作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv84545/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
息子が起こした死亡交通事故の罪を被り、刑務所に収監される裕福な家庭の父親。やがて刑期を終えると、その帰還を祝う宴の準備が進められる。
収監されている間、妻と息子は、協力して家族と家計を守り、亡くなった男の妻子を引き取り、使用人として面倒を見ていた。
しかし、宴の日が近づくにつれ、後ろめたさと悲しみが再び湧き上がり、“失った者”と“失わせた者”の間の平穏はかき乱されていく……。
=====ここまで。
舞台はフィリピン、制作は香港。監督は「ローサは密告された」のブリランテ・メンドーサ。
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今月1日から公開されて、角川シネマ有楽町では、先週既に終映。見たいなぁと思いながら、あっという間に終映の告知が。早稲田に来るかも、、、? とも思ったけど、こればっかりは分からない。パンフもないような映画だと早稲田でも上映しないこともあるし。
というわけで、終映日に滑り込みセーフで見に行きました。最終日なのに、劇場には10人くらいしか入っておらず、、、。
~~以下、ネタバレしておりますのでよろしくお願いします。~~
◆2つ作られたラスト
「ローサは密告された」も見たかったのに見逃したんだが、見に行った友人はなかなか良かったと言っていた。「ローサ~」は社会派というか、麻薬の密売を扱った問題作だというので、本作も、最初はそれ系の映画なのかと思っていた。
が、新聞で評が載っていて、どうやらそうじゃないらしい、、、。もちろん、新聞だからネタバレはしていないのだが、「ローサ~」とはちょっと方向性が違うことは確かなようだった。それで、却って見たいと思ったのだ。
上記のあらすじにもあるとおり、夫を殺された(というかひき逃げされた)女性は、金持ち加害者家族の使用人となるのだが、「帰還を祝う宴」が粛々と進む様子が描かれて、ジ・エンドなのである。
で、多くの観客は、ええ~~!? と肩透かしを喰らうようなのだが、私は前述のとおり予備情報があったので、やっぱりそうだったか、、、という感じだった。
監督自身が、本作のテーマを“赦し”であると言っているので(詳しく読みたい方はこちら)、このラストシーンは、夫を亡くした女性(被害者)が淡々と加害者家族に給仕をしながら、その現実と加害者への複雑な思いと向き合いながら、赦しとは何か、、、を見ている者に問いかける、ということなんだろう。
けれど、私はそのシーンが映るスクリーンを見ながら、これはなかなかにグロテスクな描写だと思っていた。
実は、本作はラストが2パターン作られ、フィリピンで公開されたのと、日本で公開されたのでは結末が異なるらしい。フィリピン版は、被害者が加害者家族の食べる料理に毒を盛って復讐するのだそう。実際、ネットの感想を拾い読みすると、そういう“凄惨な復讐シーン”がラストで展開されるのを予期していた人も少なくない様で、つまり、それくらい、被害者と加害者が同じテーブルを囲み(被害者家族は食さないが)和やかな一時を過ごすことの“あり得なさ”がそこに展開されているのだ。
客観的に見ればハラハラするようなシチュエーションを、加害者家族は何も疑問に思わず幸せそうに満喫しているのである。これを禍々しいと言わずして何だと言うのだ。邦題のとおり、まさしく“狂”宴である。
正直なところ、私は、本作が“赦し”がテーマの映画だとは感じなかったし、今もその印象は変わらない。
加害者と被害者の圧倒的な経済格差が、その立場を有耶無耶にしてしまう。加害者家族は、自己中ではあるけど根っからの悪人ではなく、札びらで被害者たちを強引に黙らせることはしない。けれども、結果的にはそれと同じことになっている、、、というのがグロテスクなのである。被害者たちにとっては、赦す赦さない以前に、食うか食えないか問題なのだ。食うに困らない生活が約束されることの圧倒的な重みに、映画を見ている私の方が圧し潰される。いっそ、札びらで被害者の顔を撫でるくらいのえげつなさの方が見ている方は救われる。
