当初の『千里眼 ミドリの猿』を未読なので、どのように改稿されたのかはわからない。当初これ一冊で完結と思って読み始めたのだが、後半からストーリーの展開のペースとページ数の関係をアンバランスに感じ始めた。最後まで読むと、『千里眼 運命の暗示 完全版』につづくとなっている。ナルホド・・・・奇妙に感じたはずだ。
この完全版には「著者あとがき」が付いている。それを読み、違和感の原因が明らかになった。本書に興味を抱かれた方は、この「著者あとがき」を読んでから読まれることをお薦めする。旧作と映画化された内容との関係が絡み、複雑な裏事情が出来したようだ。その結果、「本作以降、角川『千里眼』クラシックシリーズは、旧・小学館版シリーズとはまったく別の作品になります」(p356)と説明されている。
逆に言えば、読者としては、何がどのように変えられたのかに関心を抱くなら、旧小学館版を対比的に読むとおもしろいかも知れない。私は、取りあえずそこまで踏み込まずに、この改稿完全版シリーズを読み継いでみたい。全面改稿に近いならば、『ミドリの猿』と『運命の暗示』というタイトルをそのまま残したのはなぜなのか。一タイトルに改題して、上・下版の方が、読者としてはスッキリするのだが。
いずれにしても、旧作は未読なので本作の範囲で読後印象等をご紹介したい。
この『ミドリの猿』は、スケールとして大きな構想で組み立て直されたようである。本書ではストーリーの一部として「ミドリの猿」に絞り込まれる側面がまずあきらかになる。そして、岬美由紀に関わる別の問題が投げかけられることで『運命の暗示』にストーリーが引き継がれる。ストーリーの主体部分が『運命の暗示』に移行する。それ故、ちょっと宙ぶらりんな感触でこの一冊を読了した。それが第一印象だ。一方で、『運命の暗示』の後半の展開がどうなるのか・・・・関心がかき立てられて終わる。それもまた、一つの手法かもしれない。上巻・下巻表示ならそういう意識は薄れるだろうが、別タイトルの先入観(?)故に歯切れの悪さが残る。これを記しておけば、これから読む人には気にならなくなるだろう。
さて、このストーリー展開のおもしろさは、状況が極端に異なるな2つのストーリーが進行して行くところにある。冒頭は、高校3年生の須田知美が赤羽精神科に通院し受診後ビルを出る時点から始まる。不安定な心理状態に陥り恐怖心を抱き苦しむ姿が描写される。知美はビルの谷間の薄暗い路地に入り込む。知美の前に嵯峨敏也が現れ「さっき赤羽精神科から出てきただろう?きみも、緑色の猿をみたのかい?」と尋ねる。「緑色の猿って?」と知美。なぜか、嵯峨は知美に近くのマンションについて教え、204号室の鍵を預けて、「精神的に辛いときには、いつでも休憩所がわりに使うといい」と言う。その後知美は鞄を紛失したことに気づき、近くの派出所に届け出に行く。警察官に嵯峨の名前を告げたことを契機に状況が思わぬ方向に動き出す。知美はその渦中に投げ込まれ、窮地に陥っていく。
もう一つのストーリーに岬美由紀が登場する。何と美由紀は南アフリカのジフタニア国内の視察に加わっている場面から始まる。東京湾観音事件を解決した美由紀は、政府に国家公務員として特別雇用されていた。内閣官房直属の首席精神衛生官に就いていた。就任後与党閣僚の不祥事を臨床心理士資格を持つカウンセラーの立場で暴き続けている。その美由紀は政府開発援助(ODA)のための事前視察に加わり、野口克治内閣官房長官・酒井経済産業大臣たちに同行していた。視察行程を主導するのはジフタニアの国務大臣クォーレ。クォーレはジフタニアでの内戦は終わったと説明し、ジフタニアの良い側面を次々に視察案内する。だが美由紀は視察行程の不自然さに気づいていく。
その結果、その不自然さを暴くことを契機に、ジフタニアの内戦状況は未だ進行していていることが暴露される。その内戦の渦中に美由紀は衝動的主体的に巻き込まれていく。美由紀は現地で出会っていた子供たちを救いたいという彼女の一途な信念に発したとんでもない行動に躍り出たのだ。その戦闘描写がまず読者を引きつける。
ジフタニアは希少金属資源を埋蔵している。それを狙って世界の諸強国が背後で関わり、様々に画策している国である。美由紀の取った個人行動が、外交問題に発展しかねない状況へと進展する様相を見せる。この事象がどう取り扱われるのか・・・・・。話の次元が異なる様相が色濃くなっていく。外交交渉の一面を垣間見るおもしろさが副産物である。
