本作品は1996年1月に飛天出版より刊行され、2011年8月に文庫本化されたものである。
本書には年代が出てこないが、出版された時期の時代背景を踏まえた作品である。1990年代初めに日本経済はバブルが崩壊し、1992年に暴力団対策法が施行されている。日本の暴力団の牙が削がれ、台湾マフィアが次第に引き上げる中で、その間隙に中国人が入り込んで来たという時期である。新宿地域では、中国人同士の抗争が勃発し、2002年後半には日本の暴力団と中国マフィアとの抗争も発生している。そういう時代推移のなかで、この作品が構想され、出版されている。
具体的な年代、時期の記述がないので、そういうことと無関係に独立したフィクションとしても楽しめる。
主人公はバーテンダーの氷室和臣である。新宿区役所通りとゴールデン街を結ぶ細い路地に面したビルの地下にある『ハイランド』というカウンターがメインのバーに勤めている。身長は175cm前後、年齢は40歳を過ぎているが、肌の色つやもよく30台前半に見える。ワイシャツを着た肩のあたりが丸く盛り上がり、ベストから筋肉がはみだしているような良い体格である。オールバックというおとなしいスタイルで、あまり口をきかないが聞き上手な人物。彼はかつて入国管理局の第二庁舎、警備課に勤めていた。ある事件で収容されていた不法残留者の兄弟の一人が急性心不全で死亡する。それに関わっていたことから氷室は入管を辞め、就学ビザを取得して台湾に2年間住んでいたことがある。台湾語を学ぶ傍らその文化を理解するために、形意拳と八掌拳という武術や風水を学んだという。帰国してから『ハイランド』に勤めているのだ。
新宿署が環境浄化作戦を実行した後、しばらく静かになっていたのに、中国人同士の抗争が再びエスカレートし始める。中国人の発砲事件の翌日、法務局入国管理局・特別対策室室長・土門武男という名刺を持った人物が、バーに訪れ、氷室に質問することからストーリーが展開していく。
土門は不法残留者として収容され、その後中国に送還された中国人呉俊炎を事情があって調べていると言う。呉俊炎と呉良沢という兄弟の不法残留者のうち、呉良沢が急性心不全という死因でなくなり、病死として発表された。そのことに対し、兄の呉俊炎が入管職員の暴行で死亡したと主張して訴訟を起こそうとしたが強制退去で出国、送還されたということの事実を調べているようなのだ。氷室は昔のことで忘れたと答える。だが事実はそのリンチ事件に関わっていた。弟の死亡自体に直接関わりを持ってはいなかったが、兄を押さえているということで暴行を傍観していたのだ。
氷室は新宿歌舞伎町のキャバクラで働く19歳の村元麻美が客に連れられて『ハイランド』にやってきたことから、知り合いとなり今は中野坂上のマンションで同棲している。この麻美が氷室に、新宿での中国人同士、中国人と日本の暴力団の抗争についての伝聞を氷室に話したり、思わぬことで氷室が耳を傾けざるを得ない発言をするなどの役回りを果たしていく。
一方、いずれ氷室と関わっていく中国人のヤンという流氓(リュウマン)が登場する。彼は長拳を学んでおり、あることがきっかけでストリートファイターとして才能を開花させ、今や流氓の1グループのリーダーになっている。彼は表社会の経済力をバックに、この歌舞伎町を自分たちのものにしたいという野望を抱いているのだ。その野望を抱かせた裏には大きな資本力を持つボスがいるという。そして、日頃はゴールデン街の空き地で屋台を出す中国人などの用心棒まがいのことを行い、流氓グループの勢力を伸ばそうとしている。ヤンのグループと地元の暴力団との抗争が始まっていく。またボスの指示で密かに指示された人物を事故死に見せかけて殺めることも実施している。
