皆出でて橋を戴く霜路哉 芭蕉 元禄六年
この句には「新両国の橋かかりければ」と前詞がある。
橋にはロマンがある。橋の上には夢がある。橋は人と人とを結びつける。この句を読んで私は突然、若かった頃読んだドストエフスキーの短編小説『白夜』を思い出した。サンクトペテルブルクは、ピョートル大帝によって18世紀に築かれた人工都市である。そこはネヴァ川河口に築かれている。江戸と同じように運河が幾筋も築かれ、橋が大きな役割をしている。白夜に孤独な青年が橋のたもとで少女と出会う。幻の恋の物語だ。
芭蕉庵の脇を流れる小名木川も隅田川と旧中川を結ぶ運河・水路である。江戸時代初期に徳川家康の命令で建設されたものである。水の都・江戸の街にとって橋は江戸に暮らす町人たちにとってあこがれの待ちに待った公共のものであった。
新しい橋ができた江戸町人の喜びを芭蕉は詠んでいる。新両国橋にできた霜が朝日に輝いていた。白く輝く霜を見て目を輝かす町人たちの喜びを芭蕉は詠んでいる。