鞠子の章と双葉の章として2つのストーリーが交互にパラレルに進行する。このこと自体がおもしろい。まず、どう関わり合っていくのかと興味を引く。氏家鞠子は札幌の叔父の家から大学の英文科に通う大学生。小林双葉は東京の高田馬場にある東和大学国文科に通う大学生。北海道と東京、全く異なる環境で互いの存在を知ることもなく二人は成長した。その鞠子と双葉が共にそれぞれの母の死を契機に、母の死についての理由探しの行動に出る。二人はパラレルに独自に行動する。だが必然的な縁が明らかになっていく。本書のタイトル「分身」はその象徴語である。現代医学の最先端における危険な領域を背景に取り入れたサスペンス長編。その謎解きのプロセスに読者は徐々に惹き込まれていくことになる。この発想が興味深い。
鞠子は子供の頃、誰からも母子が似ていると言われたことがなかった。幼児の頃、母の実家で祖母に「まあまあこの子は、見るたびに綺麗になっていくじゃないか。一体誰に似たのかねえ。静恵からこんな子が生まれるなんて、こういうのをトンビがタカを産んだっていうんだろうね」と。母は楽しそうに笑っていた。だが、小学生の頃には自分が父親にも似ていないことに気づき始める。鞠子の前では態度に見せないが、母静恵の悩む姿を偶然垣間見るようになる。学校で戸籍のことを習った後、密かに市役所に行き戸籍謄本を申請した。恐る恐る見ると、父母の欄の下に長女と明記されていた。鞠子は両親の勧めで家を離れ、寄宿舎制度のある中学校に進学する。中学2年の冬、鞠子は帰省した。12月29日、家族の団欒の場だった家がガスの漏洩、爆発による火災で燃え落ちた。その時、なぜか鞠子は家の庭の雪の上に居た。事後捜査の結果、母の自殺が原因ということになる。だが、鞠子は、母が父と自分を道連れにしようとしていたと確信した。なぜ、母は自殺しようとしたのか。
札幌の叔父の家に下宿して、大学に通い始めた時、叔父夫妻の娘・香から仏壇の引き出しに残されていたという古い地図と写真を見せられた。鞠子の母が残していたものという。この写真が契機となり、鞠子は母の自殺の真相を探る決意をする。まず、父の出身校である東京の帝都大学を訪ね、その当時のことを調べることから始める。北大生の横井から紹介された帝都大学に通う下条という女性が鞠子に協力してくれることになる。英文科に進学していた鞠子は、父の半生記を英文でまとめるための調査だと下条に説明した。父親が大学で発生学を教えていることを告げる。鞠子がまず会いたかったのは梅津正芳という人物。偶然にも下条はその梅津先生のゼミ生で医学を学んでいるという。
積極的で、親身になって調査に協力してくれる下条に、鞠子は徐々に調査の真の目的を話すようになっていく。下条はますます鞠子に協力的になる。そして、下条はある仮説にたどり着く。彼女は一層鞠子に関心を持ち始める。
双葉は東和大学の国文科に通う大学生だが、高校時代の男友達とアマチュアバンドを組みその歌手となっている。大学に通うよりバンドにのめり込んでいて、母親がテレビ番組に出演することだけは厳禁すると言っていたにもかかわらず、密かにテレビの生放送番組に出演した。
双葉は駅から徒歩10分ほどの二階建てアパートの二階に母子で住む。ベランダからは緑豊かな石神井公園が眺められる。母・志保は看護婦として勤めている。未婚の母であることを双葉は知って居るがそのことに屈託はない。双葉は母とは似ていない。それが原因でいじめられたこともあるが、そんなことも気にしないで逞しく育っていた。母は、テレビの生放送を見ていた。帰宅すると「あんたの歌、まあまあじゃない。見直した」と、思いもかけないことを双葉は言われた。だが、その後、双葉はなぜか母が思い苦しんでいる姿を垣間見ることになる。
双葉がテレビ番組に出演した後、奇妙な出来事が次々に起こる。5日ほど後、バンドの練習後アパートに帰ってきた双葉は、中年の男が帰る間際に母と最後の会話をかわすのを、身を隠して偶然聞く。五十前後の小柄で堂々とした後姿をみせる紳士だった。その翌日、大学で国文科の学生をつかまえて双葉のことを聞き込みする男が現れていた事実を知る。その男は左足を引きずるようにして歩いていたという。質問を受け、応対して謝礼をもらった複数の友人が双葉に教えた。その際、男が見せた写真は高校ぐらいの頃の髪がストレートでロングのものだったという。双葉はそんな髪形をしたことはなかった。友人はどうみても双葉の写真だったという。帰宅した夜、双葉は石神井警察署交通課から連絡を受ける。母が勤め先の病院からの帰路、轢き逃げに遭って谷原病院に運ばれたと。悪い予感が当たる。轢き逃げが原因で母は亡くなる。
