神なる冬

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[SF] ブラインドサイト

2013-12-16 21:31:24 | SF

『ブラインドサイト』 ピーター・ワッツ (創元SF文庫)

 

タイトルの“ブラインドサイト”は、見えているはずのものが見えない錯視、錯覚、もしくは精神障害の意味。最終的に、どうしてこの物語が、このタイトルなのかは読めばわかるようになっている。

冒頭から、精神障害の治療のために脳の半球を切除した少年が出てくるが、これが主人公。大脳半球切除術は、昔のいわゆる野蛮な手術なのかと思っていたら、どうやら現代でも重度のてんかんに対して有効な手術らしい。

そして、いきなり登場する吸血鬼の存在。はっきり言って、この登場には相当戸惑ったけれども、読み終えてみれば、吸血鬼という存在は人類とは近くて遠い異質のものの象徴になっている。吸血という属性よりも、人類の中の捕食者という性格付けが強い。

他にも、精神の形が現代のマジョリティから見て異なる人々が登場し、心理学、精神医学的な単語やモチーフがそこらじゅうにちりばめられる。このあたりが、ちょっとだけ違う社会を感じさせ、妙な不安感を覚える。

さらに極め付けとして登場するのが、異星からの生命体と見られる〈ロールシャッハ〉。はたして彼が生命なのかどうかわからないが、太陽系外縁の巨大天体を巡る巨大構造物とのファーストコンタクトプロジェクトが開始される。

テーマとなるのは、知性とは何か、意識とは何か、そして、共感とは何か。巨大構造物の中に侵入しようとするメンバーに対する精神攻撃。錯視や精神障害のような現象をもたらす攻撃に揺らぐ認知機構。

レビューなどで伊藤計劃の『ハーモニー』との相似が語られることもあるが、自分としてはスタニスワフ・レムの『ソラリス』の方を想起した。果てしのない深い海底を覗き込むのと同時に、鏡を覗き込むかのような、自意識に跳ね返ってくる得体の知れなさ。恐怖というよりは不安。

確かに読みやすい小説ではない。吸血鬼や四人組、はたまた、バックアップなどという様々な設定が予備知識なく飛び出し、その場では十分に説明されないまま過ぎていく。しかし、得体のしれない地球外存在とのファーストコンタクトを目指す彼らの活動は刺激的であり、知的なエンターテイメントである。

ただし、ファーストコンタクトの顛末は話のきっかけにすぎず、主眼は探査隊メンバーによる意識や知識を巡る刺激的な会話にある。

思わせぶりなキーワードや、実在のエピソードを絡め、〈ロールシャッハ〉の攻撃のように、読者の認知機構をハッキングし、大きく揺さぶってくる。意識とは何か、知性と意識に関係はあるのか、おまえに意識はあるのか、おまえに意識は必要なのか……。

解説の(日本語版のみとは豪華な!)テッド・チャンは、明確にNoと答える。

円城塔は読書メーターの感想欄に、一言「はい。」と書き込む。

残念ながら、俺には答える解が無い。

 

 



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