『さよならの儀式 年刊日本SF傑作選』 大森望/日下三蔵 編 (創元SF文庫)
毎年恒例の年刊SF傑作選。少数派なのかもしれないけれど、怪しげな四文字熟語造語なタイトルが気に入っていたので、今年から表題作パターンになってしまい残念。
もちろん、年間ベスト級な短編は当然収録されているのだけれど、中には内容よりも話題性から選ばれたかに思える作品も見受けられ、2013年に発表された短編のベスト作品を集めたというよりは、2013年のSF出版界で何が起こっていたかという資料の側面が強いか。
出版事情が変わってきて、この年刊傑作選の位置付けも変わってきたのだろうけれど、個人的には面白いSFが読みたいだけなので、作品の内容だけで勝負して欲しい気持ちが強い。
いや、当然、選者はこれがベストなんだというだろうけど。
……こんなこと言っちゃなんだけど、『夏色の想像力』の方が面白い作品がいっぱい載ってたよ!
あ、そういえば、大事なことを思い出した。おれ、『SF Jack』がまだ積読のままだよ!
「さよならの儀式」 宮部みゆき
ロボットにはどこまで自由意識があるのか。そこに読み取れる感情は、ひとがただの人形から読み取る感情以上のものか。そして、ひととロボットの違いは。ありきたりな感動だけでなく、吸い込まれるような不安感も漠然と感じる。
「コラボレーション」 藤井太洋
閉鎖されたネットから脱出しようとあがくプログラムと、そこにプログラマーとしての共感から知性の芽生えを感じて手助けしようとするエンジニア。知性とは何か、生命とは何かというテーマを語り始めたらきりがないが、エンジニア的視点で共感を呼ぶスタイルが新しい。
「ウンディ」 草上仁
個人的には収録が見送られた「ドラゴンスレイヤー」の方が好きなのだが。この作品は音楽SFとして素晴らしいのだろうけど、楽器をやっていないせいか、文章で語られた音楽がいまひとつピンと来てない。
「エコーの中でもう一度」 オキシタケヒコ
空想の付かない科学小説といった感じ。音響技術を通してクロスする二つの出来事のギャップがなかなか楽しい感じ。
「今日の心霊」 藤野可織
写真を撮ると必ず心霊写真(デジタルでも!)になってしまうという女性を追ったルポ記事の体裁。ブログを作って炎上して、また別なブログを作ってというあたりが、人はなぜブログを書くのかという深遠な(笑)テーマに引っかかっていて面白い。
「食書」 小田雅久仁
小説を味わうという表現が文字通り存在したらどれほどホラーかということを描いたホラー。たしかにこれは一枚食べたら戻れなくなりそう。
「科学探偵帆村」 筒井康隆
昔の筒井っぽい。こういう馬鹿話も由緒正しい日本のSF。
「死人妻(デッド・ワイフ)」 式貴士
名前は聞いたことあるけど、ほとんど読んだことのない作家だし、冒頭だけじゃ。年刊SF傑作選に入れるべきなのかどうかも議論の余地あり。
「平賀源内無頼控」 荒巻義雄
最後を端折っちゃった様に見えるところがどうしてもマイナスポイントに見える。同人誌初出なので、商業誌用に加筆して欲しい。
「地下迷宮の帰宅部」 石川博品
俺つぇーーーーー系の異世界ものファンタジーかと思いきや、捻くれた結末が物悲しい。
「箱庭の巨獣」 田中雄一
アルパカみたいな麒麟の顔がユーモラスだが、それとはかけ離れた悲壮な話。その結末では、あまりにも救いがないじゃないか。
「電話中につき、ベス」 酉島伝法
SF大会へ行こう小説。さすが酉島伝法、このネタをそうやって料理するか。
「ムイシュキンの脳髄」 宮内悠介
「盤上の夜」で見せた架空ノンフィクションの形式で語られるオートギミーという架空の脳治療。オーダーメイドの脳という概念に倫理観が揺らぐ。
「イグノラムス・イグノラビムス」 円城塔
未来とは何か、時間とは何か。我々は知らない、知ることはないだろう。主人公が最後に流す涙の意味は、諦観なのか、あるいは、歓喜なのか。
「神星伝」 冲方丁
これは楽しい。アニメ原作っぽい感じだが、やりたい放題にやっている様子が見えて良い。
「風牙」 門田充宏
第5回創元SF短編賞受賞作。選評を読む限りは「ランドスケープと夏の定理」の方が面白そうだ。こっちの作品は、完成度が高いうえに世界観がなじみ深いので、そのためか引っかかりがなくてすんなり流れて行ってしまう感じ。いや、これはこれで面白いんですけど。