『コロロギ岳から木星トロヤへ』 小川一水 (ハヤカワ文庫 JA)
時空を突き破って地上に落ちてきた超次元生命体カイアク。2014年の地球と、2231年の木星トロヤ群にある廃宇宙船の間に挟まって動けなくなってしまったカイアクを、地球も宇宙船も壊さずに救出するために、あの手この手の大作戦が開始された。
帯によると、『天冥の標』の展開にいたたまれなくなった人のための、さっくり読める時間SFとのこと。確かに、宇宙船に閉じ込められた二人の少年の命と地球崩壊を天秤に掛けるという重苦しい命題も、天冥の壮絶な展開に比べると、コメディタッチで軽く描かれていて、気楽に読めた。
とにかく、超次元生命体カイアクの存在が最高。すっとぼけているんだか真面目なんだかわからないディスコミュニケーションの末に、嘶咽木(ころろぎ)岳観測所の人々とわかり合い、時間的にも地理的にも遥か彼方、未来の木星トロヤ衛星群で閉じ込められた二人の少年をなんとか救出しようとするメッセージの遣り取りは、笑えて泣ける。
未来の少年たちを思う現代のお姉さん二人が“腐って”いるというのも悪くない設定だったと思う。全く無関係の、存在するかしないかすらわからない少年たちの生命を地球全体の未来と交換しようというのだから、それくらいでなければやってられない。
SFとしての読みどころは、時空を超えた通信方法。未来の木星トロヤから過去のコロロギ岳までは超生命体の身体の振動を使うものの、過去から未来へはあの手この手でメッセージを伝えようとする顛末が楽しい。このネタでブレーンストーミングしたら、楽しい一日が過ごせそう。
しかし、カイアクは我々の言語を覚えるために無数のパラレルワールドを試行したのだから、未来の少年を救うための試行回数くらい、たいしたことなかったのではとか思ったり。それでも、それを知らない観測所のひとたちの努力は十分に感動的な物語となりうる。
この手の話では時間軸を移動したときの記憶の保持がどこまで正当なのか気になるが、気にしたらおしまい。変わった未来が認識できるのも、カイアクのプレゼントと考えよう。
そして、出会わなかった二人が出会うのは、腐同士が呼び合う心のおかげだ。
ところで、ころろぎ岳ってGoogle検索に引っかからないのだけれど実在するのか? この名前も、カイアクが我々に興味を持ってくれる一端になってたはずなんだけれど。
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