1.工場機能の階層構造
前回のビジネスモデルを機能別に展開すると、下に示すピラミッド型の階層図になる。この階層図は理論的な機能構造を示すと同時に、その運用には経営戦略が必要になる。
今回は、このピラミッドのレベル間の理論的な関係、グローバル戦略とタイの日系工場でよく見る失敗例を支障のない程度に交えて、各レベルの内容を説明する。
先ず、階層図に出てくる専門語とコンピューター用語を簡単に説明する。
(1)専門語の説明
1)部品表:BOM(Bill of Material)
機械や家具、衣服を製造するメーカーには、設計図面表(Engineering Bill of Material:略称Eng. BOM)と製造部品表(Manufacturing Bill of Material:略称Mfg. BOM)が存在する。
データベースの観点でEng. BOMとMfg. BOMが関係する製造販売会社の組織機能を概観すると次のような関係がある。
1.Eng. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
主な関係部門(例)=R&D(研究開発)、製品開発、技術管理、品質管理
2.製品試作を完了したとき、Eng. BOMをMfg. BOMに変換、製品製造を開始する。
変換作業部門(例)=生産技術、購買、開発部門&製造工場、原価管理
3.Mfg. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
主な関係部門(例)=生産管理、生産技術、製造工場、購買、営業、品管、顧客管理、会計/原価
なお参考だが、量産品のEng. BOMとMfg. BOMを一体化する生産設計BOM(技術/製造/共通BOM)を構築する動きもあった。しかし当時の処理能力には無理があった。
ここではMfg. BOM(部品表)に焦点を合わせて説明するが、以下の説明ではMfg. BOMのMfg.を省略して、製造部品表をBOMと略称する。
なお参考だが、設計図面表の図面は設計図面(単品図面や組立図)、製造部品表の図面は製造図面(加工図や組立図や検査用カラー写真など)である。それらの図面は製図板(drawing board)で手書きした正面図、側面図、平面図(品物を真上から見た設計図面の呼称)などであり、個々の図面は試作から販売打切りまでの(設計)改訂履歴を記した膨大な紙情報だった。
しかし、1980年代には図面(紙)情報のデジタル化(当時のCAD/CADAMキャド/キャダム:Computer-aided Design/Manufacturing)が進み始めた。このデジタル化で紙に書かれた平面図(2次元データ)は立体図(3次元データ)に進化、x-y-z軸(3次元=立体)にt軸(時間)が加わり動画になった。
3次元データの活用例は、NC工作機(Numerical Control Machining)や3Dプリンター(3-dimensional Printer: x-y-z軸=3次元)による部品の自動作成、部品の強度/振動解析や各種シミュレーションなどである。「3次元データ⇒NC工作機⇒試作品」の流れは製品開発期間とコストを削減したが、特に期間短縮の効果は大きかった。試作の目的(外観/形状/強度/手触り評価など)にもよるが、月単位が日単位の話しになった。
製造部品表は外国ではBOM、日本ではBOM、材料表、製品構成表、まれにレシピ(フランス語:工場では金属部品の脱脂液などの成分表を意味する)などとさまざまな呼名がある。
部品表は、機械製品や衣服などを1個(着)作るために必要な材料や部品の数量をリストにしたものである。このリストでは、製品を親(Parent)、製品に必要な材料や部品を子部品(Component)と名付けて、親子の関係とその必要数量を示している。
次に子部品を親としてその親部品1個を作るために必要な材料や子部品の数量をリストにする。さらに、次々と子部品に展開(分解)して、すべての子部品が材料になるまで展開したものをBOM(部品表)と呼ぶ。
部品表は完成品(Finished Good: FG)ごとに試作段階から作成するので、生産基礎情報の中では件数が多いファイル(データのリスト)になる。
参考だが、たとえば少し複雑な機械製品では、品目数が約100万件(完成品、仕掛品、原材料など、すべての親または子部品を含む)の場合、BOMは約120~130万件(1つの親と子の関係を1件と勘定)程度になる。品目数とBOM数の比が1対1.2~1.3程度になる製品が一般的である。
BOMは、生産計画の資材所要量計算と原価計算に使用する。この計算において、親品目から子部品を辿る計算方法を“部品表展開(BOM Explosion)”という。反対に子部品から親部品を辿る計算方法を“部品表逆展開(BOM Implosion)”という。BOM Explosionの正確な和訳は“部品表正展開”というべきだが、日本では単に“部品表展開”または“部品展開”といっている。
資材所要量計算(主に生産管理部門が担当)や原価計算(主に会計部門が担当)はBOM Explosionで計算する。一方、BOM Implosionは、子部品の設計変更(材質、形状、特性[e.g.電気/耐温/耐圧/…]、色etc.の変更とコスト変更)が親部品に与える影響を調べるときに使用する。BOM Implosionで得られる情報はWhere-used(使用先情報)であり、主に設計、生産管理、営業(カスタマー・サポート)が利用する。BOMの最新版と変更履歴は製造会社と顧客にとって最も大切な情報の一つである。
なお筆者の記憶だが、初期(1960年代)のDBMS(Database Management System:データベース・ソフト)の基本機能はBOM Explosion/Implosionだった。70年代にはオンライン端末機で多数のユーザーが同時に一つのデータベースを利用するために高度な排他制御(Exclusive Access Control)が発達、今日のオンライン・データベースに発展した。なお、旧式のデータベースの排他制御はレコード単位だったが、70年代後半には(レコード内の)データ項目の排他制御が可能になり、データベースは実用に耐える技術に発展した。
