本書は2010年8月26日に第1刷が発行された。3.11の半年余り前だ。
原子炉がなぜ時限爆弾なのか?
著者は原発と地震との関係をこの本で論じている。
1995年の阪神大震災から、「日本は地震の活動期に入った」という地震学者の言葉が下敷きになっている。地球史規模で見れば、数年、十数年、数十年などはほんの一瞬であり、まさに「時限爆弾」のカウントと同じ位の短さで刻々とカウントダウンが始まっているのだ。カウントゼロで地震の発生が起爆になり、人災要因の累積結果である原子力発電所が事故を起こし爆発するという意味の暗喩だと理解した。
本書の副題は、「大地震におびえる日本列島」であり、本書の構成を見れば本書のタイトルの意味が一目瞭然であろう。
序章 原発震災が日本を襲う
第一章 浜岡原発を揺るがす東海大震災
第二章 地震と地球の基礎知識
第三章 地震列島になぜ原発が林立したか
第四章 原子力発電の断末魔
電力会社へのあとがき--畢竟、日本に住むすべての人に対して
本書に福島第一原発は間接的に3.11以前の事故事例について出てくるだけである。第一章の浜岡原発は日本の識者が認識する「いよいよ迫る東海大震災」に直結するものとしてシンボリックにとりあげられているにすぎない。「予測されている次の東海大震災の想定震源域の中心に、信じがたいことに浜岡原発がある。・・・この東海大震災は、御前崎の前に広がる遠州灘を震源として海側で発生する地震である」(P36)という点で、日本の原発立地の典型例として提示されたのだ。活断層の上に、あるいはその近傍に全原発が立地しているという事実を我々読者が理解できれば、原発と地震の関係は全原発で同じになる。つまり、3.11に福島第一原発事故(フクシマ)が浜岡原発よりも一歩先に、本書出版後わずか半年余で著者の主張を実証してしまったのだ。実現して欲しくない推論がまさに現実化してしまったのだ。
第一章のP95~99「原発震災で何が起こるか--大都市圏の崩壊」をまず読んでいただくと良いかもしれない。東海大地震が発生した時の著者の想像図である。どのように感じられるだろうか。本書を3.11(フクシマ)以前に読むのと、現時点で読むのでは、感想がかなり異なるかもしれない・・・・・あなたはどう受け止められるだろうか。
著者はこの想像図を提示する前に、日本を取り囲むプレートの配置と、過去に発生した太平洋中心の主な地震の震源地はプレート境界で発生していることを説明し、2009年の駿河湾地震の実害と安政東海大地震の状況について対比的に分析し、詳しく事実を説明している。その上で描かれた想像図なのだ。
また、著者はこの第一章に静岡大学の小山真人教授の「東海地震、正しくイメージを」と題する静岡新聞への寄稿文全文を引用している。
本書の著者はこう述べる。
「私が本書で最も読者に理解していただきたいことは・・・・専門家の意見と予測に耳を傾ける真摯な態度を持つ一方で、私たちの生命を左右する”ある種の専門家”に対しては、重大な猜疑心を抱いて見なければならない」(P193)と。
そして、駿河湾地震が起こった時の報道姿勢について、「コメンテーターたちが浜岡原発の危険性を必死になって過少に語ろうとしていた態度から歴然とする事実だが、どうやら日本では、原発震災が本当に起こった時に、テレビ局はNHKも民放も、政府や電力会社からの圧力を受けて、現地住民や国民に正しくその危険性を伝えないだろう、と確信させる出来事であった」(P59)と記す。これは、フクシマでまさにその実態が露わになってしまった。著者のこの確信を、国民の大半が共有せざるを得なくなった。現地住民、国民は、繰り返し欺かれてきたことになる。いまも尚欺かれているように感じる。
なぜ、地震が問題なのか。出版時点の著者の論点を抽出してみよう。フクシマの映像を見た人は納得するだろう。私は納得した。
*原子力発電所は、・・・原子炉建屋とタービン建屋という別々の建屋から成っている。タービン建屋の強度は、原子炉建屋と比較にならないほど弱い。どちらの建屋に破壊が起こっても、原子炉の沸騰水が一本の配管でつながっているので、その熱を奪えなくなり、メルトダウンという最大の惨事を引き起こすおそれが出てくる。(P65)
*原子炉建屋とタービン建屋は、まったく別の施工によって建てられ、基礎工事からすべて異なる建物で、・・・やや離れた場所にあるから、東海地震で予測されるような大地震では、地震の揺れが襲った時には、それぞれがまったく異なる揺れ方をする。(P65)
*パイプは、それぞれが溶接によってつながれているので、地震のショックで破壊する可能性が最も高いのは、欠陥を含む溶接箇所である。(P68)