この極端な二つのストーリーが始まる。ストーリーはどのように展開していくのかは予測もつかない。そういうおもしろさがある。
視察の一行は日本に帰国する。美由紀は政治外交問題の次元については、一国家公務員として、蚊帳の外に置かれ、1ヵ月の自宅待機を野口内閣官房長官から通達される羽目になる。ジフタニアでの内戦戦闘事態を因にして、諸強国との外交調整が喫緊の課題となる。その中で、美由紀の行動を遠因と思わせる形をとり、中国が日本との全面戦争を準備するという状況が刻々と進んで行く。
外部からの情報を遮断され、待機指示を受けた美由紀は、自ら行動することで己がなし得る最善の対応を試みる。美由紀が取った行動は秘匿されたビルにある公安の前哨基地、公安調査庁首都圏特別調査部に出向くことだった。恒星天球教の極秘調査活動に協力することを目的としていた。美由紀に対応したのは、子供ほどの大きさのミドリの猿をペットとして抱いていて、公安調査庁主席調査官黛邦雄と名乗る男だった。黛は岬美由紀について熟知していた。そして、彼は美由紀の証言を疑ってもいた。
美由紀が黛に出会うことから、事態が思わぬ方向に捻れ意外な展開へと進展していく。
1.須田知美との交点が生まれる。その結果、美由紀には須田知美を介して嵯峨敏也との協働関係が生まれていく。知美抱えるの問題を解明していくことは、嵯峨が知美に質問したことへの解を見出すことにつながっていく。
2.黛はいくつもの顔を持つ男だった。もう一つは、鍛冶光次と名乗る顔である。メフィスト・コンサルティング・グループ、ペンデュラム日本支社の特殊事業部、常務取締役で実質的に極東地域を統括する立場にいる。
美由紀はこのメフィスト・コンサルティング・グループに立ち向かっていくことになる。
3.美由紀は鍛冶の罠に陥り窮地に・・・・・。それが『運命の暗示』に繋がっていく。
つまり、この第1項がこの『ミドリの猿』のプロセスでの山場になっている。第2項と第3項は、後半への序章が提示された段階と言える。メフィスト・コンサルティング・グループの不気味さが見えて来るところまでで本書は終わる。いわば、読者に気を持たせて、『運命の暗示』へと。後半が楽しみである。
中国の対日全面戦争準備はどうなるのか。メフィスト・コンサルティング・グループはどこまでの力を有する組織なのか。そして、この事態にどういう関わり、位置づけで活動しているのか。美由紀は如何にして窮地を脱することができるか。嵯峨敏也はこのストーリーでどのような役割を担っていくのか。
また、美由紀が自宅待機を指示された日、美由紀のマンションの前で高遠由愛香が美由紀の帰宅を待ち受けていた。美由紀の高校時代の先輩である。彼女の出現は本書のストーリー展開では将来への伏線なのか。単なるストーリー上の攪乱要素なのか・・・・。ちょっと頭の隅に引っかかる。
ストーリー展開の外形をなぞっただけだが、この辺りで終えよう。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、関心事項を少しネット検索した。一覧にしておきたい。
AHアパッチ・ロングボウ :ウィキペディア
カワサキGPZ1000RX :「Bike Bros.」
サバンナモンキー :「コトバンク」
サバンナモンキー :「日本モンキーセンター」
神の使い「ハヌマンラングール」その生態や習性について解説!:「おさるランド」
緑色に光るサル誕生 遺伝子改変、滋賀医大 :「産経フォト」
東風(ミサイル) :ウィキペディア
インディペンデンス (CV-62) :ウィキペディア
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 :ウィキペディア
世界の産業を支える鉱物資源について知ろう :「経済産業省 資源エネルギー庁」
アフリカの豊富な資源と紛争には深い関わりがある!?:「A good thing, Start here.」
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こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『クラシックシリーズ1 千里眼 完全版』 角川文庫
