母の手術

私は小さい頃から弟と母と3人の母子家庭で育ったので、大所帯で育った母とは違い淋しいという感覚が人より薄いらしい。

母は私にやたらとかまって欲しい光線を出しつづけているけれど、私のめんどくさい感情と言ったら相当なもんだ。


なぜならどうしてそんなに寂しがるのかわからないからだ。



父に言われた。


「お父さんは小さい頃に両親を亡くしたからずっと妹しかそばにいなくて、一人でいることになれている。だけどお母さんは違う。10人以上の大家族でしかも客商売だったから誰かがいて当たり前だった。お前がどうしてお母さんのことがわからないのかお父さんにはわかる。だけどお母さんにはわからないんだよ。お前は自分で行く道を決められる。でもお母さんは誰かにあわせる生活をしてきたんだからお前のようには生きたことがないんだ。」

私は目から鱗だった。


「どうして自分の人生を自分が好きなように使っちゃいけないんだ」と小さい頃からずっと思っていた。


父が「お母さんはそんな生活をしたことがないからわからない」と言ったことで私は母が理解してくれないことが理解できた。

だからといって曲げる気のない私は結局いつも好きかってしていたけれど、父が「譲るところをわきまえること。一人でいることが自由であることじゃないとわかっていること。自分一人で生きているんじゃないとわかっていること。好きなことと大切なことが二つあったら大切なことを優先させること。まわりに恥を欠かせないように気を配ること。」を心に置いているなら好きになことをやりなさいと言われたことがある。

その頃たぶん26歳くらいだったと思う。


父は失敗した人間だ。だから父は「お父さんはどうやったら失敗するのか知ってるんだぞ」という。



そりゃ貴重な経験だ。


例えば会社を成功させた人と、倒産させた人がいたらどうやったら儲かるかよりどうやったら失敗したのか話しの方が今必要としている話しだったりする。今、その道を生きているからその話しが身にしみて来ることだったりする。


私に偉そうに言えるのはそこが大事なことだったと気がつくような失敗があったからなんだ。


自分の弱点をわかっているのだろう。

だから母の弱点だって今の父にはわかるんだろう。


父は病気で半身麻痺になりリハビリをしている。母は自分が手術することを話したようで、父を励ましたらしい。
それが父のやり方だったことが私にはわかる。

そうやって自分を励まさせることで、母が怖がらずに一人で手術に立ち向かおうとするだろうと父は知っていたと思う。