神の時空(かみのとき)シリーズもこれがいよいよ最終巻となる。摩季が死亡して7日目、辻曲了が摩季を甦らせるために「死反術(まかるがえしのじゅつ)」を執り行うためのタイムリミットに来ている。この7日目を越えれば最早のぞみはないという瀬戸際にある。「十種の神宝」のうち、今までのシリーズにおける展開の中でやっと合わせて五種が了の手許に集まったに過ぎない。辻曲家に伝わってきた「生玉」「足玉」。奈良の大神(おおみわ)神社でグリが手に入れた「蛇の比礼」。伏見稲荷大社で巳雨が借りてきた「八握剣」。そして、この7日目の朝に厳島神社の氏子であり大学生の観音崎栞が東京駅まで持参して彩音に届けてくれた「辺津鏡」である。了は「死反術」を執り行う為には、最低でも七種、いや八種はなければ・・・と切実に思っている。この七日目、残された時間で何とか「神宝」を最低限でも集められるのか? この点がどう展開していくのか、摩季は甦ることができるのか、という関心をまず引き起こされる。
本書のプロローグは8年前に天橋立で起こった観光バス転落事故の経緯から始まる。その事故は、運転手を含めた乗客全員が死亡するという最悪の結果となったのだ。辻曲家の了を筆頭とした四兄妹の両親がこの事故の犠牲者になっていたという事実がこのプロローグで明らかになる。そればかりでなく、國學院大学の潮田教授主催のこのツアーに参加していた人々の遺族が、この7日目にあらたに生起してきた険悪な厳しい状況に対処するために、繋がりを持っていく。またそれまでの6日間の様々な事件のプロセスで彩音に協力した人々の協力関係が始まる。どういう繋がりでどう対応するようになるかのプロセスが読ませどころにもなる。
高村皇が配下の者たちを、松島・天橋立・宮島の日本三景の地に同時に送り込み、名勝の地で破壊工作に携わらせる。陸奥国一の宮・鹽竈神社では随身門が破壊され倒壊し、死者が出る。それを皮切りに次々と事態が悪化する。天橋立にある籠神社では神職が惨殺されるという事態が発生するとともに、天橋立に異変が起こる。宮島では、弥山と厳島神社の異変が何とか観音崎栞や彩音たちの必死の努力で鎮められたにも拘わらず、再び弥山が鳴動を始める妖しい雲行きとなる。高村皇が同時多発的に大がかりな仕掛けを始めたのである。
東京の彩音に辺津鏡を届けにきた栞は、宮島での不穏な状況を知り、厳島神社の神に鎮まってもらわねばとトンボ帰りをする。天橋立の籠神社の神職殺害事件には京都府警の瀬口警部補と部下の加藤裕香巡査が再び出動する。裕香は8年前の観光バス転落事故で犠牲になった乗客の遺族でもあった。
伊豆山に隠棲する四柱推命の大家である四宮雛子が東京の辻曲家に出向いてくる。「大変なことが起こっている。このままじゃ、この国が消えてなくなちまう。だから、やってきたんだよ!」と、切羽詰まった声で彩音に語りかける。そして、雛子はみんなの力を結集しないとダメだと断言する。雛子の占う卦がすべて悪いと言う。
グリに呼ばれたのだと、京都の傀儡師・六道佐助が辻曲家に現れる。そして、彩音に依頼され直ちに松島に行くことになる。
狐憑きの家系であり、伏見稲荷の氏子である樒祈美子は天橋立の惨状をニュースで知ると、先日の伏見稲荷での事件を想起し、宮津に出向こうと決心する。
記憶を無くしていた福来陽一が辻曲家に現れる。そして、思い出した記憶を語る。それが8年前のあの事故に結びついていく。陽一は彩音と話をした後、老幽霊・火地晋のところに自ら出向いて話を聞いてくると告げる。
東京では、既に江戸総鎮守府である神田明神の鳥居が倒されていた。火地と会った陽一は、火地から高村皇の仕掛けが何かの全貌についての推測を聞く。それはとてつもない構想だった。
この最終巻の興味深い点がいくつかある。
1. 8年前の観光バス転落事故の犠牲者の遺族たちが互いに認知し合うプロセスが描きこまれること。主な登場人物の姿がクリアになっていく。そして彼らが現下の緊急事態を解決するために連携プレイを行うというストーリーの展開のおもしろさ。
2. 高村皇の仕掛けて来た破壊構想が日本列島の神々の拠点を結び出来上がる構図の興味深さ。
3. 描かれた構図に登場する神々の系譜と関係性の興味深さ。一度通読しただけでは、残念ながら十分に理解できたとはいえない。改めてその神々の関係性を考え直したくなるという奥行きの広がりを持つおもしろさ。日本の神の体系への導入となる興味。
4. 宮津の天橋立が舞台となることから、「羽衣伝説」と「浦島太郎伝説」がストーリーの展開に絡んでいく構想のおもしろさ。
それと併せて、著者がこの羽衣伝説、浦島伝説そのものを解き明かそうとしていることへの興味深さが加わる。
5.このシリーズの出発点にからある人、幽霊、妖怪が関わり合いながら進展する伝奇小説としてのおもしろさ。その手法を介して著者は日本の神々を解き明かそうとしているのだと思う。
神田明神で彩音は高村皇と対決する立場になる。そこに巳雨も加わっていく。巳雨の背景に巳雨を見守るものが居る。そして、その結果がエピローグへと繋がって行く。
このシリーズ、辻曲家の彩音と巳雨を中軸に、摩季を甦らせるために「十種の神宝」を集めんとして活躍するプロセスを描くストーリーがメインであるが、その裏面は日本の神の系譜と時空に誘われる読み物と言える。神々の読み解きのストーリーでもある。
日本の神々と伝説・伝承に関心を抱く人は、楽しめるシリーズである。
ご一読ありがとうございます。
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日本三景松島 電脳松島絵巻 ホームページ
松島 :ウィキペディア
鹽竈神社 :ウィキペディア