『探偵の鑑定』Ⅰ・Ⅱ 講談社文庫
『探偵の探偵』、同 Ⅱ~Ⅳ 講談社文庫
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.2 2021.6.11時点
この完全版には「著者あとがき」が付いている。それを読み、違和感の原因が明らかになった。本書に興味を抱かれた方は、この「著者あとがき」を読んでから読まれることをお薦めする。旧作と映画化された内容との関係が絡み、複雑な裏事情が出来したようだ。その結果、「本作以降、角川『千里眼』クラシックシリーズは、旧・小学館版シリーズとはまったく別の作品になります」(p356)と説明されている。
逆に言えば、読者としては、何がどのように変えられたのかに関心を抱くなら、旧小学館版を対比的に読むとおもしろいかも知れない。私は、取りあえずそこまで踏み込まずに、この改稿完全版シリーズを読み継いでみたい。全面改稿に近いならば、『ミドリの猿』と『運命の暗示』というタイトルをそのまま残したのはなぜなのか。一タイトルに改題して、上・下版の方が、読者としてはスッキリするのだが。
いずれにしても、旧作は未読なので本作の範囲で読後印象等をご紹介したい。
この『ミドリの猿』は、スケールとして大きな構想で組み立て直されたようである。本書ではストーリーの一部として「ミドリの猿」に絞り込まれる側面がまずあきらかになる。そして、岬美由紀に関わる別の問題が投げかけられることで『運命の暗示』にストーリーが引き継がれる。ストーリーの主体部分が『運命の暗示』に移行する。それ故、ちょっと宙ぶらりんな感触でこの一冊を読了した。それが第一印象だ。一方で、『運命の暗示』の後半の展開がどうなるのか・・・・関心がかき立てられて終わる。それもまた、一つの手法かもしれない。上巻・下巻表示ならそういう意識は薄れるだろうが、別タイトルの先入観(?)故に歯切れの悪さが残る。これを記しておけば、これから読む人には気にならなくなるだろう。
さて、このストーリー展開のおもしろさは、状況が極端に異なるな2つのストーリーが進行して行くところにある。冒頭は、高校3年生の須田知美が赤羽精神科に通院し受診後ビルを出る時点から始まる。不安定な心理状態に陥り恐怖心を抱き苦しむ姿が描写される。知美はビルの谷間の薄暗い路地に入り込む。知美の前に嵯峨敏也が現れ「さっき赤羽精神科から出てきただろう?きみも、緑色の猿をみたのかい?」と尋ねる。「緑色の猿って?」と知美。なぜか、嵯峨は知美に近くのマンションについて教え、204号室の鍵を預けて、「精神的に辛いときには、いつでも休憩所がわりに使うといい」と言う。その後知美は鞄を紛失したことに気づき、近くの派出所に届け出に行く。警察官に嵯峨の名前を告げたことを契機に状況が思わぬ方向に動き出す。知美はその渦中に投げ込まれ、窮地に陥っていく。
もう一つのストーリーに岬美由紀が登場する。何と美由紀は南アフリカのジフタニア国内の視察に加わっている場面から始まる。東京湾観音事件を解決した美由紀は、政府に国家公務員として特別雇用されていた。内閣官房直属の首席精神衛生官に就いていた。就任後与党閣僚の不祥事を臨床心理士資格を持つカウンセラーの立場で暴き続けている。その美由紀は政府開発援助(ODA)のための事前視察に加わり、野口克治内閣官房長官・酒井経済産業大臣たちに同行していた。視察行程を主導するのはジフタニアの国務大臣クォーレ。クォーレはジフタニアでの内戦は終わったと説明し、ジフタニアの良い側面を次々に視察案内する。だが美由紀は視察行程の不自然さに気づいていく。
その結果、その不自然さを暴くことを契機に、ジフタニアの内戦状況は未だ進行していていることが暴露される。その内戦の渦中に美由紀は衝動的主体的に巻き込まれていく。美由紀は現地で出会っていた子供たちを救いたいという彼女の一途な信念に発したとんでもない行動に躍り出たのだ。その戦闘描写がまず読者を引きつける。
ジフタニアは希少金属資源を埋蔵している。それを狙って世界の諸強国が背後で関わり、様々に画策している国である。美由紀の取った個人行動が、外交問題に発展しかねない状況へと進展する様相を見せる。この事象がどう取り扱われるのか・・・・・。話の次元が異なる様相が色濃くなっていく。外交交渉の一面を垣間見るおもしろさが副産物である。
