ストレートで現代にマッチする題名である。1999年にハルキ文庫に入った時点で改題された。そして、2008年9月に新装版が出版されている。上掲のカバーは新装版のもの。
このタイトルから、はやくもストーリーの一端が明瞭に見えてくる。ボデーガードを仕事として請け負う工藤兵悟という男が、何かを追跡するストーリーであり、そこには簡単には捕まえがたいハードルがあり、難関を乗り越えなければならないゲーム性を秘めている・・・・。そんなところまでは想像できる。
この作品は、最初1994年に祥伝社から刊行された。その原題は『追跡原生林北八ヶ岳72時間の壁』だった。こちらはさらに具体的なタイトルだ。まあ、今風のタイトルの方が、若者受けしそうであるが。
原題を重ねると、一層具体的にストーリーの予告に近くなる。場所は北八ヶ岳。そして普通の人ならあまり近寄らない原生林の中で追跡バトルが始まる。デッドラインは72時間後、このタイムリミットまでに工藤兵悟は追跡のゲームを完了させないと、誰かのボディーガードの役割を果たせない。工藤が追跡しているのだから、守るべき対象が捕らわれていてそれを追跡しているか、守るべき対象が何らかの理由でどこかに居て、その対象を守る為には、チェイス・ゲームを行っているその対象を捕まえなければ、ボディーガードできない状況にいる。
これだけでたぶん興味がそそられるのではないか。同文庫で現在出ている第1作『ナイトランナー』をお読みであればこれで十分かもしれない。
それでは少し足りないと感じる方のために、私自身の読後記憶を引き出すためのメモを兼ねて、少し読後印象を交えて続きを記しておきたい。
この作品のおもしろいところは、やはり追跡というテーマで、追う者・追われる者の互いの知力と経験、持てるスキルを駆使したバトル・ゲームが展開されるところにある。どんな罠が仕掛けられるか、それをどう回避できるか。どんな捕まり方になるのか。いわゆる、そのストーリー展開のワクワク、ヒヤヒヤ感、バトル展開のスピード感、どこまで意外な展開となるか・・・そのエンターテインメント性にある。この点、72時間というタイムリミットが嫌でもその感覚を高めていく。これは常套手段なのかもしれないが。
工藤兵悟は、乃木坂のビルの1階にある『ミスティー』という地味なカウンター・バーの奧の部屋を間借りし、そのバーに用心棒を兼ねて身を寄せている。そして、ボディーガードの仕事を単発的に請け負って生業としている。だが、彼はかつてフランス外人部隊の第四連隊に属し、みっちりと鍛えられた優秀な兵士だった。そして、フリーランスの傭兵として世界の戦場で戦いサバイバルしてきた男である。銃・ナイフなどの武器の扱い、チェイスのためのスキルなど、兵士としての条件は抜群なのだ。その世界では名が知られた存在になっている。
『ミスティー』に、アル・ソラッツオというイタリア人の戦友が突然に、厳重に包装された円盤状の包みを大事そうに持って、訪ねて来のだ。工藤はアルと傭兵時代を一緒にすごしたことがある。アルもまた、一流の優秀な兵士だった。アルはマフィアに追われているという。事情があり、兵悟を頼って日本に来たという。兵悟に助力して欲しいというのだ。ボディーガードとしての兵悟を傭いたいとアルは言うが、工藤は拒否する。
そこで、アルが工藤に頼み込むのは、円盤状の荷物を一時的に秘かに預かってほしいことと、逃げ延びるための最初の手助けである。彼は日本の山岳地帯に一旦逃げ込みたいという。実は、森林山岳地帯での行動はアルが特に得意とする分野なのだ。森林帯での傭兵としての卓越した行動力には、工藤が一目置いているほどなのだ、その分野では工藤自体がアルには及ばないと自覚している。
工藤はトレーニングのために使いメモを書き込んだ山岳地図を含め、山岳地帯でのサバイバルに必要な最小限の道具一式をアルに提供してやる。そして、自分のパジェロでアルを後30キロも行けば碓氷峠という山道のところまで送ってやることになる。アルは工藤に言う。「このあたりから、俺の世界のような気がする」と。
このアルが追われる者になり、工藤が追う者の立場に投げ込まれるのである。
互いを知り尽くした者同士の間でのチェイス・ゲームが始まらざるを得ない状況が持ち上がる。
一方、そのチェース・ゲームはなぜ、何のために行われるのか? その切実感がないと、単に遊び感覚だけになる。この作品はその切実感を十分にいくつかの視点で含ませている。そこに意外性も秘められて、最後のクライマックスで一挙に納得感も出るストーリー構成になっている。
