1978年8月11日「原子力推進は安全確認後に」東京都 大田耕作
1日付本欄阿部氏の(略)結論「原子力エネルギーを本来のエネルギーへの橋渡しとして利用」には反論せざるを得ない。
そこには原発の安全性に対する考慮が見当たらないのである。氏は亜硫酸ガス等による環境汚染問題に言及しておられるのだから片手落ちだ。少なくとも現在、原発を無公害で運転する技術は確立していない。一度事故が発生すれば、四日市や水俣とは比較にならないほど大規模の、かつ幾世代にもわたる深刻な汚染となることは必定であり、またかりに無事故であっても、死の灰の保存問題、再処理工場問題などが残る。
原発は安全性が十分に確認されるまでは、研究設備としてのみ存在すべきであり、むしろ他の無公害エネルギーの開発に、より力を投入すべきである。
また「核アレルギーの強い国民性が、エネルギー政策を誤らせないよう」といわれるが、日本民族こそが、世界一の核アレルギー体質を備えなくて、何とするのであろうか。世界の核政策の誤りを第一に是正すべきは、日本民族なのである。
35年前の朝日新聞「声」の欄に掲載された私の声です。ちなみに大田耕作は世界連邦運動の中で私が使っていた別名です(朝日新聞さん済みません)。当時から原発の危険性を指摘する意見はこれ以外にも数多く表明されていました。しかしそれらは政府の政策を変えるほどの力にはならなかったのです。何故なら政府は原発推進を国策とし、電源三法を定め、そこから生じる豊富な資金で「原子力ムラ」を作り、そのムラの力で反対論をねじ伏せ、安全神話を流布して国民の目耳を塞いで来たからです。1979年のスリーマイル原発事故、更には1986年のチェルノブイリ原発事故の際でも「我国では起こり得ない」と言い張ってきました。
しかしその安全神話は3年前の福島第一原発事故で跡形もなく吹き飛んだのです。現在の福島県内の惨状はまさに私が35年前に予言したとおりになっています。
しかるに最近の安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけて再稼動・推進姿勢をあらわにしました。「可能な限り速やかに原発ゼロを目指す」という昨夏の参院選での選挙公約とはかけ離れつつあります。従前通り財界に顔を向け、国民に背を向けた結果です。
私は技術者であったから分かるのですが、「安全」に「完全」はありません。事故の原因となる全てのパラメーターのそれぞれの安全値を採っていては経済的に成り立つ施設は造れません。必ず中間の想定値を採用するのです。従っていずれかのパラメーターで想定値を超えた事象が起きれば事故になります。そしてそれは「想定外」の事故と呼ばれるのです。
「想定外」の事故が起きた施設が原発であった場合、その被害の深刻さと持続性はそれ以外の施設(例えば火力・水力発電)の場合の比ではありません。原発事故の場合はチェルノブイリでも福島でも被害範囲が広大で、かつ何世代にもわたってそこに住めなくなります。水爆実験場となったビキニ環礁の住民が実験後60年経った今でも故郷に帰れないことがその証左です。
更に安倍政権は核燃料サイクル政策の中核を担う高速増殖原型炉「もんじゅ」に放射性廃棄物減容化という役割を加えて存続させようとしています。「トイレ無きマンション」と揶揄される原発の排泄物の量を少なくする算段です。しかし仮に減容化に成功してもゼロにはなりませんし、それを捨てるべきトイレが無いことも変わりません。世界有数の地震・火山地帯である我が国にトイレの適地などありません。今の生活と国際競争力を維持するために、我々が後世に残す猛毒の放射性廃棄物は10万年もの間、子々孫々に負担と恐怖を与え続けるのです。
自民党の石破幹事長は以前「原発を維持することはいつでも核兵器を作れるという潜在的な抑止力になる」と言っていました。同党が原発を手放さない本音の一つはこれでしょう。「原子力の平和利用」という耳当たりの良い表現をしていますが、本音のところは核兵器と結びついているのです。同じ言葉を使うイラン、北朝鮮と似た姿勢です。
核兵器廃絶は国連の主要テーマとなって久しいのですが、いつまでたっても本格的な議論になりません。それは核兵器保有国でかつ安保理常任理事国である米・英・仏・露・中の5カ国が後ろ向きだからです。この5カ国が拒否権を持つという不平等なシステムを温存する限り、国連が核兵器廃絶を成し遂げることはないでしょう。世界連邦のような、統治システムでなければ無理です。
世界レベルでの脱原発も同様です。事故対応、テロ対策、廃炉技術、核廃棄物処理などの全てにおいて世界が一丸となって一律に対処する必要があります。何故なら経済的には抜け駆けをして少しでも長く・多く原発を稼動したほうが有利なのですから、そこには核兵器保有と似た性質があります。しかしそうして脱原発が遅れれば遅れるほど、核廃棄物という負の遺産と恐怖が積みあがっていくのです。
我々は一日も早く世界連邦のような統治システムを実現しなければなりません。それができて初めて核兵器廃絶、世界の脱原発、地球温暖化阻止、世界人口と食料と水などのグローバルな諸問題に対処できるのです。
福島原発事故の後、ドイツを含め数カ国が脱原発を選択しました。我が国はといえば、民主党政権は脱原発方針でしたが、安倍政権になると原発推進に変わっています。冒頭に掲げた投稿の末尾は「世界の核政策の誤りを第一に是正すべきは、日本民族なのである」と結んでいます。広島・長崎・ビキニ環礁・福島と四度の核被害を受けた我が国こそが、今世界の核兵器廃絶と共に脱原発運動の先頭に立つべきではないのでしょうか。そのための世界連邦構築への賛同の声をどうか皆さんも上げていただきたいのです。
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