『栄光の道』 ロバート・A・ハインライン (ハヤカワ文庫 SF)
積読の棚にハインラインが残っていたので消化。
しかし、SF作家というものは、一度は異世界転生俺スゲー物語を書かなければいけないものなのだろうか。ハインラインしかり、ニーヴンもブリンもそうだ。
主人公はベトナム帰りの貧乏で不運な青年。ベトコンに顔を傷つけられたブサメンでもあるが、アメフト選手として優秀だし、東南アジアのジャングル戦を生き抜いてきただけに強靭な肉体を持つ。
このあたりが、現代ラノベとは違うハインライン的な部分か。主人公はナードではありえないし、異世界では特別な超能力を発揮できたわけでもない。活躍できたのは、彼の本来の力のおかげだ。
彼は絶世の美女(この美女も可愛い系ではなく、大柄で筋肉質な女性だったりするのがおもしろい)に導かれて、異世界での化け物退治に駆りだされる。そこから先は、神話的というか、ヒロイックファンタジーのパロディのような展開。
ところが、それで終わらず、その美女はパラレルワールドを統べる女王様(御年数千歳)だったということがわかる。このファンタジックワールドや冒険譚にも理屈を付けなければいけないというのは、SF作家としての矜持なのだろうね。
また、女性の扱いにも特色が出ている。女性は宇宙の支配者であっても、グダグダ言うのをひっぱたいて言うことを聞かせるものらしい。なんという家父長主義。
そしてまた、民主主義に対する批判もおもしろい。要するに、民主主義は衆愚政治に陥りやすいということなのだけれど。しかし、組織が厳格で無ければ、多数決で否決される少数派の天才が活躍する可能性があるから問題ないという。英雄が辿る栄光の道は、こうしてファンタジーでなくても、現実に存在しうるのだという主張か。
そしてそれよりひどいのは社会主義であり、社会主義者は阿呆だという主張を述べたりする。社会主義における厳格な組織では、多数に理解されない天才はスポイルされてしまうから。これがハインラインの共産主義、社会主義への見方なのだろうな。
可愛い女の子ハーレムになったり、本人の努力ではなく血統の力で異能を発揮するような現代的「転生系俺つえー」ラノベと比較するのはいろいろと面白いような気がするが、かといって、ハインラインの作品の中で特別面白いわけでもなく、あまりお勧めはできない作品だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます