ワライカワセミ(Dacelo novaeguineae) Laughing Kookaburra
オーストラリアでは、灼熱の日差しが照りつける真昼間に活動すると、すぐに半熱中症状態に陥ってしまう。ヨーキーズノブを後にしてから何もしていないというのに、パームコーヴ(Palm Cove)あたりでまたどうしようもなく体が重くなってきた。
そこで私達は、今度は大型スーパー「Coles」に入ってみることにした。
このColesは、先ほどの小さなスーパーに比べて品物の価格が格段に安かった。Colesでは日本のカップラーメンやらマレーシアに行った時に見つけて気に入った炭酸飲料「100plus」まで置いてあり、品揃えが豊富で嬉しくなる。
Colesスーパーで喉を潤し、備え付けのベンチでしばしの休息の後、私達は本日宿泊予定のKFPキャンプ場を目指して一路北上した。
途中、キジバンケンやオオオニカッコウが前方の道路を飛んで横切る。
オオオニカッコウなど名前からして物々しいが、名前の通りゴツく、見た目はまるでサイチョウ類のような風貌をしている。
キャンプ場をいつの間にか通り過ぎていたことに気づいた頃、道路沿い、民家の電線に何かがとまっているのに気が付いた。
はじめ、何か猛禽かと思ってしまった。そのくらいのガタイの良さをしている鳥がいたのだ。
双眼鏡で確認すると、なんとそれはワライカワセミであった!
まずその大きさに驚いた。想像していたより遥かに大きいではないか。そして、民家の小さな庭の電線などにとまっているという意外性にもまた驚かされた。
またその民家の横の木立にはちょっとした水場があり、よく見るとそこに色んな小鳥が来ていた。
コキミミミツスイ、ナマリイロヒラハシの雌、そしてキスジミツスイも交代制で水浴びに興じている。
もうかなり薄暗くなった頃、やっとこさキャンプ場に辿り着くと、そこは鬱蒼とした森の中であった。
私が車から外へ一歩踏み出すと、顔にもモヤッとした小虫の群れが当たる。それは蚊柱だった。
日本の渓流沿いなんかでよく見られる蚊柱は往々にしてユスリカの仲間で構成されていて、気管に吸い込んでしまう危険性を除けば、吸血性もないから無害だ。ところがここオーストラリアではそんな常識は少しも通用しないみたいである。なんとその蚊柱全体が私めがけて襲い、吸血しにかかってきたではないか!
私は「冗談でしょ?」と驚嘆と恐怖の入り混じった声で叫びながら走ってその場から離脱した。
ただでさえ鬱蒼として薄暗いのに夕暮れでより暗くなったキャンプ場内を歩くと、シラフミツスイ、コキミミミツスイ、フヨウチョウ、ベニカノコバト、モリショウビン、メンガタカササギビタキなどが顔を見せる。
ひとたび立ち止まると蚊の餌食になるため、歩き続ける他に選択肢は存在しないのだ。
キャンプ場裏、少し開けた牧草地に出ると、高い木の上ではキバタンが世にも心地悪い声で鳴いている。
ナツメヤシの実には、信じられない数のオナガテリカラスモドキの群れが集まっていて、あっという間に群れ全部が飛んでいった。飛んでいった先には木の枝にかけられた巣があり、そこを塒にしている様子である。
キャンプ場の奥へ行くと、林道の入り口に短い丸太が門のように2本立っていた。
そしてその2本の丸太の上には、2羽のワライカワセミが向き合ってとまっていたのだ!まるで門の番をするガーゴイルのようであった。
しばらくすると1羽はどこかへ飛んでいったけれど、もう1羽は私のことは特に気にしていない様子に見える。
観察をしていると、ワライカワセミは丸太に乗ってしばらく地表を見下ろして、時折ぱっと地面に舞い降りては昆虫を捕まえて食べていた。
さっきまで賑やかだった夕方の森の喧騒も静かになる頃、地面に降りたワライカワセミの背後を、静かにオーストラリアツカツクリが歩いていった。
【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】