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イギリスの前首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)が自叙伝を出すに当たり、そのゴーストライターを依頼された“ゴースト”(ユアン・マクレガー)は、気乗りしなかったが成り行きで引き受けることに。気乗りしなかった理由の一つは、前任のゴーストライターであったマカラが水死体となって海岸に打ち上げられていたからだ。
アメリカ東海岸の孤島にあるラングの別荘へ到着するやいなや、不穏な空気がゴーストにまとわりつき、彼は気がつけば巨大組織に危険視される存在となってしまっていた、、、。
ユアンの役名はなく、ただの“ゴースト”。ラストシーンの画が印象的な、なんちゃってサスペンス映画。
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途中??な箇所はあるものの、見ている者を130分飽きさせない引力があり、ポランスキーの演出の妙は相変わらず冴え渡る。しかし、見終わった後にサスペンスにはあってほしいカタルシスはなく、鑑賞後感もかなり悪いです。
何より不満なのは、タイトルが『ゴーストライター』であるのに、主人公ゴーストはプロのゴーストライターとしての仕事をほとんどしていないってこと。これなら、別に主人公の職業は、秘書でも執事でも良かったんじゃないのかしらん。ゴーストライターとして元首相の半生をいかに書き綴るかをもっと前面に押し出したストーリーにして、なおかつサスペンスに仕立てて欲しかったなぁ。これじゃある種、パッケージと中身がゼンゼン違う偽装表示みたいなもの。
、、、なんていきなり文句を書いてしまったけど、面白いことは間違いない。出てくる人がみんなクセ者ばかりだし、どうしてゴーストの前任者が水死体になってしまったのか、という鍵になる謎は最後まで引っ張ってくれるし、小道具の出し方も観客の興味を引っ張るのに成功していると思う。やはりポランスキーは観客の心を掴むツボを心得た人です。
全体にグレー基調の映像で構成され、何かとんでもないことが背景にあると感じさせられる。小出しにされるネタといい、ラスト近くに一気に謎が解明される緊迫感といい、サスペンスの定石は踏まえられているんですよね、、、いるんだけどね、、、。
見ていて、一番ガクッとなったのは、やはり、政府の要人ともあろう人がゴーストがネット検索ごときでたやすく得た情報を知らなかったことですね。ネットで調べて分かることが重大な秘密にはなり得ないでしょう、、、? ほかにも、前任者が隠した資料を陰謀の首謀者である“あの組織”が見つけることなく放置したままだったり、そもそも前任者の死が殺人だと簡単に見破られる杜撰さだったり、と、国家レベルの陰謀の糸を引く“あの組織”がそんなトンマなことでいいのかよ、と、見ていてドン引きです。謎解きの過程が個人の犯罪レベル並みに非常に軽いのがいただけない。
とはいえ、“あの組織”も実はそんなに精鋭部隊じゃなくて、リアルにかなりトンマだという話も見聞きしますから、もしかしたら、こういうレベルのミステイクはざらにあるのかもしれませんが、、、。意味深に書いたけど、“あの組織”ってのは、作品によって巨悪にも善にも書かれるCIA。ちょっと、ドラマや映画でCIAに対し、過剰なイメージを持ってしまっているのかもしれません。
CIA・・・つまりアメリカに操られる首相、というのが、本作の最大の機密事項なわけですが、それってそんなにものすごい爆弾なんですかねぇ。そんなこと、一般人でも想像していそうなことです。「ありそうだ」と「実際にあった」じゃ、天と地ほど違うとは思いますけれども、、、。
先日もある国のトップが両院議会で歴史的な演説をしたと、ご本人たちは自慢げですが、あれなんかまさしく、、、と思ったのは私だけではないはず。操っているのがCIAかどうか知りませんけど、もっと露骨に操られているのが見え見えです。前から馬鹿だ馬鹿だと思っていましたけど、操る側からすれば馬鹿であればあるほど都合が良いですもんね。
、、、ま、それはともかく、人殺してまで隠蔽しなければならないことには思えません。
それに、そんなに隠蔽したいのなら、自叙伝など出さなければ良いわけで。やっぱり「自叙伝+ゴーストライター」という設定が、間違いじゃないでしょーか。
一説には、ゴーストライターとはユアン・マクレガー演じるゴーストを指すのではない、原作のThe Ghostには違う意味が込められている、というのもあるそうですが、そんな深読みさえ、本作にはあまり意味がない気がします。
本作は、ポランスキーの屈折したアメリカ観があるのかも知れません。ボンドに首相を演じさせているあたり、なんかそういう気配を感じないではない。なによりピアース・ブロスナンは、どうしても首相に見えない、、、。ボンドがチラついたのではなく、なんつーか、軽いというか、知性が感じられないというか、、、。そう、知性のある首相ではダメだったんです、CIAにとっては。だから、この配役なんだよな、きっと。
ラスト、原稿が舞い散る画が素晴らしかった。これぞ映画! っていう映像。なんか、雰囲気だけで味はイマイチなコース料理を食べた後に、見た目も美しいデザート皿が出てきて一瞬でコース料理の印象が吹っ飛んだ、みたいな感じでした。、、、ま、エンドロールでまた、料理の中身を思い出すわけですが。
ラング夫人のルースを演じたオリヴィア・ウィリアムズが素敵でした。カッコイイです、とても。ユアン・マクレガーは、お約束のように全裸になっておられました。また尻かよ、って感じでしたね、残念ながら。
うーん、ポランスキーの監督技にねじ伏せられた感じ。
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