4月15日です。
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