神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] さよならの儀式

2014-08-12 20:48:44 | SF

『さよならの儀式 年刊日本SF傑作選』 大森望/日下三蔵 編 (創元SF文庫)

 

毎年恒例の年刊SF傑作選。少数派なのかもしれないけれど、怪しげな四文字熟語造語なタイトルが気に入っていたので、今年から表題作パターンになってしまい残念。

もちろん、年間ベスト級な短編は当然収録されているのだけれど、中には内容よりも話題性から選ばれたかに思える作品も見受けられ、2013年に発表された短編のベスト作品を集めたというよりは、2013年のSF出版界で何が起こっていたかという資料の側面が強いか。

出版事情が変わってきて、この年刊傑作選の位置付けも変わってきたのだろうけれど、個人的には面白いSFが読みたいだけなので、作品の内容だけで勝負して欲しい気持ちが強い。

いや、当然、選者はこれがベストなんだというだろうけど。

……こんなこと言っちゃなんだけど、『夏色の想像力』の方が面白い作品がいっぱい載ってたよ!

 

あ、そういえば、大事なことを思い出した。おれ、『SF Jack』がまだ積読のままだよ!

 


「さよならの儀式」 宮部みゆき
ロボットにはどこまで自由意識があるのか。そこに読み取れる感情は、ひとがただの人形から読み取る感情以上のものか。そして、ひととロボットの違いは。ありきたりな感動だけでなく、吸い込まれるような不安感も漠然と感じる。

「コラボレーション」 藤井太洋
閉鎖されたネットから脱出しようとあがくプログラムと、そこにプログラマーとしての共感から知性の芽生えを感じて手助けしようとするエンジニア。知性とは何か、生命とは何かというテーマを語り始めたらきりがないが、エンジニア的視点で共感を呼ぶスタイルが新しい。

「ウンディ」 草上仁
個人的には収録が見送られた「ドラゴンスレイヤー」の方が好きなのだが。この作品は音楽SFとして素晴らしいのだろうけど、楽器をやっていないせいか、文章で語られた音楽がいまひとつピンと来てない。

「エコーの中でもう一度」 オキシタケヒコ
空想の付かない科学小説といった感じ。音響技術を通してクロスする二つの出来事のギャップがなかなか楽しい感じ。

「今日の心霊」 藤野可織
写真を撮ると必ず心霊写真(デジタルでも!)になってしまうという女性を追ったルポ記事の体裁。ブログを作って炎上して、また別なブログを作ってというあたりが、人はなぜブログを書くのかという深遠な(笑)テーマに引っかかっていて面白い。

「食書」 小田雅久仁
小説を味わうという表現が文字通り存在したらどれほどホラーかということを描いたホラー。たしかにこれは一枚食べたら戻れなくなりそう。

「科学探偵帆村」 筒井康隆
昔の筒井っぽい。こういう馬鹿話も由緒正しい日本のSF。

「死人妻(デッド・ワイフ)」 式貴士
名前は聞いたことあるけど、ほとんど読んだことのない作家だし、冒頭だけじゃ。年刊SF傑作選に入れるべきなのかどうかも議論の余地あり。

「平賀源内無頼控」 荒巻義雄
最後を端折っちゃった様に見えるところがどうしてもマイナスポイントに見える。同人誌初出なので、商業誌用に加筆して欲しい。

「地下迷宮の帰宅部」 石川博品
俺つぇーーーーー系の異世界ものファンタジーかと思いきや、捻くれた結末が物悲しい。

「箱庭の巨獣」 田中雄一
アルパカみたいな麒麟の顔がユーモラスだが、それとはかけ離れた悲壮な話。その結末では、あまりにも救いがないじゃないか。

「電話中につき、ベス」 酉島伝法
SF大会へ行こう小説。さすが酉島伝法、このネタをそうやって料理するか。

「ムイシュキンの脳髄」 宮内悠介
「盤上の夜」で見せた架空ノンフィクションの形式で語られるオートギミーという架空の脳治療。オーダーメイドの脳という概念に倫理観が揺らぐ。

