ファシスト政権下のイタリア海軍に息づいていた"武士道精神"を描いた潜水艦映画 『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』【高間智生氏寄稿】
2024.07.13(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 「正しく生きる」ということの、人間にとって普遍的な尊さ
- トーダロ艦長が実践していたヨガや瞑想の力
- ファシズム下のイタリア海軍を誇り高く描くことの意義
第二次大戦中、イタリア海軍サルヴァトーレ・トーダロ艦長に率いられた潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが、沈めた敵国船の乗組員を救助したという実話を基に、極限下においても決して失われることのなかった海の男たちの誇りを描いた重厚な戦争秘話。「ファシストである前に、人間であり、海の男であり、イタリア人である」──。その不屈の信念によって、危険を背負いつつも果敢に任務を遂行したトーダロ艦長の生き様が、潔く、また美しい。
監督は本作で2度目のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたエドアルド・デ・アンジェリス。名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノが、毅然とした海の男サルヴァトーレ・トーダロ艦長を重々しく演じる。
「正しく生きる」ということの、人間にとって普遍的な尊さ
敵国船を撃沈し、海に放り出された乗組員たちを一旦は見捨てて先を急いだイタリア海軍潜水艦コマンダンテだが、艦長のサルヴァトーレ・トーダロは、放置すれば死んでいくであろう相手方乗組員を見捨てることは、海の男としてできないと考え、戻ってきて救助する。これは、実話に基づくということだが、トーダロ艦長が、海の男として、人間として、誇り高きイタリア人として、「自分は、今ふさわしいことをしているのか」という観点から自らの行動振り返り、「正しさを忘れない」姿勢を貫いているところに新鮮な驚きを感じる。
そしてこの救助行為によって、今度は潜水艦コマンダンテ自体が九死に一生を得ることになる。イギリス艦隊と遭遇するのだが、"救助活動中"であるという理由により、安全航行を保障されるのだ。
アンジェリス監督は、このトーダロ艦長を描いた理由について次のように語っている。「彼は強い男だ。彼は強固な敵国船に恐れをなさず無慈悲に沈めるが、無防備な敵はすでに敵ではなく、ただの人間であり、ゆえにそれを助ける。なぜなら真に強い者というのは弱き者に手を差し伸べられる者であるからだ」(パンフレットより)。
こうした「正しく生きる」ということは、日本の武士道精神にも通じるだろう。最近発刊された大川隆法・幸福の科学総裁の最新刊『地球を包む愛』には、約3万年前に富士山付近に降臨し、武士道精神を説いた天御祖神(詳細は関連記事参照)の根本思想が次のように述べられている。
「『神の子・仏の子としての人間、神の子の人間として生きるということは、正しく生きるということである』ということです。これが大事な柱でした。ただこの世に生存すればよいということではないのだということです。食料を得て、この地上に生きればよいのだということではないのです。『正しく生きよ』と言ったのです。ですから、『正しく生きるとは何か』を考えることが、人間としての自己の探究であったわけです」
トーダロ艦長が実践していたヨガや瞑想の力
映画中には、トーダロ艦長が潜水艦任務の最中にも、自室で瞑想やヨガなどの宗教的修行を実践しているところが描かれている。彼は「カトリック教徒ではあるものの、異なる宗教にも興味を持っており、ヨガやオカルト、心霊にも造詣があり、それらを任務の際も実践していた。いくつかの場面で潜水艦を沈没から守るために突如として超人的な洞察力を発揮することから、コマンダンテ・カッペリーニの乗員からは魔術師バクと呼ばれていた」(パンフレットのバイオグラフィーノートより)という。
おそらくは、こうした宗教的修行の積み重ねにより、一見不利に見える道義的行為が、神の心に叶い、恩寵を受けることを心の底から信じていたのだろう。実際に、同潜水艦は、救助した敵国船の乗組員やその家族から航行の安全を祈られ、第二次世界大戦を無事に生き延びたのだ。1943年にイタリアが降伏すると日本軍によって拿捕され、その後ドイツ軍に引き渡されて「UIT24」と改名。さらにドイツ降伏後には再び日本軍に接収され「伊号第五百三潜水艦」として特殊警備潜水艦となり終戦を迎えたのである。
ファシズム下のイタリア海軍を誇り高く描くことの意義
この映画の大変興味深い点は、ファシズム下のイタリア海軍が、"全体主義者"としてではなく、道義的側面も積極的に評価するように描かれている点である。このことについて映画評論家の瀬戸川宗太氏は、欧州全体での「新しい戦争映画の潮流」であるとして次のように指摘している。
「リアリズムへのこだわりは、(中略)ハリウッドがいまだに制作し続けているような型どおりの『反ナチ映画』は、現在ほとんどつくられていない。欧州全体を俯瞰しても明らかなように、それぞれの国には独自の第二次世界大戦の歴史があり、これまでのように反ナチブロパガンダ映画を制作していれば済む時代ではなくなった」(「Voice」8月号より)。
翻って日本はどうだろうか。普遍的な正義や正しさを常に自らに問いかけながら"大東亜戦争"を戦った日本軍将官たちのことが、現代日本映画でどれだけ取り上げられているだろうか? 思い出されるのは、"ハリウッド映画"であるクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』で描かれた栗林忠道・小笠原兵団長ぐらいではないかという気がしてしまう。
しかし、ペリリュー島での戦いを指揮した守備隊長の中川州男大佐は、大川総裁の霊言において次のように語っている。
「やっぱり、人はねえ、憎しみでもっては戦えないよ。やっぱり、愛のために戦うのであってねえ、憎しみでアメリカ人を殺せないよ。だから、『祖国への愛』、それから、『家族への愛』、『同胞を守る』ということのために戦うんだな(小さくうなずきながら、かみしめるように口を結び、涙ぐむ)。憎しみでは戦えない。憎しみだけでは戦えないねえ」(『パラオ諸島ペリリュー島守備隊長中川州男大佐の霊言』所収)
我々日本人は、中国大陸、東南アジア、ペリリュー島、硫黄島、沖縄などで徹底抗戦を繰り広げ、祖国と家族を護り、人種差別撤廃のために一命を投げ出した誇り高き"武士(もののふ)"たちへの感謝を忘れてはならないだろう。その意味で、大東亜戦争の中にも確実に存在した"真の武士道精神"を描いた、新たな戦争映画が切望される。それは、本当の意味での鎮魂となり、供養ともなるだろう。終戦記念日を前にして、これまで"ファシスト"と一律に片付けられてきたイタリア軍将官の「誇り高き決断」を描いた本作は一見の価値のあるものだ。
『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:エドアルド・デ・アンジェリス
- 【キャスト】
- 出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノほか
- 【配給等】
- 配給:彩プロ
- 【その他】
- 2023年製作 | イタリア・ベルギー合作 | 121分