天橋立観光ガイド ホームページ
元伊勢 籠神社 ホームページ
古代と現代をつなぐ丹後の伝承 :「Blue Signal」
舞い降りた天女、二つの「羽衣伝説」
羽衣伝説 :ウィキペディア
三保の松原の羽衣伝説 :「SHIZUOKA CITY PROMOTION」
浦島太郎伝説 :「丹後旅の宿 万助楼」
日本最古の浦島伝説が残る丹後半島の浦嶋神社を訪れてみました :「BUZZAP!」
浦島太郎伝説 :「古代史の扉」
厳島神社 ホームページ
厳島神社 :「宮島観光協会」
弥山 :「トリップアドバイザー」
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強力なパワースポット!宇佐神宮をご紹介♪ :「icotto」
神田明神 ホームページ
神田明神(神田神社)のパワースポット :「開運の神社・パワースポット[関東編]」
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名古屋随一のパワースポット『熱田神宮』その由緒と歩き方まとめ:「名古屋情報通」
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徒然に読んできた作品のうち、このブログを書き始めた以降に印象記をまとめたものです。
こちらもお読みいただけるとうれしいかぎりです。(シリーズ作品の特定の巻だけの印象記も含みます。)
『鬼門の将軍』 新潮社
『軍神の血脈 楠木正成秘伝』 講談社
『神の時空-かみのとき- 五色不動の猛火』 講談社NOVELS
『神の時空 -かみのとき- 伏見稻荷の轟雷』 講談社NOVELS
『神の時空 -かみのとき- 嚴島の烈風』 講談社NOVELS
『神の時空 -かみのとき- 三輪の山祇』 講談社NOVELS
『神の時空 -かみのとき- 貴船の沢鬼』 講談社NOVELS
『神の時空-かみのとき- 倭の水霊』 講談社NOVELS
『神の時空-かみのとき- 鎌倉の地龍』 講談社NOVELS
『七夕の雨闇 -毒草師-』 新潮社
『毒草師 パンドラの鳥籠』 朝日新聞出版
『鬼神伝 [龍の巻] 』 講談社NOVELS
『鬼神伝』 講談社NOVELS
『鬼神伝 鬼の巻』 講談社
『カンナ 出雲の顕在』 講談社NOVELS
『QED 伊勢の曙光』 講談社NOVELS
本書のプロローグは8年前に天橋立で起こった観光バス転落事故の経緯から始まる。その事故は、運転手を含めた乗客全員が死亡するという最悪の結果となったのだ。辻曲家の了を筆頭とした四兄妹の両親がこの事故の犠牲者になっていたという事実がこのプロローグで明らかになる。そればかりでなく、國學院大学の潮田教授主催のこのツアーに参加していた人々の遺族が、この7日目にあらたに生起してきた険悪な厳しい状況に対処するために、繋がりを持っていく。またそれまでの6日間の様々な事件のプロセスで彩音に協力した人々の協力関係が始まる。どういう繋がりでどう対応するようになるかのプロセスが読ませどころにもなる。
高村皇が配下の者たちを、松島・天橋立・宮島の日本三景の地に同時に送り込み、名勝の地で破壊工作に携わらせる。陸奥国一の宮・鹽竈神社では随身門が破壊され倒壊し、死者が出る。それを皮切りに次々と事態が悪化する。天橋立にある籠神社では神職が惨殺されるという事態が発生するとともに、天橋立に異変が起こる。宮島では、弥山と厳島神社の異変が何とか観音崎栞や彩音たちの必死の努力で鎮められたにも拘わらず、再び弥山が鳴動を始める妖しい雲行きとなる。高村皇が同時多発的に大がかりな仕掛けを始めたのである。
東京の彩音に辺津鏡を届けにきた栞は、宮島での不穏な状況を知り、厳島神社の神に鎮まってもらわねばとトンボ帰りをする。天橋立の籠神社の神職殺害事件には京都府警の瀬口警部補と部下の加藤裕香巡査が再び出動する。裕香は8年前の観光バス転落事故で犠牲になった乗客の遺族でもあった。
伊豆山に隠棲する四柱推命の大家である四宮雛子が東京の辻曲家に出向いてくる。「大変なことが起こっている。このままじゃ、この国が消えてなくなちまう。だから、やってきたんだよ!」と、切羽詰まった声で彩音に語りかける。そして、雛子はみんなの力を結集しないとダメだと断言する。雛子の占う卦がすべて悪いと言う。
グリに呼ばれたのだと、京都の傀儡師・六道佐助が辻曲家に現れる。そして、彩音に依頼され直ちに松島に行くことになる。
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記憶を無くしていた福来陽一が辻曲家に現れる。そして、思い出した記憶を語る。それが8年前のあの事故に結びついていく。陽一は彩音と話をした後、老幽霊・火地晋のところに自ら出向いて話を聞いてくると告げる。
東京では、既に江戸総鎮守府である神田明神の鳥居が倒されていた。火地と会った陽一は、火地から高村皇の仕掛けが何かの全貌についての推測を聞く。それはとてつもない構想だった。
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2. 高村皇の仕掛けて来た破壊構想が日本列島の神々の拠点を結び出来上がる構図の興味深さ。
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神田明神で彩音は高村皇と対決する立場になる。そこに巳雨も加わっていく。巳雨の背景に巳雨を見守るものが居る。そして、その結果がエピローグへと繋がって行く。
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