映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

アメイジング・グレイス(2006年)

2015-05-11 | 【あ】



 18世紀、大英帝国の繁栄を支えていた奴隷貿易に、真っ向から異を唱え、執念の活動の末に、遂に奴隷貿易廃止法案を成立させたウィリアム・ウィルバーフォースの物語。

 タイトルの「アメイジング・グレイス」は、奴隷貿易船の船長だったジョン・ニュートンが、牧師となって作詞した讃美歌のこと。この讃美歌、好きなのですが、てっきり、アメリカ南部が発祥かと思っていました、、、。


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 これは、数年前に劇場公開されていて、見に行こうかどうしようか迷っている間に終映となってしまい、BSでオンエアしていたのを録画して1年以上放置していたため、このGWにやっとこさ見たという次第。制作は、06年だったのですねぇ。日本公開までかなりタイムラグがあったのはなぜでしょう。分かりませんが。

 さて、ほとんど期待しないで見たのですが、なかなか素晴らしい作品でした。奴隷貿易廃止にまつわるオハナシということくらいしか知らなかったのですが、讃美歌「アメイジング・グレイス」がかようにして作られたのだと知り、驚きました。本作を見るまで、てっきり、アメリカ原産だと思っておりましたので、、、。

 余談ですが、ジェシー・ノーマンの歌う「アメイジング・グレイス」のCDをたまたま持っているので、久しぶりに聴いてみました。彼女は、ソプラノ歌手ですけれど、この歌は、ソプラノの歌じゃない気がします・・・、何となく。また、本作中で歌われている「アメイジング・グレイス」のメロディと若干違います。作曲者は不明とのことですが、出所については諸説あるようです。まあ、何であれ、非常に美しいメロディで、一度聴いたら忘れられませんよねぇ。意外に歴史が浅い歌だと知り、それも驚きでした。

 信心深く、かつ、信念に基づき行動し続ける高潔な男が、主人公ウィリアム・ウィルバーフォースです。いわゆる貴族階級ではなく、商家の息子とのこと。ヨアン・グリフィズが好演しています。ずっと見ていると、岡田准一に見えてきます。岡田君の顔をちょっと横に広げた感じ。眉間に皺を寄せて苦悩している顔は、髪型も服装もゼンゼン違うのになぜか官兵衛に見えてきます。

 このウィルバーフォースとケンブリッジで同級生だったウィリアム・ピットを、ベネディクト・カンバーバッチが演じています。20代で首相になり、40代で病死するまで、地味ですが、要所要所の大事なシーンに出てきます。この数年の彼の俳優としての飛躍振りが感じられます。

 ウィルバーフォースの妻バーバラを演じるのはロモーラ・ガライ。彼女は、『エンジェル』のインパクトが強すぎて、あんまし良いイメージがなかったのですが、本作では知的で美しい、理想的な妻を嫌味なく自然に演じていて、あら、こんなステキな女性だったのか! と嬉しい発見です。

 何しろ、20年あまりの話を120分弱に収めたわけですから、ストーリー的にはかなり駆け足で、予備知識がないと分かりにくい部分も多いです。かくいう私も、1度見た後、ネットでちらほら調べた後、再見して、ようやく全体が分かった次第。でも、1回見ただけで、ウィルバーフォースとピットの友情、二人の人柄、バーバラの魅力は、十分伝わってきました。

 本作は、奴隷貿易がメインテーマでありながら、奴隷の描写はほとんどありません。実際、当時の英国人は黒人奴隷を実際に目にしたことはほとんどなかった様子。アフリカで買われた奴隷たちは、西インド諸島の砂糖精製農場へ売られるために送られていたのであって、大英帝国本土へ売られてきた訳ではないのでした。だから、英国人たちがその実態を知ることはなかったのも道理です。奴隷商船が時折、リバプールの港に入ってきて、その悪臭に鼻をひん曲げることくらいしかなかったわけです。でもその悪臭を嗅がせるだけで、富裕層の一部には効き目があった。それほど、その悪臭は、奴隷貿易が凄惨極まるものであることを想像させるに難くなかったのです。

 これを機に(というか、ほかにももっと啓蒙活動をウィルバーフォースたちが懸命に行ったからですが)、砂糖を摂取するのを止める人が大勢現れます。現在でも、フェアトレードという言葉が一般化していますが、まあ、それと同じことでしょう。

 でも、奴隷貿易廃止法案は、こんなことではゼンゼン通る気配すらなかったんですよねぇ。

 突破口は、一見、全く関係のない法案を通したことにありました。この突破口を思いついたのは、ウィルバーフォースではなく、彼と共に活動していた弁護士です。やはり、弁護士。策士です。恐らく、この奇策がなければ、法案成立は何年も遅れていたと思います。その奇策とは、、、。

 「アメリカ国旗をつけたフランス貨物船は保護しない」という法案を、通すこと。貨物船を装った奴隷船は海賊よけのためにアメリカ国旗を掲げている、この保護を撤廃すれば貿易は利益が出ないため、船主は船を出さない、というもの。なぜフランス船か、ナポレオン率いるフランスが脅威であったイギリスにとってそれが目くらまし法案のキモ。実際の法案は「一度でもアメリカ国旗を掲げた船」とすればイギリス船も該当し、つまり奴隷船の8割は航行をやめる。ただし、これは、奴隷貿易反対派が出してはダメで、保守派に出させなくては目論見がバレてしまう。一瞬バレそうになりながらも、なんとかこの法案を通したのでした。

 で、しかし、奴隷貿易廃止法案が実際に通ったのは、その2年後、、、。可決されたその議場で、奴隷貿易推進派だった議員2人の会話が印象的です(セリフ正確じゃないです)。
 「これが、ノブレス・オブリージュだ」
 「どういう意味だ」
 「高貴な者が庶民の英知を尊ぶということだ」
はて、これをどう解釈したら良いのでしょう。今、一般的に解釈されている「ノブレス・オブリージュ」とは、「高貴な者には重い義務が伴う」というような意味でしょう。ちょっとニュアンスが違います。本作では、ある種、負け惜しみ的に発せられたセリフなのかも知れません。

 実はこのシーンには伏線があり(と私は解しました)、ウィルバーフォースが39万人の奴隷貿易反対署名を議場で広げるのですが、これに対し、推進派議員が「庶民の意思など無意味だ。統治するのは支配階級だ!」と叫ぶのです。この傲慢なセリフに対する、自問自答がこの会話なのではないか、と。

 それはともかく、脇を固める俳優さんたちも、大御所揃い踏みです。「アメイジング・グレイス」の作詞者ジョン・ニュートンをアルバート・フィニー、奴隷貿易廃止法案に途中から賛成派と転じる議員フォックスをマイケル・ガンボン、ウィルバーフォースと共に活動するトマス・クラークソンを ルーファス・シーウェル。う~ん、豪華。

 こういう歴史絵巻は、冗長になりがちですが、本作は、その辺、なかなか上手くさばいていると思います。予備知識があった方が絶対分かりやすいとは思いますが、、、。
 

 



ラストのウェストミンスター寺院前でのバグパイプによる
「アメイジング・グレイス」演奏シーンがグッとくる




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