このゲームの始まる「切実感」は多面的である。誰の立場に立つかによって、その切実感の中身が違う。勿論、メインとなる切実感は工藤自身に課せられたタイムリミットの背景にある切実感である。まずは、登場人物周辺の切実感の要点に触れておく。
アルの切実感。大事そうに携えてきた円盤状の包みを守りきるために、追われる立場で生き延びること。彼は、新興のコルレオーネ・マフィアがある物(ブツ)を極秘に運ぶ途中で、その品物を盗んだというのだ。そのコルレオーネ・マフィアから追われる身であるという。如何にその品物を保持し、生き延びるか? 追われる者のサバイバルという切実感。
追う立場にあるコルレオーネ・マフィアは、その極秘の品物をアメリカン・マフィアと取引関係を築く材料にしようとしていた。そして己の勢力基盤の構築を目指していたのである。秘密で物を運ぶことを得意とするチャイニーズ・マフィアと手を結んでいた。そのため、チャイニーズ・マフィアを介して、日本国内でのアルの追跡を進めてきていたのだ。そして、アルが『ミスティー』に工藤を訪ねたことを突き止める。勿論、工藤のキャリアも知ることになる。
マフィアにとっては、アメリカン・マフィアとのでかい取引を成功させるには、その物をアルから取り戻さねばならないのだ。取引の日限が迫っている。このチャンスを逃がすと、新興マフィアが盤石なマフィアへの生き残りができないくなるという切実感。
そこで、工藤の投げ込まれた切実感に繋がって行く。
アルを森林帯の入口に送った翌日の夜、アルを追っているマフィアが「ミスティー」に現れる。ヴィート・カルデローネが、エンリケ、パオロ、ルチアーノという名の男3人、エマという名の女の計4人の手下を引き連れてやってきたのだ。勿論、工藤の素性を承知の上でである。
そして、工藤にアルを捕まえて3日後の午後6時までに探して店まで連れ戻せと言うのだ。バーテンダーの黒崎と今はこの店の従業員になっている水木亜希子の2人を人質とする。3日間の期限までに、アルを連れてこなければ人質を殺すと宣言するのだ。
黒崎は工藤にとっては家主である。黒崎は足を洗ったもとヤクザ。亜希子はもと環境保護団体「グリーン・アーク」のスタッフだった。工藤は亜希子のボディーガードとして彼女の決定的危機を守りきったことがある。英語は自由に使いこなせ、「グリーン・アーク」に所属していたとき、エド・ヴァヘニアンという名の戦闘プロから訓練を受けたことがある女性である。
ヴィート・カルデローネは部下のパオロとルチアーノを工藤のアシスタントに付けるという。工藤の行動の監視役だ。エマは18歳で軍隊に入り、5年間の専門的な訓練を積んでいるという。パオロは街中で肩を怒らせるタイプの男だが、ナイフさばきと格闘には自信を持つ若者である。工藤に選択の余地はない。
工藤は自分の使い慣れた道具一式はアルに渡している。チェイス・ゲームのための道具一式を揃えることから始め無ければならないのである。
そして、北八ヶ岳の原生林に入り、工藤が自分のトレーニング用に使っていた地図、それも詳細な書き込みをした地図を持つアルの行動を予測しながらのチェイスが始まって行く。
このチェイス・ゲームで興味深い点がいくつかある。
1. チェイス・ゲームにどんな道具や品物を工藤が揃えるか。
2. 工藤が行うアルの行動予測と、アルが逆に工藤の行動をどう捕らえるか。
つまり、工藤のチェイスに対して、アルがどんな戦略をとるか。
3. 軍隊経験のあるエマと街中のチンピラとの森林帯での意識と行動の対比とその描写
工藤が2人の監視役をどう扱っていくか。
4. アルが仕掛ける罠、それを工藤らがどう回避できるか
5. 72時間というタイムリミットまでを、著者がどうストーリー展開していくか。
そして、工藤がチェイス・ゲームの中で、アルにマグライトを点滅させU・H・Eという信号を送る。それが決め手になって行く。
本書の面白さは、チェイス・ゲームの展開の面白さと、クライマックスでの意外性である。
この作品は、フィレンツェにあるウフィツィ美術館のすぐ傍の4階建てアパートがほぼ全壊するくらいの爆発が真夜中に突発する。自動車に仕掛けられていた爆弾の爆発に起因する。爆弾テロはマフィアの仕業だったのだ。この爆破テロで美術館も一部破壊され、作品の損傷も発生する。こんなシーンの描写から始まっていく。
一気に読ませるエンタテインメント作品であり、サバイバル行動を想像の世界で楽しめる作品だ。原生林の漆黒の闇を空想してみることから始めていただきたい。
