映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

おみおくりの作法(2013年)

2015-02-11 | 【お】



 ジョン・メイ、44歳、独身。几帳面で慎重派の男。22年間、役所で、身寄りのない人々の葬儀から埋葬までを、淡々と、しかし、故人に敬意をもって担当して来た。

 が、突然の解雇通告。今、手掛けているビリー・ストークの葬儀と埋葬が終わったら職を離れることに・・・。このビリー、相当の曲者だったらしいが、彼の一人娘ケリーにも接し、どうにかケリーの臨席の約束も取り付けた。これで、最後のお勤めを終えられそうだ・・・。

 と、安心して、いつになく慎重さを欠いた行動に出た途端、、、!!


☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜

 
 昨今、悲劇の象徴みたいに言われる“孤独死”がテーマです。ジョン・メイが扱うのは、例外なく孤独死した人々の、いわば後始末です。ジョンの上司が言うように、「火葬して終わり」でも良いわけです、法的にも倫理的にも。

 でも、ジョンは、故人の人となりや好きだったものなどを遺品から見つけ、手厚く弔うのです。これは、彼の性格でもあり、仕事をする上での信条でもあるのでしょう。本人も、この仕事を「好き」だと言っています。

 彼の仕事は丁寧ですが、それは故人への敬意から来るものであり、孤独死したことへの憐みではないことが、見ていると非常によく伝わってきます。本作に好感が持てる最大の理由はここです。孤独死なんかしちゃって可哀想、という上から目線は、ジョンには一切ありません。

 ただ、彼がクビを言い渡されたのは、その丁寧な仕事ぶりが割に合わないと上司に判断されたからで、まあ、これは人の価値観の違いなので、上司を責めるのも無理があるかも知れません。ジョンは、仕方なく受け入れます。今扱っているビリー・ストークの件が終わったら、という条件付きで。

 で、ビリーのことも、相変わらず根気よく調べます。その過程で、これが最後の仕事ということで、ちょっと気持ちが開放的になったのか、いつもなら飲まない酒を瓶ごとホームレスたちと回し飲みしたり、アイスクリームは食べない主義なのに、配送車から落っこちたハーゲンダッツを食べたりするんだけれど、この辺の描写が可笑しい。劇場でも笑いが起きていました。イギリス独特の雰囲気だと感じました。

 ジョンは、これもやはり最後の仕事だったからでしょう、自分のために購入していた墓地の一区画をビリーの埋葬場所にと譲ってしまいます。そこは、日の良く当たる見晴らしの良い場所。ジョンがそれをビリーに譲ろうとしたのには、ビリーの生きざまをちょっと羨ましく思ったというのもあるでしょうが、ビリーの娘、ケリーに惹かれたのも大きかったと思われます。

 ケリーは、身寄りのない犬(ま、捨て犬ですね)の飼い主を探す仕事をしていまして、ジョンは、ケリーが優しく犬に接している姿を見ています。それでいて、父親ビリーに対する複雑な思いも抱えている。この二面性にグッときちゃったのかも知れません。

 そうして、ケリーも心がほぐれ、ジョンの人柄にも好感を抱き、亡き父親の葬儀に出ようと決意します。彼女はジョンに言います。「お葬式の後、お茶でもしませんか?」

 ジョンは、失業はするけれど、新しい人生の予感を得ます。

 しかし、、、。ここから先は、書けません。書きたくない、という方が近いかな。結論だけ書くと、ジョンも孤独死するのですが。

 ラスト、ジョンが埋葬された後のお墓に、ジョンがこれまで手厚く弔ってきた孤独な霊たちが集って来ます。なんてことないシーンですが、これで、私の涙腺は決壊してしまいました。

 一緒に見に行った映画友に、劇場を出た後「どーだった?」と聞かれたのですが、ラストで大泣きした割には、案外さっぱりしたもので、「ジョンはあれはあれで、幸せな人生だったのではないかと思った」というような感想を話しました。そして、少し時間の経った今も、やっぱりそう思います。

 ジョンは、自分が好きだと思える仕事に携わり、自分が納得するやり方で22年間勤めてきたわけです。確かに、結婚せず家族もいない、傍から見れば“地味で寂しいヤツ”だったかもしれないけれど、人生の幸せ度というのは、傍目から見て計るものではなく、自分の感じ方でしかありません。だから、概ね幸せ、だったのではないでしょうか。

 それに、これは常々思っていたことだけれど、孤独死=不幸、という世間の図式も、ハッキリ言って、孤独死した方々に失礼千万なモノの見方じゃないですかね。独りで死ぬのが、そんなに悲惨なことでしょうか。こんだけの長寿社会、生涯独身率もどんどん上がっていく社会で、孤独死なんて、日常茶飯事になるのは目に見えています。

 それは、誰かに見とられる死に方がこれまでは多数派だったから、孤独死=不幸、に映るだけで、孤独死が当たり前になったらそんなもんか、ってとこでしょう。それに、多くの人に囲まれて死んだって、死ぬ人はたった独りで旅立つことに変わりありません。

 孤独死の最大の問題は、遺体が長期にせよ短期にせよ放置されるところにあるのであって、亡くなり方の不幸度の問題ではないはずです。そんなことは、他人はもとより、たとえ縁者であっても知る由もないことです。孤独死という一側面だけを見て、故人の人生を周囲が勝手に評価するな、と言いたいですね。

 ジョン・メイも、孤独死だったけれども、充実した人生だったことでしょう。少なくとも、そういう描写でした。地味ぃ~な逸品です。

 イチャモンをつけるとすれば、この邦題ですね。沢木も新聞で書いていたけれど、私も、最初に本作の予告編を何かで見た際、やっぱり『おくりびと』が頭に浮かびましたもん。これはセンスが悪い。

 ジョン・メイを演じていたエディ・マーサンは、44歳の役にしては若干老けている気がするけれど、実にイイ味を出していました。監督さんが彼に当て書きしたというだけあって、まさにピッタリの配役。また、ケリーを演じていたのは、ドラマ「ダウントン・アビー」でメイドを演じているジョアンヌ・フロガット。彼女も地味ながら、知的な美人です。適役でした。




どんな死に方しても、こんな風に葬ってもらえたら、人生すべて◎と思える




  ★★ランキング参加中★★
クリックしていただけると嬉しいです♪

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 狩人と犬、最後の旅(2004年) | トップ | イリュージョニスト(2010年) »

コメントを投稿

【お】」カテゴリの最新記事