前回のグローバル工場---機能の階層(2)の続き。
工場機能の階層図
出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010
2)取引先情報
はじめに「情報」の意味を説明する。ここで説明する取引先情報の情報は、コンピューター上の「テーブル」や「マスターファイル」を意味する。たとえば、エクセル(Excel)のテーブル、サーバーや汎用コンピューターのマスターファイルとデータベースなども情報と呼び話を進める。
取引先の情報をグローバルに通用させる場合は、英語を標準語、日本語、西欧諸語、タイ語などを現地語とする。すでに前回の2)多言語データベースで日本語化の方法を説明したが、同じ方法で次のデータ項目を英語と日本語で登録する。
取引先名称、敬称、住所、担当者名、敬称、役職、部門、取引銀行名、支店名、口座種別、名義
注1:敬称と口座種別は多言語コード表で対応すれば、日本語の入力は不要
注2:英語と日本語の名称はそれぞれ名称1、2、3に分けて入力:多言語データベース参照
注3:英語と日本語の住所はそれぞれ住所1、2、3に分けて入力
日本語化する取引先のデータ項目は以上のとおりである。同様にタイの取引先をこのデータベースに登録する場合は、名称~名義までのデータ項目は英語とタイ語(現地語)で入力する。
次に、取引先を顧客と仕入先に分けて説明する。もし顧客であると同時に仕入先の場合は、必要な情報を顧客情報と仕入先情報に登録する(顧客コードと仕入先コードは同じ)。さらに、顧客の配送先(配送センターやエンドユーザーなど)も顧客情報に登録する。
A.顧客情報
製品にもよるが、エンドユーザーに販売した製品のアフターケアが必要な場合がある。たとえば、大規模な機械設備、輸送用機器、ソフトウェアはアフターケアが必要になる。製品のアフターケアとして、エンドユーザー(個人または法人)をサポートするために、専用のデータベースとアプリケーションを開発する。たとえば、ソフトウェア製品の顧客サポートシステムを要約すると次のようになる。
先ず、エンドユーザーに出荷した製品とその製造番号を出荷システムから受取る。販売店に出荷した場合は、販売店がエンドユーザーに出荷した時点で、その情報を顧客サポートシステムに引渡す。
全世界のエンドユーザー(数十万件)が購入した製品と製造番号を一つのデータベースで管理する。その管理内容は、販売したソフトのバージョンアップ(Upgrade)情報をエンドユーザーに通知する。エンドユーザーが希望するとき、その改訂版を出荷システムから発送する。また、電話やE-mailでの問合せにも対応する。当然であるが、このデータベースは個人情報を記録しているのでデータの機密保護には十分な対策が必要になる。
以上、顧客サポートシステムの概要を説明した。他にもマーケット分析システムなど、さまざまなシステムが顧客情報から派生する。
B.仕入先情報
仕入先は、直接材料と間接材料に分けて管理する。直接材料の仕入先には加工外注先を含めて管理する。他方、間接材料の仕入先には工場内の工事や清掃を依頼する会社も含めるので、仕入先の数は多くなる。ここでは直接材料の仕入先に限って説明する。
直接材料の仕入先情報は、レベル1の購買管理に必要な情報である。この情報は、直接材料を広く国内外の業者に発注、納入品の受入検査、代金の支払に使用するデータである。言い換えれば、仕入先情報は、グローバルなサプライチェーンの基礎データである。この意味で、仕入先情報はグローバルデータベースに登録すべきデータである。
仕入先の納期と品質に関する実績データおよび金型や治工具の支給履歴は、それぞれ別々のデータベースで管理する。これらのデータベースは、各工場が管理すべき情報である。
3)品目情報
品目情報は、直接材料、仕掛品、完成品(製品)、補修部品(サービスパーツ)および参照品(治具や金型など)を一元的に管理するテーブルである。量産品と受注生産品の品目が混在しても問題はない。一般論であるが、品目情報で多言語化が必要なデータ項目は品目名称だけ、他のデータ項目は英数字記号で表現できる。もし、品目名称を英数字記号だけにすると、品目情報の多言語化は必要ない。ただし、画面は多言語に対応する。
品目情報の主な内容は、共通情報(品目コード、名称、計量単位など)、技術情報(図面や改訂情報など)、生産管理情報(生産リードタイムやロットサイズなど)、在庫管理情報(在庫管理の要不要など)、購買情報(手配リードタイムや発注単位など)および原価情報(標準原価と実際原価)である。
直接材料の購入単価は仕入先別材料テーブルに登録、完成品(製品)の販売価格は顧客別製品テーブルに記録する。当然であるが、購入単価や販売価格には現地通貨で表示する。
工場や製品開発部門を戦略的に世界各地に分散する場合、品目テーブルは本社で一元的に管理すべきである。この本社での一元管理には、次のような取決めが必要である。