ご一読ありがとうございます。
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この作品に出てくる語句を検索してみた。イメージを膨らませるのに役に立つ。一覧にしておく。
ウフィツィ美術館 (Galleria degli Uffizi) :ウィキペディア
FLORENCE MUSEUM ウエブサイト
マフィア :ウィキペディア
イタリア警察、マフィアの加入儀式を初めて撮影 Italy captures mafia initiation rites on film, 40 arrests AFPBB News :YouTube
Mafia From Wikipedia, the free encyclopedia
サバイバルキット開発 :「硬派野郎ども」
野営装備 :「硬派野郎ども」
アル・マーのナイフ :「フラッシュライト・ナイフ・防災備品あれこれ」
フィクションを見るための軍用ナイフ講座 (1) :「火薬と鋼」
SOGスペシャルフォース AL-MAR/page9
スイスチャンプ :「ビクトリノックス」
マグライト :「MAG・LITE」
実弾射撃 トカレフ TT-33 自動拳銃 (Tokarev TT-33 Automatic Pistol) :YouTube
USSR トカレフ / СССР ТТ 【自動拳銃】 :「MEDIAGUN DATABASE」
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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『襲撃』 徳間文庫
『アキハバラ』 中公文庫
『パラレル』 中公文庫
『軌跡』 角川文庫
『ペトロ』 中央公論新社
『自覚 隠蔽捜査 5.5』 新潮社
『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』 角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』 徳間文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新4版 (45冊)
このタイトルから、はやくもストーリーの一端が明瞭に見えてくる。ボデーガードを仕事として請け負う工藤兵悟という男が、何かを追跡するストーリーであり、そこには簡単には捕まえがたいハードルがあり、難関を乗り越えなければならないゲーム性を秘めている・・・・。そんなところまでは想像できる。
この作品は、最初1994年に祥伝社から刊行された。その原題は『追跡原生林北八ヶ岳72時間の壁』だった。こちらはさらに具体的なタイトルだ。まあ、今風のタイトルの方が、若者受けしそうであるが。
原題を重ねると、一層具体的にストーリーの予告に近くなる。場所は北八ヶ岳。そして普通の人ならあまり近寄らない原生林の中で追跡バトルが始まる。デッドラインは72時間後、このタイムリミットまでに工藤兵悟は追跡のゲームを完了させないと、誰かのボディーガードの役割を果たせない。工藤が追跡しているのだから、守るべき対象が捕らわれていてそれを追跡しているか、守るべき対象が何らかの理由でどこかに居て、その対象を守る為には、チェイス・ゲームを行っているその対象を捕まえなければ、ボディーガードできない状況にいる。
これだけでたぶん興味がそそられるのではないか。同文庫で現在出ている第1作『ナイトランナー』をお読みであればこれで十分かもしれない。
それでは少し足りないと感じる方のために、私自身の読後記憶を引き出すためのメモを兼ねて、少し読後印象を交えて続きを記しておきたい。
この作品のおもしろいところは、やはり追跡というテーマで、追う者・追われる者の互いの知力と経験、持てるスキルを駆使したバトル・ゲームが展開されるところにある。どんな罠が仕掛けられるか、それをどう回避できるか。どんな捕まり方になるのか。いわゆる、そのストーリー展開のワクワク、ヒヤヒヤ感、バトル展開のスピード感、どこまで意外な展開となるか・・・そのエンターテインメント性にある。この点、72時間というタイムリミットが嫌でもその感覚を高めていく。これは常套手段なのかもしれないが。