双葉は母がテレビに出ることを禁止していたことと突然の母の死に何らかの関係があると思わざるを得ない。双葉は今まで気にしていなかった母の過去について調べ始める。双葉は、町田に住む叔父から、母が旭川にある北斗医科大に進学したこと。大学を辞めて東京に戻ってきたこと。その時には妊娠していたことを聞き出す。警察の調べで、アパートを訪ねてきていた紳士が誰かは捜査の結果判明した。併せて、その人には轢き逃げ時刻のアリバイがあることも判明した。
母の身の回りのものを整理していて、今までみたことのないスクラップブックを見つける。そこには、何年か前に首相を務めたこともある保守党の実力者、伊原俊策の私生活、子どものに関わる記事が集められていた。双葉にはなぜ母がこんあスクラップブックを持っているのか、皆目わからなかった。
このストーリー、鞠子と双葉のそれぞれに進める調査が、二人の出生の過去を明らかにしていく。
1.下条の協力を得て、微かな糸口となる情報から、少しずつ情報を手繰り寄せていく。複数回に亘って東京で様々な人に会い、調査を進めるプロセスがメインになる。そのプロセスで、下条がある仮説にたどり着く。鞠子は、母の死が己の出生に関係していることを知る。だが、その理由は父に確認しなければならないことに行き着く。
併せて、調査の過程で鞠子は自分の分身ともいえるほぼ同じ容貌、姿の人が存在する事実を知る。
鞠子が下条の協力で推し進める調査のプロセスが一つの読ませどころになっている。ジグソーパズルを仕上げていくような感じがおもしろい。
2. 双葉は北斗医科大学の藤村と名乗る人物からの電話を受ける。彼は母が轢き逃げされる事件の前日訪ねてきたことを語った。双葉は藤村から母のことを聞きたいと言う。藤村は北斗医科大にて話をするという。双葉は北海道に赴くが、それは自ら無自覚に危地に飛び込む形になっていく。
危地を脱する事態には、北海道に出かける前に、アパートの階段のところで双葉の帰宅を待っていた月刊ビジネス雑誌の編集部所属だと名乗る脇坂講介が関係してくる。脇坂は双葉を追って自家用車で北海道に来たのだ。脇坂はなぜか双葉をサポートする立場で行動を共にしていく。
双葉もまた、己の出生の秘密の核心を脇坂の協力も得て、徐々に気づいていく。
読者にとっては、なぜ脇坂が双葉に対して協力的なのかが謎である。それが双葉の行動プロセスでの関心事項にもなる。脇坂もまた重要な役割を担わされていたのだ。
3. 鞠子は、下条の調べを介して小林双葉の存在と住所を知ることになる。双葉のアパートを訪れて知ったのは、双葉が北海道に出かけて行ったことと、留守番を頼まれたというユタカのことである。鞠子はユタカを介して双葉と連絡を取ることになる。双葉の身の危険を憂慮するユタカが重要な結節点の役割を担っているところがストーリーの展開をうまく繋いでいる。重要な黒子役といえる。
4.北海道に戻る鞠子は、空港内で双葉と会う約束をする。だが、空港で待つ間に、彼女の前に現れた男が、父の友人だと言い鞠子に同行を要求する。空港の出入口には別の男の傍に父が居た。目の前の男は小林双葉のことを知っていた。鞠子はその男の要求に従わざるを得なくなる。鞠子は父と直に話がしてみたかった。
だが、それは理由がわからないままに鞠子が危地に踏み込む一歩となった。
そして、すべてのことが繋がり、鞠子と双葉に収斂していく。
医学倫理の問題が絡む興味深いサスペンスと言える。次々と事実が明らかになっていくプロセスの展開が巧みである。読者を飽きさせないで引きこんでいく。
生命を扱う医学の限界はどこにあるのか。何を限界とすべきなのか。それを問いかける小説にもなっている。
この小説は、1993年9月に刊行され、1996年9月に文庫化されている。
文庫本の解説を読むと、本書は「小説すばる」に連載された『ドッペルゲンガー症候群』という小説に加筆し、『分身』と改題して上梓されたものという。
最初の出版から早くも四半世紀を過ぎている。この小説が創作された時点から、生命科学、医学の領域は一層発展していることだろう。ここで扱われたテーマは、形は変わるだろうが、人間にとって一層身近な問題になっているのではないか。