*原子炉や再処理工場などの原子力プラントについての耐震性の数字は、主として原子力施設内で最も強固に建設されている部分に議論が集中しやすいが、所内完全停電を誘発する可能性が高いのは、送電系統やタービンなどを含めて、その周囲に接続する部分であり、これらの耐震性は、一般建造物とさして変わらないものを多数含んでいるからである。所内が完全停電になった場合には、原子炉が暴走していると分かっても、緊急事態に対して、ボタンを押しても何も作動しないのだから、何も手を打てなくなる。時間がたてばたつほど原子炉の暴走は、そのまま最悪の事態へと突入してゆく。(P69)
著者の視点で捉えると、原子炉自体の耐震性もさることながら、原発の関連施設や送電システム全体の耐震性がなければ、配管破断、送電停止などで、確実に原子炉暴走が発生する。だからこそ地震が重要要因になる。地震が原発事故を起こすのではない。活断層の上に原発を立地させるという選択をした人間が、および地震に対する耐震性を完璧に想定せず、対処しないまま原発を築いた組織集団の行為という要因が、地震を起爆にして事故を人災として起こすのだ。そのことを認識するためには、地震発生のメカニズムについて、および現状の原発がもつ様々な人災要因について、事実に基づいて正確に理解しなければならないのだ。
ところが、地震学者の中にもいろいろあり、地震の分析を限定的・局面的にとらえている輩もいる。電力会社に都合のよい解釈を述べる人も存在することに著者は警鐘を発している。著者は、まず地球全体規模のマクロの視点から地震を理解する必要があると説き、第二章で、現在の地震学の考え方を具体的に解説している。
地球は生きているということをまず強調する。地球の内部構造、その力学的構造、ヴェーゲナーの大陸移動説、「プレートテクトニクス」理論、そして、日本列島にどのような造山運動のメカニズムが働き、列島が形成されたかの変遷を解説する。西ヨーロッパの地質分布を図で説明(P150)しているが、もっとも若いアルプス造山帯(イタリアはその一部)でも2億5000万年前以降の地質なのだ。それに対し、日本については、新生代後半(2400万~1200万年前)に、海底火山によるグリーンタフ造山運動が始まったことで、日本列島が最後に形成されたと説明する。日本はヨーロッパの地質などと比べて、決して「強固な岩盤」が存在しないと説く。そして、我が国の原発立地について、地質学者・生越忠氏の批判点を引用する。「電力会社が宣伝している強固な岩盤とは、言葉だけだ。原発は、湾内の弱い破砕帯を選んで建設されてきたので、原発ぐらい弱い地盤の上に建っているものはない」(P151)。著者は言う。「浜岡原発が建設された地層は、相良層である。・・・相良層は『強度が低い』軟岩なのである。これは、ここまで述べた日本のグリーンタフ造山運動を知っていればすぐ分かることだが・・・」(P134)と。
私は「プレートテクトニクス」理論の要点はいくつかの記事で読んだことがあったが、「グリーンタフ造山運動」という言葉自体を本書で初めて知った。勿論、日本列島形成の変遷も・・・・地震について、いかに無知であったかをこの書でまず学んだ。自覚すれば、事実をさらに知るアクションを起こすだけだ。
第三章は、日本で「プレートテクトニクス」理論が共有された認識になる以前に原発が導入され、この理論を長らく認めようとしなかった事実を語る。そして、「日本の電力会社は、地盤が強固な土地を選んで原発を建設するのではなく、原子力発電所の建設地を選択したあと、その『安全性』を証明するためにアリバイづくりの地質調査をする、という逆の手順を取ってきた。」(P157)と論じている。地震予知総合研究振興会という組織が御用学者・専門家の役割を果たしたと記す。
また、阪神大震災でそれまでの原発耐震指針の信頼性がなくなり、過去の原発の耐震性の計算式が総崩れになったこと、および2009年9月の「改訂新指針」決定後の耐震性について説明している。その上で、「日本の原発の耐震設計審査指針は、『大事故を絶対に起こさないために、果たして日本に原発を建設できるか』という、最も基本的な地球科学の疑問から出発しなかった。そして現在も、その疑問を抱かない異常な人間たちが、審査をおこなっている。『いかにすれば原発を建設し、運転できるか』という結論を導くための、屁理屈の集大成理論である」(P175)と論断している。
また、新潟中越地震で何が起こったか、柏崎刈羽原発を事例として採りあげる。そして、変動地形学に注目し、その紹介をしている。
