悲惨な災害・事故、テロが相次ぐなか、残された者に託された使命を描いたアニメ映画『ルックバック』【高間智生氏寄稿】
2024.07.06(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 人生を変える"貴人"との出会い
- 努力する生き方にかけることの素晴らしさ
- 残された者に託された使命の自覚
多くのアニメーターが犠牲となった京都アニメーション放火事件(2019年)。前途有望な若者たちが、いわれのない悪意によって突然命を絶たれた。この大量殺害事件に衝撃を受けた漫画家・藤本タツキ氏が追悼のために描いた漫画「ルックバック」がアニメーション映画化された。全編に流れる追悼と鎮魂の思い、そして、託された未来を背負って生きていく、残された者の姿が深く胸を打つ。
学年新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメイトからも称賛されている小学4年生の藤野。そんなある日、先生から、同学年の不登校の生徒・京本の描いた4コマ漫画を新聞に載せたいと告げられる。自分の才能に自信を抱く藤野と、引きこもりで学校にも来られない京本。正反対な2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていく。しかし、ある時、すべてを打ち砕く出来事が起こる──。
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版: 破」や「君たちはどう生きるか」などさまざまな話題のアニメに携わってきた、アニメーション監督でアニメーターの押山清高が、監督・脚本・キャラクターデザインを手がけた。
人生を変える貴人との出会い
東北地方ののどかな農村地帯に住む藤野は、漫画が得意な女の子。毎週、学年新聞に掲載している4コマ漫画が人気となり、多くの人の賞賛を受け、楽しみにされていた。しかし、小学4年生の時に不登校の同級生・京本と、一緒に漫画を掲載することになる。藤野の漫画とは全くレベルの違う、京本の正確な情景描写に藤野は圧倒される。何とか京本を越えようと藤野は前にも増して漫画に打ち込み、友達との交流も断ち、鬼気迫る思いで自分を追い込んでいく。美しい田園風景の中で、すべてを投げ捨ててスケッチブックに向かい、ただひたすらにデッサンを続け、努力に努力を重ねる藤野の姿が、何とも美しい。
しかし1年後、藤野と京本の力量の差はさらに広がっており、打ちのめされた藤野は漫画を描くことをやめてしまう。そして卒業式の時、担任から京本の自宅に卒業証書を持っていくよう命じられた藤野は、初めて京本と対面を果たす。そして、彼女から藤野の漫画のファンだったことを打ち明けられる。
2人は急速に仲良くなり、藤野がネームとストーリー、京本が背景と、役割分担をして共作して漫画を描き始めることになる。2人の共作は中学生の時に大手漫画雑誌で入賞するなど高く評価され、高校3年の時にメジャー週刊漫画誌での連載の打診を受けるまでになる。しかし、京本は美大へ行くことを選択、プロ漫画家の道を歩む藤野と袂を分かつことになる。
いったんは漫画を描くことを止めてしまった藤野を引き戻し、遂にプロ漫画家へと押し上げた京本との出会いは、藤野にとってやはり運命転換の瞬間だったと言えるだろう。
大川隆法・幸福の科学総裁は、人生には自分の運命を好転させてくれるような人(貴人)との出会いがあるとして、次のように語っている。
「貴人とは、自分よりも力のある先輩など、自分を導いてくれる人のことです。そうした人と出会うためには、心を開いていなければだめです。また、素直さも必要です。『幸運の女神、運命の女神の働きかけを素直に受け取ろう』という気持ちが大事なのです。さらに、感謝の心を持った人には運命が開けてきます。運命の転換とはそうしたものです。第一に、ひたむきに求め、期待すること。第二に、謙虚に耳順う心を持つこと。第三に、感謝の心を持つこと。こうした心掛けによって、運命は転換されてくるのです」(『「常勝思考」講義』 幸福の科学刊)。
努力する生き方にかけることの素晴らしさ
藤野と京本の間に、お互いを認め合う、純粋で強い絆が生まれた背景には、ともに練習に練習を重ねる、徹底的な努力家であることが挙げられる。
京本の家を訪れた際、藤野は廊下にうず高く積まれたスケッチブックに圧倒される。京本の正確無比な風景画の背後には、ものすごい練習量が隠されていた。また藤野にも、それに負けないほどの精進を続けてきたという自負があった。天才性や才能に頼ることなく、努力に努力を重ねて、筆一本で頭角を現すことの大切さを描いているところが、このアニメの何とも言えない素晴らしさだ。
大川総裁は著書『青春の原点』において、「努力する生き方に賭けよ」として「『自分自身による創意工夫や発見』『自分を律していく心』『自分を強く、たくましく、勇ましく、育てていく心』、こういうものが、大きな成果を生み、みなさんが、来世で、あの世に還っていくときに、大きな光の塊となるための肥やしになるのです。どうか、それを信じて、努力していただきたい」としている。
残された者に託された使命の自覚
美大に進んだ京本だが、ある日、美大構内で起きた通り魔殺人によって突然命を絶たれてしまう。
そのことをテレビ・ニュースで知った藤野は、急遽、京本の葬儀に参列するべく帰省する。そして、引きこもりだった京本を引っ張り出して世の中に出した自分が彼女を殺したのではないかという自責の念に駆られ、連載中の人気漫画も休載に追い込まれてしまう。
葬式の後、京本の自宅を訪ね、彼女の自室のドアを開けようとした時、藤野は死んだ京本との神秘的な交わりを経験する──。その中で、藤野は、京本にとって藤野と過ごした漫画づくり日々こそが宝物であり、藤野を恨む気持ちなど何もないということを魂で感じ取る。
そして「何のために書くのか」ということに答えが見つけられずにいた自分には、道半ばにして命を奪われた京本の分まで漫画を描く使命があることを自覚する。茫然自失となり、連載漫画を描く動機も失った藤野が、亡き京本の念いを受け取り、立ち上がっていく姿が神秘的でかつ美しい。
また、背後に流れる讃美歌を思わせる音楽(「Light song」by haruka nakamura 歌唱: urara)も、追悼という映画のモチーフにマッチしたものになっていた。
命を絶たれた者の思いを受けて、この地上にいる者たちがもう一段の気概を持ち、努力に努力を重ねる人生を生きていくことで、より素晴らしい創作物を作り出し、この世界により良きインパクトを与えることが必要なのだという原作者・藤本タツキ氏の思いが、わずか一時間弱の作品中で、見事に映像化されたことに感動を覚えずにはいられない。
映画館を埋め尽くした観客からは、すすり泣く声も聞こえた。ひたすらに努力する人生を打ち出すことで、努力しない者の嫉妬や悪意を打ち消そうとする映画のメッセージに希望と勇気を感じた人も多いのではないだろうか。本作は、悲惨な事故やテロ、災害が相次ぐ中で、残された者に託された使命を描いた作品として、まれに見る傑作と言ってもよいだろう。
『ルックバック』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:押山清高 原作:藤本タツキ
- 【キャスト】
- 出演:河合優実 吉田美月喜ほか
- 【配給等】
- 配給:エイベックス・ピクチャーズ
- 【その他】
- 2024年製作 | 58分 | 日本
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