ずばり本格推理小説。
クラシカルというかオーソドックスというかオーセンティック(或はピュアー)トラディショナルというか。
これこそは探偵小説と、ある種ノスタルジーを感じさせる作品。
七人の芸大生が夏休みの避暑に、荒川上流の清流沿いの山間にある保養寮・通称リラ荘を訪れる。
しかし翌日炭焼き老人の転落死体が、リラ荘より上流200mの崖下で発見される。
死体の傍らにリラ荘に滞在する女学生のコートと、スペードのAが落ちていた。
それを皮切りに、警察担当官の無能をあざ笑うかのよう、リラ荘で相次ぐ連続殺人・・・。
殺害現場には何故か決まってスペードのカードが置かれている。
生き残った中に殺人鬼がいる・・・。
こんな小説をたまには読んでみたい衝動に駆られる。
著者の長編作の中ではかなり高い評価を受けているらしいが、なるほど出来は非常によい。
社会派好みからはブーイングの嵐を浴びそうだが・・・。
晩年推理作家の重鎮となり、新人発掘や新本格派旗揚げに多大な影響を与えた鮎川哲也御大。
彼もまた戦後間もなく【ペトロフ事件】で江戸川乱歩等に評価され世に出たが、それは緻密なアリバイトリックが当時斬新であったとされる。
【リラ荘殺人事件】は本来【リラ荘事件】が正しい題名で、出版社により改題されている。
この小説もアリバイトリックであるが、【黒いトランク】のような列車ダイヤは使ってはいない。
【ペトロフ事件】で既に鬼貫が登場しているのだが、その鬼貫警部ものにも時折登場する星影竜三が今回単独で謎を解く。
三番館シリーズの達磨のバーテンダーとも、勿論鬼貫とも違うキャラクター。
お洒落でダンディーで気障で鼻持ちならないところのある本業貿易商の男。
星影だけに星★★★です!