この極端な二つのストーリーが始まる。ストーリーはどのように展開していくのかは予測もつかない。そういうおもしろさがある。
視察の一行は日本に帰国する。美由紀は政治外交問題の次元については、一国家公務員として、蚊帳の外に置かれ、1ヵ月の自宅待機を野口内閣官房長官から通達される羽目になる。ジフタニアでの内戦戦闘事態を因にして、諸強国との外交調整が喫緊の課題となる。その中で、美由紀の行動を遠因と思わせる形をとり、中国が日本との全面戦争を準備するという状況が刻々と進んで行く。
外部からの情報を遮断され、待機指示を受けた美由紀は、自ら行動することで己がなし得る最善の対応を試みる。美由紀が取った行動は秘匿されたビルにある公安の前哨基地、公安調査庁首都圏特別調査部に出向くことだった。恒星天球教の極秘調査活動に協力することを目的としていた。美由紀に対応したのは、子供ほどの大きさのミドリの猿をペットとして抱いていて、公安調査庁主席調査官黛邦雄と名乗る男だった。黛は岬美由紀について熟知していた。そして、彼は美由紀の証言を疑ってもいた。
美由紀が黛に出会うことから、事態が思わぬ方向に捻れ意外な展開へと進展していく。
1.須田知美との交点が生まれる。その結果、美由紀には須田知美を介して嵯峨敏也との協働関係が生まれていく。知美抱えるの問題を解明していくことは、嵯峨が知美に質問したことへの解を見出すことにつながっていく。
2.黛はいくつもの顔を持つ男だった。もう一つは、鍛冶光次と名乗る顔である。メフィスト・コンサルティング・グループ、ペンデュラム日本支社の特殊事業部、常務取締役で実質的に極東地域を統括する立場にいる。
美由紀はこのメフィスト・コンサルティング・グループに立ち向かっていくことになる。
3.美由紀は鍛冶の罠に陥り窮地に・・・・・。それが『運命の暗示』に繋がっていく。
つまり、この第1項がこの『ミドリの猿』のプロセスでの山場になっている。第2項と第3項は、後半への序章が提示された段階と言える。メフィスト・コンサルティング・グループの不気味さが見えて来るところまでで本書は終わる。いわば、読者に気を持たせて、『運命の暗示』へと。後半が楽しみである。
中国の対日全面戦争準備はどうなるのか。メフィスト・コンサルティング・グループはどこまでの力を有する組織なのか。そして、この事態にどういう関わり、位置づけで活動しているのか。美由紀は如何にして窮地を脱することができるか。嵯峨敏也はこのストーリーでどのような役割を担っていくのか。
また、美由紀が自宅待機を指示された日、美由紀のマンションの前で高遠由愛香が美由紀の帰宅を待ち受けていた。美由紀の高校時代の先輩である。彼女の出現は本書のストーリー展開では将来への伏線なのか。単なるストーリー上の攪乱要素なのか・・・・。ちょっと頭の隅に引っかかる。
ストーリー展開の外形をなぞっただけだが、この辺りで終えよう。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、関心事項を少しネット検索した。一覧にしておきたい。
AHアパッチ・ロングボウ :ウィキペディア
カワサキGPZ1000RX :「Bike Bros.」
サバンナモンキー :「コトバンク」
サバンナモンキー :「日本モンキーセンター」
神の使い「ハヌマンラングール」その生態や習性について解説!:「おさるランド」
緑色に光るサル誕生 遺伝子改変、滋賀医大 :「産経フォト」
東風(ミサイル) :ウィキペディア
インディペンデンス (CV-62) :ウィキペディア
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 :ウィキペディア
世界の産業を支える鉱物資源について知ろう :「経済産業省 資源エネルギー庁」
アフリカの豊富な資源と紛争には深い関わりがある!?:「A good thing, Start here.」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『クラシックシリーズ1 千里眼 完全版』 角川文庫
『探偵の鑑定』Ⅰ・Ⅱ 講談社文庫
『探偵の探偵』、同 Ⅱ~Ⅳ 講談社文庫
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.2 2021.6.11時点