◇ローカル品目を設定、たとえば品目コード頭1桁=9を設定、この品目の管理は各国の工場に任せ
て、本社は関与しない。
例:現地工場だけで使用する材料と製品、現地営業所などの限定販促品(キャンペーン品)など
◇品目データのメンテナンスは、数日以内で完了し、世界各地の事業所にリリースする。
例:本社に申請した特別価格は2営業日以内に承認(オンラインデータベースの場合)
注意:最新情報のリリースに要する時間は、システムのオンライン化以前に本社の事務処理の効率
化で大きく短縮できる。
4)BOM(製造部品表/材料表)
専門語で説明したが、BOMはレベル2の生産計画(MRP)とレベル3の原価計算に必要な情報である。BOMに存在する直接材料や部品(仕掛品)や製品は、必ず品目テーブルに存在しなければならない。この意味で品目テーブルとBOMは一対の情報である。BOMは品目情報と共に本社で管理すべき情報である。
なお、BOMは親品目(コード)と子品目(コード)と子品目の必要数量を定義するテーブルである。このため、BOMには多言語化すべきデータ項目ない。
5)工程順序情報
たとえば、ある電子部品の最終検査工程が、目視検査⇒電気特性検査⇒耐熱検査だったとする。この目視、電気特性、耐熱の3つの検査を検査工程の順序、つまり工程順序という。この検査工程に、1000個の電子部品を投入して、初工程の目視で3個がNG(不合格)、電気特性で10個がNG、耐熱で2個がNG、NGは合計15個、合格品は985個となる。もちろん、15個のNG品にはDefect Code(不良品コード)を付けて原因を明らかにする。
各工程の作業内容は、作業指示書(Manufacturing Instruction)に部品のカラー写真を付けて、各部の作業内容とチェックポイントを現地語で説明する。
工程順序テーブルはレベル2の工程管理に必要な情報である。この工程順序テーブルから直接労務費と金型・治工具費を積算し、品目テーブルの原価データに記録する。このため、レベル3の原価計算には品目テーブルとBOMが必要だが、工程順序テーブルは不要である。
稼働中の機械設備が故障した、あるいは生産計画の結果で1台の機械の生産能力を超えるといったトラブルが発生する。このとき、即座に代替の機械や作業の外注で対処することが大切である。大規模なトラブルでは、代替工程を海外のグループ工場に求めることもある。
予期せぬトラブルに直面しても、常に工場の安定稼動をはかる。このために、工程負荷の平準化と生産のスケジューリングはどこの工場にとっても大きな関心事である。余談になるが、2000年初頭からソフト業界がこぞって売り出した「スケジューリングシステム」が日本で話題になった。
当時、画期的なシステムとの触れ込みで、スケジューリングシステムは高価で緻密なパッケージソフトだった。しかし、実際には高度過ぎて使い勝手に問題とのこと、筆者は導入例を聞くが成功事例を耳にしたことがなかった。なぜ、成功例が話題にならないのかと疑問をもった。
余談になるが、2003年秋に筆者は、アメリカのある大学で「スケジューリング」の講座を見つけた。早速、E-mailで聴講(Auditing)を申込んだ。3日後に「More than welcome(大いに歓迎)」との返信を得て、早速、大学直営のホテルを手配した(大学のホテル・レストラン管理学部直営のキャンパス内のヒルトン)。
開講直前に残念ならが「実績に疑問があるトピック(主題)のため開講は中止」になった。しかし、折角のチャンス、「スケジューリング」を「Computer Aided Manufacturing」に変えて、他の講座と合わせて合計5講座、2ヶ月間、フルタイム(Full-time)の聴講を無料で終えて帰国した。
筆者の知る範囲だが、アメリカの大学では、机に空きがありかつ講座の先生の許可があれば四年制/大学院を問わず聴講可能、学歴不問、65歳以上は無料、ただし大学により州内居住者の65歳以上に限り無料とか条件は異なる。私大は不明。市民と大学の距離は短く、この制度もアメリカらしくおもしろい。「門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう(Knock, and the door will be opened)」(7-7、マタイによる福音書、新約聖書、Matthew, Oxford/Cambridge Press, 1970)
以上、余談を交えてレベル0の生産基礎情報をグローバル化の観点で説明した。
この生産基礎情報はコンピューターのハードとソフトに依存している。この意味でレベル0を支えるシステムに求められる要件は次のとおりである。
◇システム障害の回復手順とバックアップ体制
例:本社IT部門が中心になって現場を指導、時には現場への人的支援を実施(アメリカ)
◇自然災害への対策
例:コンピューターのオペレーションを山奥の岩盤上の専門会社に委託(アメリカ)
次回は、レベル1の購買、在庫、受注管理の説明に続く。