第四章では、なぜ日本が高速増殖炉”もんじゅ”のプルトニウム使用を、一方でプルサーマルをスタートさせたのかを、放射能の基礎知識を説明した上で論じ、六ケ所再処理工場の計画と行き詰まりの実態を説明する。これら国策を推進してきた主要人物、それに荷担した人物を実名入りで記し、それらの人々がどんな役割・機能が担ってきたのか、その実態を述べている。著者は、電力会社・原子力産業界が、今や迷走状態にあり、「本来の目的さえ失って、ハンドルもブレーキもない車に国民を乗せて、目的地を知らずに暴走させている」(P268)と批判する。
原発震災の危険性と「高レベル放射性廃棄物」の処分問題が、結局、日本国民全体を「原発断末魔」の苦しみの時代に巻き込んでしまったのだ。一般国民が知らぬ間にあるいは無関心のままここまできた結果、日本破滅のシナリオの一つが準備されてしまったのだ。
この事実について知り、気づいて、自分の頭を使って考え、行動することを著者は問いかけている。
「電力会社へのあとがき」に、著者は記す。
「原子力とは、原子炉の運転が止まるまで危険なのである。批判しても、原子炉が動いていれば、結果として、何の意味もないことである。原子炉を止めるまで、私たちの危険は去らないからである。私はこう尋ねたい。
日本人は、なぜ死に急ぐのか?」(P281)
死に急ぎたいとは思わない。日本地図の視点から見れば、支脈の活断層の近くに生活している事実を認識せざるを得ない。現住所での生活をやめるわけにはいかない。ならば、原子炉を止める選択肢しか残らない。100%安全な原子炉なんてあり得ないのだから。
フクシマの実態を突きつけられてしまった現在、もはや原発に対して「知らぬがほとけ」では生きていけない。3.11以降、時代は変わってしまったのだ。
引用されている情報のいくつかのソースおよび本書を読みながら関心を抱いたその他関連情報をネット検索してみた。
全国地震動予測地図 2010年版 平成22年5月20日
地震調査研究推進本部地震調査委員会
全国地震動予測地図
- 地図を見て 私の街の 揺れを知る - 手引・解説編 2010 年版
pdfファイルの一括ダウンロードができます。
全国地震動予測地図
- 地図を見て 私の街の 揺れを知る - 地図編 2010 年
これは予測地図の一括ダウンロード用です。
全国地震動予測地図 平成21年7月21日
地震調査研究推進本部地震調査委員会
上記のページから以下を抽出します。
都道府県別確率論的地震動予測地図 中部地方
このpdfファイルの15-16枚目(ページ番号78-79)が浜岡原発のある静岡県の領域です。
全国地震動予測地図 - 地図を見て 私の街の 揺れを知る -
本編 (「地図編」・「手引編」・「解説編」)
pdfファイルの一括ダウンロードができます。
2分続く本震,1年続く余震 東海地震,正しくイメージを
小山真人(静岡大学教育学部教授) 静岡新聞 時評(2007年5月10日)
この時評が、本書のP85~87に紹介されています。
「浜岡原発リポート」というブログ(Nobuo Kasai氏作成)を見つけました。
安政の大地震 ウィキペディアより
安政東海地震 防災システム研究所のページより
安政南海地震 防災システム研究所のページより
東海地震 ウィキペディアより
安政東海地震の前兆現象 日本大学文理学部・静岡県地震対策課
[報告]安政東海地震・安政南海地震(1854)に伴う日月異常と火柱現象について
東京大学地震研究所 都司嘉宣
プレートテクトニクス ウィキペディアより
地震はなぜ起きるのか 防災科研のウェブサイトより
プレート理論の画像集
日本列島周辺のプレート
日本列島の誕生 1/3
shnn1000 さんが 2010/07/04 にアップロード
日本列島の誕生 2/3
日本列島の誕生 3/3
日本列島の成り立ちと定山渓の山々
東北地方の新第三系 北村 信 東北大学理学部教授
原子燃料サイクル施設を載せる六ヶ所断層
渡辺満久・中田 高・鈴木康弘
六ヶ所再処理工場が抱える大問題
ガラス固化体製造と活断層をめぐって
「段丘面」の位置付け鍵/再処理工場・活断層問題
渡辺満久教授、現地での活断層説明-1
yamyamkn さんが 2008/06/16 にアップロード
再処理工場直下の活断層を指摘した渡辺満久東洋大学教授が、六ヶ所現地で活断層の露頭を前に解説します。
渡辺満久教授、現地での活断層説明後のインタヴュー
yamyamkn さんが 2008/06/16 にアップロード
東日本巨大地震の震源遷移 H23.3.7~3.16
MrMIKE0045 さんが 2011/03/16 にアップロード
東日本巨大地震の震源遷移(H23.3月7日~3月16日)を、気象庁DBよりアニメ化
宍道断層 島根地質百選選定委員会
島根原子力発電所近傍の宍道断層を巡る重大問題とそれへの対応
震分第46-8-1号 委員:石橋克彦
活断層はどこまで割れるのか? 中田 高 ・ 後藤秀昭
お読みいただき、ありがとうございます。