工藤兵悟は、乃木坂のビルの1階にある『ミスティー』という地味なカウンター・バーの奧の部屋を間借りし、そのバーに用心棒を兼ねて身を寄せている。そして、ボディーガードの仕事を単発的に請け負って生業としている。だが、彼はかつてフランス外人部隊の第四連隊に属し、みっちりと鍛えられた優秀な兵士だった。そして、フリーランスの傭兵として世界の戦場で戦いサバイバルしてきた男である。銃・ナイフなどの武器の扱い、チェイスのためのスキルなど、兵士としての条件は抜群なのだ。その世界では名が知られた存在になっている。
『ミスティー』に、アル・ソラッツオというイタリア人の戦友が突然に、厳重に包装された円盤状の包みを大事そうに持って、訪ねて来のだ。工藤はアルと傭兵時代を一緒にすごしたことがある。アルもまた、一流の優秀な兵士だった。アルはマフィアに追われているという。事情があり、兵悟を頼って日本に来たという。兵悟に助力して欲しいというのだ。ボディーガードとしての兵悟を傭いたいとアルは言うが、工藤は拒否する。
そこで、アルが工藤に頼み込むのは、円盤状の荷物を一時的に秘かに預かってほしいことと、逃げ延びるための最初の手助けである。彼は日本の山岳地帯に一旦逃げ込みたいという。実は、森林山岳地帯での行動はアルが特に得意とする分野なのだ。森林帯での傭兵としての卓越した行動力には、工藤が一目置いているほどなのだ、その分野では工藤自体がアルには及ばないと自覚している。
工藤はトレーニングのために使いメモを書き込んだ山岳地図を含め、山岳地帯でのサバイバルに必要な最小限の道具一式をアルに提供してやる。そして、自分のパジェロでアルを後30キロも行けば碓氷峠という山道のところまで送ってやることになる。アルは工藤に言う。「このあたりから、俺の世界のような気がする」と。
このアルが追われる者になり、工藤が追う者の立場に投げ込まれるのである。
互いを知り尽くした者同士の間でのチェイス・ゲームが始まらざるを得ない状況が持ち上がる。
一方、そのチェース・ゲームはなぜ、何のために行われるのか? その切実感がないと、単に遊び感覚だけになる。この作品はその切実感を十分にいくつかの視点で含ませている。そこに意外性も秘められて、最後のクライマックスで一挙に納得感も出るストーリー構成になっている。
このゲームの始まる「切実感」は多面的である。誰の立場に立つかによって、その切実感の中身が違う。勿論、メインとなる切実感は工藤自身に課せられたタイムリミットの背景にある切実感である。まずは、登場人物周辺の切実感の要点に触れておく。
アルの切実感。大事そうに携えてきた円盤状の包みを守りきるために、追われる立場で生き延びること。彼は、新興のコルレオーネ・マフィアがある物(ブツ)を極秘に運ぶ途中で、その品物を盗んだというのだ。そのコルレオーネ・マフィアから追われる身であるという。如何にその品物を保持し、生き延びるか? 追われる者のサバイバルという切実感。
追う立場にあるコルレオーネ・マフィアは、その極秘の品物をアメリカン・マフィアと取引関係を築く材料にしようとしていた。そして己の勢力基盤の構築を目指していたのである。秘密で物を運ぶことを得意とするチャイニーズ・マフィアと手を結んでいた。そのため、チャイニーズ・マフィアを介して、日本国内でのアルの追跡を進めてきていたのだ。そして、アルが『ミスティー』に工藤を訪ねたことを突き止める。勿論、工藤のキャリアも知ることになる。
マフィアにとっては、アメリカン・マフィアとのでかい取引を成功させるには、その物をアルから取り戻さねばならないのだ。取引の日限が迫っている。このチャンスを逃がすと、新興マフィアが盤石なマフィアへの生き残りができないくなるという切実感。
そこで、工藤の投げ込まれた切実感に繋がって行く。
アルを森林帯の入口に送った翌日の夜、アルを追っているマフィアが「ミスティー」に現れる。ヴィート・カルデローネが、エンリケ、パオロ、ルチアーノという名の男3人、エマという名の女の計4人の手下を引き連れてやってきたのだ。勿論、工藤の素性を承知の上でである。
そして、工藤にアルを捕まえて3日後の午後6時までに探して店まで連れ戻せと言うのだ。バーテンダーの黒崎と今はこの店の従業員になっている水木亜希子の2人を人質とする。3日間の期限までに、アルを連れてこなければ人質を殺すと宣言するのだ。
黒崎は工藤にとっては家主である。黒崎は足を洗ったもとヤクザ。亜希子はもと環境保護団体「グリーン・アーク」のスタッフだった。工藤は亜希子のボディーガードとして彼女の決定的危機を守りきったことがある。英語は自由に使いこなせ、「グリーン・アーク」に所属していたとき、エド・ヴァヘニアンという名の戦闘プロから訓練を受けたことがある女性である。