「イグノラムス・イグノラビムス」 円城塔
未来とは何か、時間とは何か。我々は知らない、知ることはないだろう。主人公が最後に流す涙の意味は、諦観なのか、あるいは、歓喜なのか。

「神星伝」 冲方丁
これは楽しい。アニメ原作っぽい感じだが、やりたい放題にやっている様子が見えて良い。

「風牙」 門田充宏
第5回創元SF短編賞受賞作。選評を読む限りは「ランドスケープと夏の定理」の方が面白そうだ。こっちの作品は、完成度が高いうえに世界観がなじみ深いので、そのためか引っかかりがなくてすんなり流れて行ってしまう感じ。いや、これはこれで面白いんですけど。

 


[SF] 夏色の想像力

2014-08-12 20:13:04 | SF

『夏色の想像力』 今岡正治 編 (草原SF文庫)

 

第53回日本SF大会「なつこん」記念アンソロジーである同人誌(笑)

印刷、製本、表紙の紙まで創元SF文庫と全く同じ。くりかえしますが、似せて作ったのではなく【同じ】です。 

同人誌といっても、執筆陣は創元SF短編賞受賞者だけでなく、日本ファンタジーノベル大賞受賞者やハヤカワSFコンテスト出身者、さらには日本SF大賞受賞者や星雲賞受賞者なども取りまとめて超豪華な布陣。しかも、この豪華執筆陣の原稿料はゼロ円。

こんなネタみたいな企画に、いったいどうしてこんなに新人SF作家から大御所SF作家までが集まってしまったのか。なんでも、野崎まど氏なんかは原稿料の無い仕事はやらないと断ったらしいが、それがプロとしての正しい姿。(参考:プロの仕事にタダはありえません

要するに、SF大会というお祭りの一環という認識が正しいのだろう。だからこそ、SF大会を“知って”いる作家たちが集まってきたのだ。そうとしか考えられない。

しかも、創元SF文庫そっくりの装丁や、これだけ集めて原稿料ゼロというネタ的なおもしろさ以上に、収録されている小説が噂にたがわぬ傑作揃いでびっくりした。来年の星雲賞どころか、日本SF大賞も狙えるレベル。

なつこんでは「なつこんアンソロジー「夏色の想像力」を語る」という企画もあったのだが、そこで明らかにされた面白すぎる原稿依頼秘話も、各短編の扉裏でその一端が垣間見られる。

ただし、いくら同人誌と言っても、誤植多いのだけが残念。“の”が不自然に連続したり、一読してわかるような誤植、誤記がいくつもあるのだが、それぐらいチェックしとけよと思う。(これでも元某大学SF研会誌編集長なので!)

 


「つじつま」 円城塔
円城塔がらみで英訳、和訳の話題が続いているが、これは円城塔が英語で発表した作品の、本人による和訳版。相変わらずの円城節だが、最終的に“つじつま”があっているかどうかは良くわからなかった。

「あなたは月面に倒れている」 倉田タカシ
本人曰く、月面大喜利。月面に一人の男が倒れているというシーンからの着想を積み重ねることによって生まれた幻惑感が心地よい。

「伝授」 北原尚彦
これもなんと英語で発表された作品の本人による和訳。発表の場が震災チャリティ小説集だったことが、作品に内容以上の意味を与えているように思う。

「お悔みなされますな晴姫様、と竹拓衆は云った」 山田正紀
エリスンとはまったく無関係の歴史SF。ノリのいい文章が著者本人のノリノリ感を直接的に読者に伝えてくる。竹で作った壮大な時間装置はスチームパンクを越えたバンブーパンクとでもいうべき面白さ。