ある日、『ハイランド』に来た客が、中国人だか台湾人だかが夜中から夜明けにかけて、道路に鉄の杭をさかんに打ち込んでいるという噂話をする。その日、麻美も来店していてその噂を耳に留めるのだが、氷室は難しい顔でその話を聞いていると麻美は観察していた。氷室は鉄の杭に関心を抱き、麻美と調べに回る。誰がそれを実行しているのかは知らぬまま、その鉄の杭が、風水に関係しているのではと推論していく。このことが、本書のタイトルとも関係しているのである。
週明けに『ハイランド』の最初の客として、氷室が入国管理局警備課に勤めていたころの同僚、沢渡昇一がひょっこり現れる。沢渡は氷室に橋本と村上が殺された、俺も危ない、おまえも注意しろと告げにきたのだ。橋本と村上は不審な死に方だが警察は事故と言っているという。その沢渡が、『ハイランド』を訪れた直後に、新宿駅ホームから転落し、轢死する。それを契機に麻美と話し合った氷室は土門とコンタクトを取る。
氷室は、土門から呉俊炎が香港で成功した大実業家として来日していることを知る。だが、土門は呉俊炎の来日意図は別のところにあり、それを阻止するのが自分の使命と考えている。そして、氷室をそのために活用しようとする。氷室は己が殺されないことと麻美に被害が及ばないことのために土門に協力していくことになる。つまり、氷室が囮になる立場なのだ。
呉俊炎は、ヤンを手先として介在させて氷室の抹殺を狙う一方で、新宿・歌舞伎町を拠点として支配下に置くためにヤンとそのグループを利用して工作していこうとする。呉俊炎・ヤンと氷室・土門が対決していく形になる。
呉俊炎は、弟の仇をとりたいという私怨で氷室を狙い、新宿歌舞伎町の複雑な縄張り抗争を操り支配権を掌握し、表の政治の局面をも自ら意図に絡めていこうとする。そこに風水の力をも持ち込もうと画策していく。
氷室は土門のバックアップがあるというものの、囮として孤独な闘いを開始する羽目になる。付け焼き刃ではあるが、土門の指示を受け、氷室は正式に教官からSIGザウアーという拳銃の撃ち方、メンテナンスの訓練を受け、拳銃保持の身分証の発行を受けることになる。
氷室に仕組まれた筋書き、歌舞伎町乗っ取りの工作が併行して俄然急速に進展していくというストーリー展開である。そしてそれらが意外な形で交錯し収斂していく。この作品も比較的シンプルでありながらおもしろい展開である。
本作品もやはり一気に読み終わった。
ご一読ありがとうございます。
作品に出てくる、あるいは関連する語句をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
入国管理局 ホームページ
東日本入国管理センター 組織・機構
法務省 入国管理局 :法務省ホームページ
退去強制手続等 統計資料 2012年
歌舞伎町 :ウィキペディア
歌舞伎町ポータルサイト
歌舞伎町・外国人マフィア裏面史 :「裏の裏は、表・・・に出せない!」
Q&A 快活林青竜刀事件 :「YAHOO!知恵袋」
知られざる韓国・組織暴力(ヤクザ)事情とその歴史!
:「裏の裏は、表・・・に出せない!」
盛り場総合対策=盛り場の環境浄化に向けて= :「警視庁」
薬物乱用の恐ろしさ 薬物って何?