著者は、四半世紀以上前に、人間にとって現代科学における重大な倫理問題の一つを問題提起していたとも言える。
ご一読ありがとうございます。
本書を読み、関心を広げてネット検索してみた。一覧にしておきたい。
赤ちゃんを迎える前に!妊娠についての基礎知識 :「女性のための健康ラボMint+」
不妊症 :「日本産婦人科学会」
不妊治療はどうやって選択される? 不妊治療の種類と選択方法:「恵愛生殖医療医院」
体内受精 :「つばきウイメンズクリニック」
体外受精 :「神奈川レディースクリニック」
双生児 :ウィキペディア
キメラ :「コトバンク」
キメラ遺伝子 :「薬学用語解説」
クローン :ウィキペディア
クローン :「東邦大学」
解説:サルのクローン誕生、その意義と疑問点 2018.1.26 :「NATIONAL GEOGRAPHICS」
クローン猿誕生で真に危惧すべきは「人間複製」への応用ではない 2018.2.2
:「DIAMOND ONLINE」
クローン人間の作製について、倫理面での問題をどう考えればよいか
:「もっと知りたい人のためのバイオテクノロジーQ&A」
「クローン人間作製」についてのコメント:「石野研究室」
クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方 平成11年11月17日
科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会 :「文部科学省」
クローン動物 :「コトバンク」
人とブタのキメラから臓器をつくり出す。万能細胞を用いて再生医療の高みへ。 YouTube
【近畿大学農学部│ 農LABO】
人とサルの細胞混在「キメラ胚」を長期培養…生命倫理の面で懸念の声 2021.4.16
:「読売新聞オンライン」
ATOLS - KIMERA feat. IA / キメラ feat. IA
本小説とは無関係です。キメラの語句検索で得たおもしろい曲の動画なので・・・・。
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
ふと手に取った作品から私の読書領域の対象、愛読作家の一人に加わりました。
次の本を読み継いできています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『天空の蜂』 講談社文庫
東野圭吾 作品 読後印象記一覧 1版 2021.7.16 時点 26作品
鞠子は子供の頃、誰からも母子が似ていると言われたことがなかった。幼児の頃、母の実家で祖母に「まあまあこの子は、見るたびに綺麗になっていくじゃないか。一体誰に似たのかねえ。静恵からこんな子が生まれるなんて、こういうのをトンビがタカを産んだっていうんだろうね」と。母は楽しそうに笑っていた。だが、小学生の頃には自分が父親にも似ていないことに気づき始める。鞠子の前では態度に見せないが、母静恵の悩む姿を偶然垣間見るようになる。学校で戸籍のことを習った後、密かに市役所に行き戸籍謄本を申請した。恐る恐る見ると、父母の欄の下に長女と明記されていた。鞠子は両親の勧めで家を離れ、寄宿舎制度のある中学校に進学する。中学2年の冬、鞠子は帰省した。12月29日、家族の団欒の場だった家がガスの漏洩、爆発による火災で燃え落ちた。その時、なぜか鞠子は家の庭の雪の上に居た。事後捜査の結果、母の自殺が原因ということになる。だが、鞠子は、母が父と自分を道連れにしようとしていたと確信した。なぜ、母は自殺しようとしたのか。
札幌の叔父の家に下宿して、大学に通い始めた時、叔父夫妻の娘・香から仏壇の引き出しに残されていたという古い地図と写真を見せられた。鞠子の母が残していたものという。この写真が契機となり、鞠子は母の自殺の真相を探る決意をする。まず、父の出身校である東京の帝都大学を訪ね、その当時のことを調べることから始める。北大生の横井から紹介された帝都大学に通う下条という女性が鞠子に協力してくれることになる。英文科に進学していた鞠子は、父の半生記を英文でまとめるための調査だと下条に説明した。父親が大学で発生学を教えていることを告げる。鞠子がまず会いたかったのは梅津正芳という人物。偶然にも下条はその梅津先生のゼミ生で医学を学んでいるという。
