米中貿易戦争は米中全面戦争へとエスカレーションするのか。
2018.11月18日、「APEC 米中対立で初の採択見送りAPEC首脳宣言、初の採択見送り 米中対立の影響」
「日本や米国、中国など21カ国・地域が参加し、パプアニューギニアで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が18日、閉幕した。会議では米中が互いの通商政策をめぐって対立し、首脳宣言の採択を断念する異例の事態となった。首脳宣言が採択されなかったのは、第1回の首脳会議が開かれた1993年以降初めて。代わりに議長国のパプアニューギニアが議長声明を発表することになった」と朝日新聞は報じている。
またロイター通信は次のように報じた。
議長国パプアのオニール首相は閉幕に当たり開いた記者会見で、加盟21カ国のどの国が合意できなかったかとの質問に対し、「2つの大国だ」と答えた。
また、朝日新聞デジタル版は「首脳宣言で世界貿易機関(WTO)やその改革の可能性に言及するかどうかが合意の障害になったと説明。「APECにはWTOに関する権利はない。それは事実だ。こうした問題はWTOでの提起が可能だ」と述べた。
米国は会議で、中国が国有企業に巨額の補助金を出していることや、国外の企業に技術移転を強要していることを批判。中国を念頭に、共通の貿易ルールを定める世界貿易機関(WTO)を改革する必要性を宣言に盛り込むよう提案した。
これに中国が反発。米国を念頭に保護主義や単独主義的な動きを批判するとともに、米国の提案に反対した。反対はほかの国からもあったとみられ、パプアニューギニアも調整しきれなかった。」とも報じている。
これらの報道を読むと貿易のルール作りについてアメリカの主張と中国の主張が折り合わなかったということが分かった。アメリカは資本主義経済に基づく貿易政策を主張し、中国は社会主義経済を目指す貿易政策を主張したため、折り合いがつかなかったと理解した。
その一つが中国の国有企業に対する補助金だ。アメリカに輸出する中国国有企業への補助金は中国製品に25%の関税をアメリカ政府が課しても、その効果を無にしてしまう可能性がある。アメリカ政府は中国政府がアメリカ輸出製品製造国有企業に政府補助金を出されては困るということなのだろう。そのような補助金を出すことは公正な貿易ではないという海外貿易のルールにしようとアメリカ政府を代表したペンス副大統領は主張した。アメリカの属国である日本政府はアメリカの主張に賛成したのだろう。
しかし「APECにはWTOに関する権利はない」という意見が出され、議長国のパプアニューギニア首相は「首脳宣言」を出さない決断をしたのかなと私は理解した。
アメリカ、ペンス副大統領は中国政府に対して苛立ちを覚えたことであろう。ペンス副大統領は2018年10月4日、ハドソン研究所でチャーチル元イギリス首相の「鉄のカーテン」演説に匹敵する演説をしている。
チャーチルは1946年3月、アメリカ合衆国ミズーリ州フルトンで演説した。その一節の「バルト海のステッテンからアドリア海のトリエステまで、ヨーロッパ大陸に鉄のカーテンが降ろされた」と述べた。これが米ソ冷戦の始まりだった。ソ連邦が東ヨーロッパ諸国の共産主義政権を統制し、西側の資本主義陣営と敵対している状況を批判した。その後、ソ連=共産圏の排他的な姿勢を非難する言葉として多用され、現在に至っている。
チャーチルがソ連を批判したようにペンス副大統領は中国を批判している。ペンス副大統領の演説文を読むと中国がアメリカの覇権を脅かす覇権国を狙っているという不安感に満ちている。中国政府に対する不信感が不安感を生んでいる。
アメリカ・ハーバード大学グレアム・アリソン教授は著書『Destined For War』(邦訳『米中戦争前夜・新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』の中で「ツキュディデスの罠」を述べている。ツキュディデスとは、『戦史』という著書を書いた古代ギリシアの歴史家である。彼はその著書の中で都市国家スパルタとアテネが30年間ギリシア世界の覇権を争ったペロポネソス戦争を書いている。
覇権国スパルタが新たな強国アテネの出現に不安を抱く、ここに戦争の始まりがあると。