第2回アガサ・クリスティー賞(2012年)受賞作。この賞は“本格ミステリをはじめ、冒険小説、スパイ小説、サスペンスなど、アガサ・クリスティーの伝統を現代に受け継ぎ、発展、進化させる総合的なミステリ小説を対象”とする公募の新人賞である。
大事なことなのでもう一度言うと【公募の】新人賞である。
で、中里友香といえば、2007年に日本SF新人賞を受賞して『黒十字サナトリウム』でデビューしているし、講談社の『BOX-AiR』にも参加している。
新人賞には、わざと有望な作品を投稿させて、いわば出来レース的に受賞させて箔を付けることもあるようだけれど、この件はどうもそうではないらしい。
まぁ、何が言いたいかというと、日本SF新人賞って、本当にクソだったな。博士号並みに取っても食えない代物だったと。『SF Japan』ともども、俺の期待感と赤いハードカバーに投資した金を返せよ。いったい徳間は何をやっていたのかと、今頃言ってもしょうがないのだけれど。
そういえば、《憑依都市》関連でもめていた話は、結局どうなったんだっけ??
そんなことばかり書いててもしょうがないので、作品の話をしよう。
この小説はクリスティー賞=“ミステリの賞”受賞作だったので、発表当時は購入を見送ったのだった。文庫化の時に買ったけれども、半年以上そのまま積読状態だった。しかし、読んでみると、これがなかなか面白かった。
これをSFと呼んではいけないような気もするが、一言で言えば、オカルティックな存在をミステリ的なロジックで退治するというというお話だった。敢えて“科学的”ではなく、“ミステリ的”という言葉を使うが、この辺は評論的におもしろいネタになりそうな気がする。
無理矢理に科学的(というか、疑似科学的)に解釈するならば、オーグストはシグモンドが生み出した存在だったのではないか。そうであるからこそ、非科学的ではあるが、論理的なロジックの元で退治することができたのだと思う。つまり、シグモンドさえ納得すればよいのだ。
しかし、シグモンドの不老性とか、クリスティンの目の急速な治癒とかを考えれば、絶対にこいつら吸血鬼でしょと思っていたのが、まったくのミスリードだったのには笑った。そのへん、応募先を考えてミステリーであろうとする葛藤でもあったのだろうか。
注意深く第三者的な視点で読むとオーグストは存在しないとか、シグモンドと同一人物とかいった仕掛けがあると、さらにミステリとしては完璧だったのだろうけど、さすがにそこまでは読み取れなかった。