東京新宿鎮座 花園神社 ホームページ
流氓 デジタル大辞泉の解説 :「コトバンク」
中国武術の分類 :「中国武術基礎講座」
長拳と太極拳 :「亀戸図書館委員会」
形意拳 :ウィキペディア
形意拳 川村老師 演武 :YouTube
八掌拳 → 八卦拳 :ウィキペディア
Baguazhang form 八掌拳 :YouTube
虎拳 → 黒虎拳 :ウィキペディア
功夫 :ウィキペディア
風水 :ウィキペディア
風水の歴史 :「風水168」
風水学とは? :「風水専科」
龍穴 :ウィキペディア
龍の道 → 風水について :「運気アップ.com」
SIGザウアー → SIG SAUER P220 :ウィキペディア
シグザウエル P220 :「ハリウッド女優と拳銃」
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その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『宰領 隠蔽捜査5』 新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』 徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』 集英社
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新2版
本書には年代が出てこないが、出版された時期の時代背景を踏まえた作品である。1990年代初めに日本経済はバブルが崩壊し、1992年に暴力団対策法が施行されている。日本の暴力団の牙が削がれ、台湾マフィアが次第に引き上げる中で、その間隙に中国人が入り込んで来たという時期である。新宿地域では、中国人同士の抗争が勃発し、2002年後半には日本の暴力団と中国マフィアとの抗争も発生している。そういう時代推移のなかで、この作品が構想され、出版されている。
具体的な年代、時期の記述がないので、そういうことと無関係に独立したフィクションとしても楽しめる。
主人公はバーテンダーの氷室和臣である。新宿区役所通りとゴールデン街を結ぶ細い路地に面したビルの地下にある『ハイランド』というカウンターがメインのバーに勤めている。身長は175cm前後、年齢は40歳を過ぎているが、肌の色つやもよく30台前半に見える。ワイシャツを着た肩のあたりが丸く盛り上がり、ベストから筋肉がはみだしているような良い体格である。オールバックというおとなしいスタイルで、あまり口をきかないが聞き上手な人物。彼はかつて入国管理局の第二庁舎、警備課に勤めていた。ある事件で収容されていた不法残留者の兄弟の一人が急性心不全で死亡する。それに関わっていたことから氷室は入管を辞め、就学ビザを取得して台湾に2年間住んでいたことがある。台湾語を学ぶ傍らその文化を理解するために、形意拳と八掌拳という武術や風水を学んだという。帰国してから『ハイランド』に勤めているのだ。
新宿署が環境浄化作戦を実行した後、しばらく静かになっていたのに、中国人同士の抗争が再びエスカレートし始める。中国人の発砲事件の翌日、法務局入国管理局・特別対策室室長・土門武男という名刺を持った人物が、バーに訪れ、氷室に質問することからストーリーが展開していく。
土門は不法残留者として収容され、その後中国に送還された中国人呉俊炎を事情があって調べていると言う。呉俊炎と呉良沢という兄弟の不法残留者のうち、呉良沢が急性心不全という死因でなくなり、病死として発表された。そのことに対し、兄の呉俊炎が入管職員の暴行で死亡したと主張して訴訟を起こそうとしたが強制退去で出国、送還されたということの事実を調べているようなのだ。氷室は昔のことで忘れたと答える。だが事実はそのリンチ事件に関わっていた。弟の死亡自体に直接関わりを持ってはいなかったが、兄を押さえているということで暴行を傍観していたのだ。
氷室は新宿歌舞伎町のキャバクラで働く19歳の村元麻美が客に連れられて『ハイランド』にやってきたことから、知り合いとなり今は中野坂上のマンションで同棲している。この麻美が氷室に、新宿での中国人同士、中国人と日本の暴力団の抗争についての伝聞を氷室に話したり、思わぬことで氷室が耳を傾けざるを得ない発言をするなどの役回りを果たしていく。
一方、いずれ氷室と関わっていく中国人のヤンという流氓(リュウマン)が登場する。彼は長拳を学んでおり、あることがきっかけでストリートファイターとして才能を開花させ、今や流氓の1グループのリーダーになっている。彼は表社会の経済力をバックに、この歌舞伎町を自分たちのものにしたいという野望を抱いているのだ。その野望を抱かせた裏には大きな資本力を持つボスがいるという。そして、日頃はゴールデン街の空き地で屋台を出す中国人などの用心棒まがいのことを行い、流氓グループの勢力を伸ばそうとしている。ヤンのグループと地元の暴力団との抗争が始まっていく。またボスの指示で密かに指示された人物を事故死に見せかけて殺めることも実施している。