ネットには、加害者に雇われる被害者、という構図について「あり得ない!」「考えられない!」と拒絶感を示す感想文も結構あったけれど、人間はそんなに理屈で計れるほど単純な生き物じゃないと思うよ? そんな感想を書いている人の中には、肩書が映画監督という人もいて、そっちの方が「あり得ない!」と私には思えたんですが。
◆加害者目線
交通事故を起こした本人の身代りに服役する、、、って話で、前に見たトルコの映画「スリー・モンキーズ」(2008)を思い出したけど、だいぶ雰囲気は違う。あちらは、金持ちがお抱えドライバーを金で身代りに仕立てるのだが、本作は、父親が息子の将来を思って自ら身代りになる。
身代りで出頭って、日本でも交通事故では時々あるらしいが、まあほぼバレるよね。この親子の場合、事故現場で父親が咄嗟に運転を代わって、血の海に倒れている被害者を尻目に走り去った、れっきとしたひき逃げなんだが、この父親の冷静さが見ていて非常に嫌な気持ちになった。しかも、その後、洗車までしていて、店員に「血痕か?」と聞かれると「野良犬にぶつかった」なんて言う。日本だったら、かなりの悪質なひき逃げ犯になると思われる。
刑務所の中は、めっちゃユルくて、下手すると楽しそうにさえ見える。父親はこれみよがしに聖書の朗読会なんぞを開いて、貧しく学のなさそうな他の囚人たちに上から目線で講義する有様。フィリピンの刑務所がユルいという話はよく聞くし、日本の組織犯罪にも利用されているらしいので、割と実態に近い描写なんだろう。
本作は、加害者家族目線で描かれている。被害者家族についての描写はあまりなく、加害者家族の事情は、パズルのピースみたいに断片的にあれこれ描かれる。
この事故を起こした本人である息子・ラファエルには幼い子供がおり、face timeでときどき話していて、ラファエルの母親も嬉しそうに孫とスマホで話しているのだが、どうもその子は外国にいるらしい。この辺りの描写がイマイチ??なのであるが、終盤、実はラファエルは離婚していて、子供は元妻が育てていることが分かる。
で、そのちょっと前に、被害者の女性・ニタに対して、ラファエルの母親が「実は私はここの従業員だった。バツイチだったあの人と恋愛関係になって結婚しラファエルを授かった」という馴れ初めを話すシーンがある。
なので、ラファエルがバツイチと分かったとき、私は、まさか、加害者本人と被害者遺族が再婚するんか?? げげっ、グロすぎ、、、と思ったのだったが、さすがにそういう展開にはならなかった。世界のどこかではそういうこともあるんだろうが、フィクションでもあんまし見たい映像ではないわね。
加害者家族は、悪人たちではないのだが、どうも好ましい人たちとも言い難い。けれども、そんな人たちを心の底から憎めないニタの境遇や心理を想像すると、辛い。人間、激しく怒ったり憎んだりする方がある意味健全な状況ってあると思う。ニタの置かれた状況はその典型。そういう感情が不完全燃焼の場合、結局、本人が病んでしまうのではないかと心配になる。
ニタにとっては、あのエンディングの“狂宴”が終わってからが、本当の意味での葛藤の始まりなんではないか。その宴の準備中に、ラファエルから「実は父は身代りで、ダンナさんを轢き殺したのは自分だ」とニタは告白されている。その場では、ラファエルを抱きしめたニタだったけれど、あれで“赦した”ことにはならんだろう、さすがに。
それでもやっぱり、食えるか食えないか問題に収れんされていくのだろうな、、、という気もするが。
……そんなわけで、どうしても私には本作のテーマは“赦し”には思えないのであります。
出て来る料理がどれもとっても美味しそう、、、。
で、この記事と全っ然、関係ないのですが、すねこすりさんの『戦場のピアニスト 4Kデジタルリマスター版』の記事に、またコメントを書きました。見落とされちゃうかもなんて思ったので…(涙目)
古い記事でもコメントをいただければお知らせが来るようになっているので、大丈夫です♪
ありがとうございます(*^-^*)
さきほど、レス書きました。
ちょっと長くなってしまいましたが、、すみません。
お読みいただければ嬉しいです☆