遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『知識ゼロからの世界の三大宗教入門』 保坂俊司 幻冬舎

2019-04-18 20:50:19 | レビュー
 神話と宗教はある地域・ある国の文化を深く理解するためには必須の基礎知識と言われる。そうとは知りつつ、中々手が出しにくい領域でもある。本書では、世界の三大宗教として仏教・キリスト教・イスラム教を扱っている。私にとっては、やはりこの順番で馴染み度合いも知識も、どんどんと乏しくなっていく。知識ゼロではないものの、本書を読むことでこの三大宗教の基礎の基礎という知識の取得と大枠の整理ができた。仏教については基礎知識の整理と再確認ができ、キリスト教については全体像の理解を深めることと基礎知識の補充に役立ち、イスラム教についてはこの宗教への馴染み感ができるとともに、基礎知識を学べたと言える。

 「はじめに」の冒頭で、著者は「本書の目指したのは、レストランのランチセット・メニューといったところでしょうか」とその意図を喩えている。実は回りに宗教についても膨大な情報が溢れているのが実体だが、日頃宗教意識の乏しい現在の日本人は戸惑うばかりで立ち往生しているのだという認識を、著者は出発点にしている。そこで、適当なボリュームで、三大宗教を比較するという視点により、これら三大宗教の宗旨の特徴を明らかにし、テーマ別に輪切りにして、簡潔かつ幅広く紹介するという方法を著者はとっている。そして、アラカルト料理を楽しむように、各宗教の情報を比較し、まず読者が関心を抱く観点から読み始めることができる形にメニュー(観点)設定されている。そして、見開き2ページあるいは4ページのボリュームで1観点の説明がイラストや図版を利用することで、ビジュアルに一目瞭然を目指している。この点は最初のイメージづくりと基礎としての大枠理解には有益である。言葉で詳細に解説された文章を読むよりも、ある観点の全体イメージでまず基礎知識に触れることが宗教への馴染みを強めることに有益であるという印象を持った。例えば、宗教の伝播経路や広がりなどはイラスト地図で明示されているので、詳細は再読が必要としても全体イメージがまず読者にインプットされてくる。全体を見ると、イラスト・図版が全ページでとらえて半分くらいのボリュームで多用されていると言える。

 本書の全体像をイメージするために、どういう構成で、どういうメニュー(観点)で三大宗教が対比しながら説明されているか。そのメニューでの各宗教のキーワードを著者が何と考えているかを抽出してみよう。これ自体が本書の特徴を示すとも言える。目次からの抽出である。括弧内はキーワードを仏教/キリスト教/イスラム教という順番に抽出した)。

第1章 三大宗教のはじまりを押さえる~誕生と教え~
  教祖(ブツダの生涯/イエスの生涯/ムハンマドの生涯)
  教義(四法印と四諦八正道/山上の垂訓/六信)
  戒律(五戒と八斉戒/復活祭とミサへの参加/五行とシャリーア)
第2章 神と人を結ぶ信仰を探る~信仰の象徴~
  経典(仏典/聖書/コーラン)
  信仰対象(諸仏・菩薩/父なる神/アッラー)
  偶像(仏像/イコノクラムス/偶像否定)
  聖地(仏教の八大聖地/キリスト教の聖地/イスラム教の聖地)
第3章 世界宗教へ発展した歴史をのみこむ~歴史と宗派~
  弟子(十大弟子/十二使徒/正統カリフ)
  歴史(仏教の伝播/教皇の権勢/イスラム圏の拡大)
  宗派(大乗仏教と部派仏教/3大宗派/スンニー派とシーア派)
第4章 生活に根付いた宗教行事に触れる~生活習慣~
  修行(六波羅蜜/秘蹟/ムスリムの日常)
  死生観(輪廻転生と末法思想/黙示録/最後の審判)
  冠婚葬祭(火葬の習慣/神の恩寵と加護/男女交際のきまり)
第5章 優れた宗教芸術を味わう~文化と芸術~
  建築(寺院の誕生/教会建築/イスラム建築)
  芸術(ブツダの表現/「美」の巨匠たち/イスラム芸術)
  科学(仏教医学/聖書と学問/『コーラン』と科学)
第6章 世界の「今」をキーワードで解く~現代と三大宗教~
  政治(仏教とアショーカ王/政教分離/神権政治)
  経済(在家信者/資本主義/『コーラン』と経済)
  女性観(変成男子/教父たちの誤解/女性の保護)
  戦争(不殺生戒と慈悲/宗教闘争/ジハード)
  日本(日本と仏教/日本とキリスト教/日本とイスラム教)

それと、各章末にコラムのページが設けられている。そこでは、旅行家/巡礼/祭り・祭日/悪魔/格言という各テーマが取り上げられている。

 この全体の構成とキーワードを眺めれば、3大宗教のそれぞれの基本的知識が網羅されていることが大凡わかるだろう。その上で、これらのキーワードを見て、あなたがなにがしか基礎的な説明ができるなら、この本を読む必要はないかもしれない。キーワードを見て、何も説明できない、初見の語句と感じるならば、本書を開いてみる価値がある。その箇所をまず読んで(試食して)みて、このランチセットをたいらげてみるかどうか判断するのもいいかもしれない。

 最後に、多用されているイラスト・図版の中から、これは特に役立つと感じたものをいくつかそこに付されたタイトルで宗教別にご紹介しておく。丸括弧はイメージしやすいように補足した語句である。
[仏教] 
ブツダの人生をたどる地図、仏の32相、仏教の八大聖地、アショーカ王の碑(分布図)、ブツダに帰依した主な女性信者(所在地図)
[キリスト教]
イエス最後の24時間、イエスの教えを広めた十二使徒の略歴、パウロの伝道(経路図)、宗派の系譜、7つの秘蹟、「ヨハネ黙示録」神の手による破滅のプロセス、キリスト教の聖女(地図)
[イスラム教]
ムスリムの信仰箇条・六信、イスラム教徒が行なう大巡礼、3つの宗教が混在するエルサレム、ムハンマド周辺系図、こんなに違うスンニー派とシーア派、イスラム独特の習慣

 手軽に読める入門書と言える。

 ご一読ありがとうございます。

インターネットで宗教関連のわかりやすい情報が入手できるかを少し検索してみた。
検索範囲で役立ちそうなものと思ったものを一覧にしておきたい。
仏教へのいざない 青少年のための仏教入門 トップページ :「東京大学仏教青年会」
お釈迦さまの足あと(ブッダの生涯) :「無盡燈」
シャカ(ゴータマ・シッダールタ) :YouTube
ワールドセクト ホームページ
キリスト教 :ウィキペディア
キリスト教諸教派の一覧 :ウィキペディア
図解で納得 キリスト教の宗派って  :「毎日新聞」
イスラム教 MATSUBARA TERUO
イスラム教とは? :「ハラルジャパン協会」
どうしてイスラーム教はわかりにくいの? 危険だと誤解を招く4つの理由 :「SEKAI」
イスラム教を理解する ダニエル・C・ピーターソン :「LDS.org」
イスラム教国家を訪れる前に知っておきたいマナーとルール :「LINEトラベル.jp」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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