「弥生の鯨」 宮内悠介
資源小国としての日本の未来と鯨文化の生き残る道。奇妙な組み合わせがSF的な広がりを見せる。実はSF傑作選収録作よりもこっちの方が好き。

「一九八五年のチャムチャム」 高山羽根子
「不和 ふろつきゐず」 高山羽根子
「宇宙の果てまで届いた初めての道具」 高山羽根子
「ウリミ系男子とロイコガール」 高山羽根子
ショートショート4連発。目次と扉のタイトル表記が違うあたりが同人誌的。どれも“つくば”という土地とSFというテーマにこだわった作品で、一番企画意図を理解していると思われる。「不和」の怪談めいた雰囲気もいいけど、「宇宙の果てまで……」の切れ味のいいオチが素晴らしい。

「再生」 堀晃
心臓手術の体験から生まれた幻想的なエピソード。重要なモチーフになる猫が印象的。

「筑波の聖ゲオルギウス」 忍澤勉
ゲオルギウスと言えば、農夫で竜退治。江戸時代、筑波の地で再現されたゲオルギウスの物語をファースト・コンタクトに絡めて描くコメディ。なつこんでの企画が割とネタバレで、一番面白いところは語りつくされていた。

「金星の蟲」 酉島伝法
現代の工員が酉島的世界に徐々に落ち込んでいく。足元を崩され、底なし沼に沈んでいくような恐怖感で狂いそうになる。宮内氏に続き、SF傑作選収録作よりもこっちの方が好き。

「星窓 remeix version」 飛浩隆
SF Japan掲載作だが、単行本未収録なので一応新作、かつ、さらにバージョンアップ済み? モラトリアム時代の終わりの、かけがえのない夏の匂いを感じる。

「夢のロボット」 オキシタケヒコ
なつこんの企画で話していたのであらかたネタは割れてしまっていたが、なるほど、確かに日本人が夢見るロボットの集大成はアレだな。結末はわかっていても、そういう話だったのかという持って行き方にものすごい納得感あり。

「イージー・エスケープ」 オキシタケヒコ
なんどもひっくり返す系のミステリ。そこに至る想いと絆が心を打つ。

「折り紙衛星の伝説」 理山貞二
これは宇宙を目指す少年の夢とロマン。これはいずれSFではない科学小説になるべき。

「百年塚騒動」 理山 貞二
“フィクションをフィクションとして楽しめる方のみ、先へお進みください”という注意書きから始まるところが味噌。そういうデリケートなネタというほどのものではないと思うけど。逆に、こういうものを正面から描けることこそSFの本懐。そして、これはそのタイプの名作。

「アオイトリ」 下永聖高
昨今の若者の“自分探し”をSF的にデフォルメするとこうなるというまさにコンテンポラリーな作品。本人が書いた直筆の挿絵も味わい深い。ありえる未来やありえた過去を描くSFでも、こういう同時代性は重要だと思う。

「常夏の夜」 藤井太洋
いちばん騙されたっぽいのがこの人(笑) つまり、一番真摯に作品を作ってくれた感じがする。ネタは完全にバカSFなのだけれど、この人が書くと、ちゃんとした科学スリラーになるところが凄い。

「錐爺」 勝山海百合
タイトルは円錐が主人公の作品を書こうとした名残らしいけれど、そんなの円城塔ぐらいしか書けないだろ(笑) 内容は円錐に関係ないファンタジーだった。

「焼きつける夏を」 三島浩司
SFではスローグラスというネタガジェットがあるが、それを自力で成し遂げた男の話。ある意味感動的だけれど、その執念はちょっと怖い。

「キャラメル」 瀬名秀明
これはメタフィクションなのか、それとも続篇なのか。元ネタとなる小鳥の“歌”は2007年のワールドコンNippon2007の企画での発表にあった気が。そして、それが2010年の東日本大震災(瀬名さんは仙台在住)の体験と結びついて生まれた作品。知性や感情とは何かをめぐる、瀬名さん永遠のテーマに連なる作品のひとつ。震災後の子供たちにとってひとつぶのキャラメルが持つ意味が記憶に残る。

 

※編集が甘いと文句を言う記事に誤字脱字が多くて申し訳ありません。推敲して見ました。 (2014.09.15)