積極的で、親身になって調査に協力してくれる下条に、鞠子は徐々に調査の真の目的を話すようになっていく。下条はますます鞠子に協力的になる。そして、下条はある仮説にたどり着く。彼女は一層鞠子に関心を持ち始める。
双葉は東和大学の国文科に通う大学生だが、高校時代の男友達とアマチュアバンドを組みその歌手となっている。大学に通うよりバンドにのめり込んでいて、母親がテレビ番組に出演することだけは厳禁すると言っていたにもかかわらず、密かにテレビの生放送番組に出演した。
双葉は駅から徒歩10分ほどの二階建てアパートの二階に母子で住む。ベランダからは緑豊かな石神井公園が眺められる。母・志保は看護婦として勤めている。未婚の母であることを双葉は知って居るがそのことに屈託はない。双葉は母とは似ていない。それが原因でいじめられたこともあるが、そんなことも気にしないで逞しく育っていた。母は、テレビの生放送を見ていた。帰宅すると「あんたの歌、まあまあじゃない。見直した」と、思いもかけないことを双葉は言われた。だが、その後、双葉はなぜか母が思い苦しんでいる姿を垣間見ることになる。
双葉がテレビ番組に出演した後、奇妙な出来事が次々に起こる。5日ほど後、バンドの練習後アパートに帰ってきた双葉は、中年の男が帰る間際に母と最後の会話をかわすのを、身を隠して偶然聞く。五十前後の小柄で堂々とした後姿をみせる紳士だった。その翌日、大学で国文科の学生をつかまえて双葉のことを聞き込みする男が現れていた事実を知る。その男は左足を引きずるようにして歩いていたという。質問を受け、応対して謝礼をもらった複数の友人が双葉に教えた。その際、男が見せた写真は高校ぐらいの頃の髪がストレートでロングのものだったという。双葉はそんな髪形をしたことはなかった。友人はどうみても双葉の写真だったという。帰宅した夜、双葉は石神井警察署交通課から連絡を受ける。母が勤め先の病院からの帰路、轢き逃げに遭って谷原病院に運ばれたと。悪い予感が当たる。轢き逃げが原因で母は亡くなる。
双葉は母がテレビに出ることを禁止していたことと突然の母の死に何らかの関係があると思わざるを得ない。双葉は今まで気にしていなかった母の過去について調べ始める。双葉は、町田に住む叔父から、母が旭川にある北斗医科大に進学したこと。大学を辞めて東京に戻ってきたこと。その時には妊娠していたことを聞き出す。警察の調べで、アパートを訪ねてきていた紳士が誰かは捜査の結果判明した。併せて、その人には轢き逃げ時刻のアリバイがあることも判明した。
母の身の回りのものを整理していて、今までみたことのないスクラップブックを見つける。そこには、何年か前に首相を務めたこともある保守党の実力者、伊原俊策の私生活、子どものに関わる記事が集められていた。双葉にはなぜ母がこんあスクラップブックを持っているのか、皆目わからなかった。
このストーリー、鞠子と双葉のそれぞれに進める調査が、二人の出生の過去を明らかにしていく。
1.下条の協力を得て、微かな糸口となる情報から、少しずつ情報を手繰り寄せていく。複数回に亘って東京で様々な人に会い、調査を進めるプロセスがメインになる。そのプロセスで、下条がある仮説にたどり着く。鞠子は、母の死が己の出生に関係していることを知る。だが、その理由は父に確認しなければならないことに行き着く。
併せて、調査の過程で鞠子は自分の分身ともいえるほぼ同じ容貌、姿の人が存在する事実を知る。
鞠子が下条の協力で推し進める調査のプロセスが一つの読ませどころになっている。ジグソーパズルを仕上げていくような感じがおもしろい。
2. 双葉は北斗医科大学の藤村と名乗る人物からの電話を受ける。彼は母が轢き逃げされる事件の前日訪ねてきたことを語った。双葉は藤村から母のことを聞きたいと言う。藤村は北斗医科大にて話をするという。双葉は北海道に赴くが、それは自ら無自覚に危地に飛び込む形になっていく。
危地を脱する事態には、北海道に出かける前に、アパートの階段のところで双葉の帰宅を待っていた月刊ビジネス雑誌の編集部所属だと名乗る脇坂講介が関係してくる。脇坂は双葉を追って自家用車で北海道に来たのだ。脇坂はなぜか双葉をサポートする立場で行動を共にしていく。
双葉もまた、己の出生の秘密の核心を脇坂の協力も得て、徐々に気づいていく。