MRP(エムアールピー)は資材所要量計画の略称である。日本や諸外国の工場では、略称のMRPで通じる。
MRPは、1960年代後半にアメリカで開発された生産計画の技法である。当時、IBM社が発表したMRPのパッケージソフトは、コンピューターの高速化、BOMのデータベース化、通信技術の発達とともに、欧米の製造業に爆発的に広まった。以来、MRPは生産計画の代表的な技法として世界の製造業に定着している。理路整然としたMRPを超える技法はまだ出ていない。
MRPは、製品の日別生産計画をBOMで材料の所要量に変換し、その加工日程を作成する。
3)利益計画と利益管理(Profit Planning and Management)
工場では、翌年度の販売計画、設備計画、人員計画、経費計画(予算)、為替レート(予測)、製品原価(予測)にもとづいて、利益計画を立案する。
経営陣が利益計画を承認したとき、販売計画や設備投資と経費予算も承認されたことになる。承認された計画と月々の実績を対比し、工場をコントロールすることを利益管理という。
4)連結決算(Consolidated Accounting)
親会社と子会社を一つの企業グループとして決算することをいう。具体的には、各社の財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)を合算して連結財務諸表を作成する。連結決算の会社間に発生する売上と仕入れは相殺される。
日本では、1977年度から連結決算が導入された。83年度からは上場企業については持株比率20%以上の関連会社も連結することになった。詳しくは、会計の専門書を参照されたい。
(2)データベースと文字コード
今回は、生産基礎情報で多言語データベースということばが出てくる。ここでは、データベースに関係する用語を簡単に説明する。
1)コンピューターが取り扱うデータ
コンピューターが取り扱うデータは、数値と文字に分けることができる。
数値は2進数、8進数、10進数、12進数、16進数や整数、実数、虚数など世界共通、しかし文字データは言語によって異なってくる。
文字データ、たとえば、日本語の顧客名に含まれる文字は漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、数字(数値でなく文字)である。
これらの文字は、一つひとつ異なったコードで管理されている。たとえば、A=41、a=61、ア=A7、ア=B1は文字と番号(16進数)を示している。この文字と番号の一覧表を文字コードという。
コンピューターの内部では、さまざまな文字コードが使われている。もちろん、文字コードは互いに重複しないようになっている。主な文字コードは次のとおりである。
◇ASCII=アスキー:アメリカの文字コードで128の英数字、記号、制御文字を設定
◇シフトJIS=日本工業規格の文字コードで漢字、平仮名、片仮名、数字、ローマ字、記号を設定
◇ISO-8859-1=ラテン-1と呼ばれる西欧諸語(フランス語やドイツ語)の文字コード、他にISO-8859-2(中央東欧諸語)、3(南欧諸語)、、、16(ルーマニア語)がある。
◇Unicode=ユニコードは世界の文字を網羅しようとする文字コード。アップル、IBM、マイクロソフトが提唱、ISO(国際標準化機構)が1993年に標準化、現在も文字を追加中、絵文字も含む。
2)多言語データベース
多言語データベースとは、複数の言語から成立つデータベースである。具体的な例として顧客名で説明する。なお、多言語データベースは必然的に多通貨、そのレートは日次管理になる(例:JST11:00更新)。
前提:標準語=英語、現地語(ローカル言語)=日本語と西欧諸語
データベース項目=顧客名1、顧客名2、顧客名3および敬称の4つを定義
◇顧客名1(Cus. Name 1)=英語名(正式な英語名がないときはローマ字で会社名を入力)
◇顧客名2(Cus. Name 2)=日本語名(漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、記号で入力)
ドイツ語やフランス語の顧客名は、西欧諸語(ラテン-1)で入力
◇顧客名3(Cus. Name 3)=振り仮名(片仮名で入力、顧客名の検索とアイウエオ順の表示用)
顧客名が英語、ドイツ語、フランス語の場合は、このデータ項目は空白
◇敬称(Salut.)=敬称:Salutation(このデータ項目も多言語化:日本語では御中、殿、様を漢字で入力)
【参考】
以上、顧客名1、2、3で顧客名の多言語化を説明した。実際に顧客データをデータベース化するときは、たとえば、顧客名1に対応する顧客コード(一般に数字コード)を設定、その顧客コードをプラマリー・キー(Primary Key:主キー)として顧客のデータを登録する。データ項目例;顧客名1、2、3、国コード、住所、種別、業種コード、代表者名、通貨コード、取引銀行、窓口(Contact)、、、500桁程度のデータを登録する。データベースの使用目的にもよるが、住所、代表者名、取引銀行、窓口(担当者名&部門)などの多言語化も要検討。
3)ISOコード(イソ、アイソ、アイエスオー・コード)
JPやJPNは日本を意味する国コード、また、JPYは日本円を意味する通貨コードである。これらのコードは、ISO(International Organization for Standardization) が設定するISOコードである。近年では、多くの日本企業はISOの国コードや通貨コードを利用している。
他方、日本にはJISコード(Japanese Industrial Standards Code)がある。JISはISOと整合性を取っている。しかし、国コードと通貨コードともにJISとISOの一部に違いがあるので要注意である。
工場機能の階層図
出典:筆者著“生産管理の理論と実践”COMM Bangkok、2010
以下、次回の「グローバル工場---機能の階層(2)」に続く。