ヴィート・カルデローネは部下のパオロとルチアーノを工藤のアシスタントに付けるという。工藤の行動の監視役だ。エマは18歳で軍隊に入り、5年間の専門的な訓練を積んでいるという。パオロは街中で肩を怒らせるタイプの男だが、ナイフさばきと格闘には自信を持つ若者である。工藤に選択の余地はない。
工藤は自分の使い慣れた道具一式はアルに渡している。チェイス・ゲームのための道具一式を揃えることから始め無ければならないのである。
そして、北八ヶ岳の原生林に入り、工藤が自分のトレーニング用に使っていた地図、それも詳細な書き込みをした地図を持つアルの行動を予測しながらのチェイスが始まって行く。
このチェイス・ゲームで興味深い点がいくつかある。
1. チェイス・ゲームにどんな道具や品物を工藤が揃えるか。
2. 工藤が行うアルの行動予測と、アルが逆に工藤の行動をどう捕らえるか。
つまり、工藤のチェイスに対して、アルがどんな戦略をとるか。
3. 軍隊経験のあるエマと街中のチンピラとの森林帯での意識と行動の対比とその描写
工藤が2人の監視役をどう扱っていくか。
4. アルが仕掛ける罠、それを工藤らがどう回避できるか
5. 72時間というタイムリミットまでを、著者がどうストーリー展開していくか。
そして、工藤がチェイス・ゲームの中で、アルにマグライトを点滅させU・H・Eという信号を送る。それが決め手になって行く。
本書の面白さは、チェイス・ゲームの展開の面白さと、クライマックスでの意外性である。
この作品は、フィレンツェにあるウフィツィ美術館のすぐ傍の4階建てアパートがほぼ全壊するくらいの爆発が真夜中に突発する。自動車に仕掛けられていた爆弾の爆発に起因する。爆弾テロはマフィアの仕業だったのだ。この爆破テロで美術館も一部破壊され、作品の損傷も発生する。こんなシーンの描写から始まっていく。
一気に読ませるエンタテインメント作品であり、サバイバル行動を想像の世界で楽しめる作品だ。原生林の漆黒の闇を空想してみることから始めていただきたい。
ご一読ありがとうございます。
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この作品に出てくる語句を検索してみた。イメージを膨らませるのに役に立つ。一覧にしておく。
ウフィツィ美術館 (Galleria degli Uffizi) :ウィキペディア
FLORENCE MUSEUM ウエブサイト
マフィア :ウィキペディア
イタリア警察、マフィアの加入儀式を初めて撮影 Italy captures mafia initiation rites on film, 40 arrests AFPBB News :YouTube
Mafia From Wikipedia, the free encyclopedia
サバイバルキット開発 :「硬派野郎ども」
野営装備 :「硬派野郎ども」
アル・マーのナイフ :「フラッシュライト・ナイフ・防災備品あれこれ」
フィクションを見るための軍用ナイフ講座 (1) :「火薬と鋼」
SOGスペシャルフォース AL-MAR/page9
スイスチャンプ :「ビクトリノックス」
マグライト :「MAG・LITE」
実弾射撃 トカレフ TT-33 自動拳銃 (Tokarev TT-33 Automatic Pistol) :YouTube
USSR トカレフ / СССР ТТ 【自動拳銃】 :「MEDIAGUN DATABASE」
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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『襲撃』 徳間文庫
『アキハバラ』 中公文庫
『パラレル』 中公文庫
『軌跡』 角川文庫
『ペトロ』 中央公論新社
『自覚 隠蔽捜査 5.5』 新潮社
『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』 角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』 徳間文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新4版 (45冊)