ワライカワセミ(Dacelo novaeguineae) Laughing Kookaburra
先ほどまで低い丸太の上から餌を探していたワライカワセミが、バサリと飛び立ち今度は私のすぐ真上の樹にとまった。
人が居ようと居まいと、ワライカワセミはあくまでもマイペースに行動を続けるのだ。
この間にも、軽く100匹は居ると思われる吸血性の蚊が私を取り巻き、手加減無しで刺しにかかってくる。100匹という数字は決して大げさなどではない。私を中心に蚊の嵐、モスキートサイクロンが渦を巻いていた。
私は考えた。蚊に気を取られて、ワライカワセミを堪能出来なければここまで来た意味がない、と。
ワライカワセミはその無垢な微笑みをこちらに向けている。
そして私は遂に、無我の境地に達した。
膝に、顔に、腕に手に、全身に、無数の蚊がとまり、服の上からでもお構い無しにその尖った口吻を私の肌に突き刺したが、私は御仏のような穏やかな心持ちを保ちつつ、意識の全てをワライカワセミだけに向けていた。
【2010/03/03/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】