読者にとっては、なぜ脇坂が双葉に対して協力的なのかが謎である。それが双葉の行動プロセスでの関心事項にもなる。脇坂もまた重要な役割を担わされていたのだ。
3. 鞠子は、下条の調べを介して小林双葉の存在と住所を知ることになる。双葉のアパートを訪れて知ったのは、双葉が北海道に出かけて行ったことと、留守番を頼まれたというユタカのことである。鞠子はユタカを介して双葉と連絡を取ることになる。双葉の身の危険を憂慮するユタカが重要な結節点の役割を担っているところがストーリーの展開をうまく繋いでいる。重要な黒子役といえる。
4.北海道に戻る鞠子は、空港内で双葉と会う約束をする。だが、空港で待つ間に、彼女の前に現れた男が、父の友人だと言い鞠子に同行を要求する。空港の出入口には別の男の傍に父が居た。目の前の男は小林双葉のことを知っていた。鞠子はその男の要求に従わざるを得なくなる。鞠子は父と直に話がしてみたかった。
だが、それは理由がわからないままに鞠子が危地に踏み込む一歩となった。
そして、すべてのことが繋がり、鞠子と双葉に収斂していく。
医学倫理の問題が絡む興味深いサスペンスと言える。次々と事実が明らかになっていくプロセスの展開が巧みである。読者を飽きさせないで引きこんでいく。
生命を扱う医学の限界はどこにあるのか。何を限界とすべきなのか。それを問いかける小説にもなっている。
この小説は、1993年9月に刊行され、1996年9月に文庫化されている。
文庫本の解説を読むと、本書は「小説すばる」に連載された『ドッペルゲンガー症候群』という小説に加筆し、『分身』と改題して上梓されたものという。
最初の出版から早くも四半世紀を過ぎている。この小説が創作された時点から、生命科学、医学の領域は一層発展していることだろう。ここで扱われたテーマは、形は変わるだろうが、人間にとって一層身近な問題になっているのではないか。
著者は、四半世紀以上前に、人間にとって現代科学における重大な倫理問題の一つを問題提起していたとも言える。
ご一読ありがとうございます。
本書を読み、関心を広げてネット検索してみた。一覧にしておきたい。
赤ちゃんを迎える前に!妊娠についての基礎知識 :「女性のための健康ラボMint+」
不妊症 :「日本産婦人科学会」
不妊治療はどうやって選択される? 不妊治療の種類と選択方法:「恵愛生殖医療医院」
体内受精 :「つばきウイメンズクリニック」
体外受精 :「神奈川レディースクリニック」
双生児 :ウィキペディア
キメラ :「コトバンク」
キメラ遺伝子 :「薬学用語解説」
クローン :ウィキペディア
クローン :「東邦大学」
解説:サルのクローン誕生、その意義と疑問点 2018.1.26 :「NATIONAL GEOGRAPHICS」
クローン猿誕生で真に危惧すべきは「人間複製」への応用ではない 2018.2.2
:「DIAMOND ONLINE」
クローン人間の作製について、倫理面での問題をどう考えればよいか
:「もっと知りたい人のためのバイオテクノロジーQ&A」
「クローン人間作製」についてのコメント:「石野研究室」
クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方 平成11年11月17日
科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会 :「文部科学省」
クローン動物 :「コトバンク」
人とブタのキメラから臓器をつくり出す。万能細胞を用いて再生医療の高みへ。 YouTube
【近畿大学農学部│ 農LABO】
人とサルの細胞混在「キメラ胚」を長期培養…生命倫理の面で懸念の声 2021.4.16
:「読売新聞オンライン」
ATOLS - KIMERA feat. IA / キメラ feat. IA
本小説とは無関係です。キメラの語句検索で得たおもしろい曲の動画なので・・・・。
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
ふと手に取った作品から私の読書領域の対象、愛読作家の一人に加わりました。
次の本を読み継いできています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『天空の蜂』 講談社文庫
東野圭吾 作品 読後印象記一覧 1版 2021.7.16 時点 26作品