ある日、『ハイランド』に来た客が、中国人だか台湾人だかが夜中から夜明けにかけて、道路に鉄の杭をさかんに打ち込んでいるという噂話をする。その日、麻美も来店していてその噂を耳に留めるのだが、氷室は難しい顔でその話を聞いていると麻美は観察していた。氷室は鉄の杭に関心を抱き、麻美と調べに回る。誰がそれを実行しているのかは知らぬまま、その鉄の杭が、風水に関係しているのではと推論していく。このことが、本書のタイトルとも関係しているのである。
週明けに『ハイランド』の最初の客として、氷室が入国管理局警備課に勤めていたころの同僚、沢渡昇一がひょっこり現れる。沢渡は氷室に橋本と村上が殺された、俺も危ない、おまえも注意しろと告げにきたのだ。橋本と村上は不審な死に方だが警察は事故と言っているという。その沢渡が、『ハイランド』を訪れた直後に、新宿駅ホームから転落し、轢死する。それを契機に麻美と話し合った氷室は土門とコンタクトを取る。
氷室は、土門から呉俊炎が香港で成功した大実業家として来日していることを知る。だが、土門は呉俊炎の来日意図は別のところにあり、それを阻止するのが自分の使命と考えている。そして、氷室をそのために活用しようとする。氷室は己が殺されないことと麻美に被害が及ばないことのために土門に協力していくことになる。つまり、氷室が囮になる立場なのだ。
呉俊炎は、ヤンを手先として介在させて氷室の抹殺を狙う一方で、新宿・歌舞伎町を拠点として支配下に置くためにヤンとそのグループを利用して工作していこうとする。呉俊炎・ヤンと氷室・土門が対決していく形になる。
呉俊炎は、弟の仇をとりたいという私怨で氷室を狙い、新宿歌舞伎町の複雑な縄張り抗争を操り支配権を掌握し、表の政治の局面をも自ら意図に絡めていこうとする。そこに風水の力をも持ち込もうと画策していく。
氷室は土門のバックアップがあるというものの、囮として孤独な闘いを開始する羽目になる。付け焼き刃ではあるが、土門の指示を受け、氷室は正式に教官からSIGザウアーという拳銃の撃ち方、メンテナンスの訓練を受け、拳銃保持の身分証の発行を受けることになる。
氷室に仕組まれた筋書き、歌舞伎町乗っ取りの工作が併行して俄然急速に進展していくというストーリー展開である。そしてそれらが意外な形で交錯し収斂していく。この作品も比較的シンプルでありながらおもしろい展開である。
本作品もやはり一気に読み終わった。
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作品に出てくる、あるいは関連する語句をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
入国管理局 ホームページ
東日本入国管理センター 組織・機構
法務省 入国管理局 :法務省ホームページ
退去強制手続等 統計資料 2012年
歌舞伎町 :ウィキペディア
歌舞伎町ポータルサイト
歌舞伎町・外国人マフィア裏面史 :「裏の裏は、表・・・に出せない!」
Q&A 快活林青竜刀事件 :「YAHOO!知恵袋」
知られざる韓国・組織暴力(ヤクザ)事情とその歴史!
:「裏の裏は、表・・・に出せない!」
盛り場総合対策=盛り場の環境浄化に向けて= :「警視庁」
薬物乱用の恐ろしさ 薬物って何?
東京新宿鎮座 花園神社 ホームページ
流氓 デジタル大辞泉の解説 :「コトバンク」
中国武術の分類 :「中国武術基礎講座」
長拳と太極拳 :「亀戸図書館委員会」
形意拳 :ウィキペディア
形意拳 川村老師 演武 :YouTube
八掌拳 → 八卦拳 :ウィキペディア
Baguazhang form 八掌拳 :YouTube
虎拳 → 黒虎拳 :ウィキペディア
功夫 :ウィキペディア
風水 :ウィキペディア
風水の歴史 :「風水168」
風水学とは? :「風水専科」
龍穴 :ウィキペディア
龍の道 → 風水について :「運気アップ.com」
SIGザウアー → SIG SAUER P220 :ウィキペディア
シグザウエル P220 :「ハリウッド女優と拳銃」
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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『宰領 隠蔽捜査5』 新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』 徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』 集英社
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新2版