小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

絶望の中の希望を若者の中に

2020年09月30日 20時29分08秒 | 政治


勤務する大学で、ゼミを受け持っています。オンライン授業なので、毎週レポートを提出させる形式を採用しました。
秋学期が始まってから第1回目のレポート課題を、次のように出しました。

《あなたが住んでみたい国を一つ挙げ、なぜそう思うのか、その理由を述べなさい。自国でもかまいません。また住みたい国はないというのでもかまいません。その場合でも理由をつけること。字数600字以上。》

これまで、20名のうち、14名の学生から提出がありました。内訳は、日本人学生10名、アジア系留学生4名。
この結果を見ると、留学生の中に2人、日本を挙げた者がいます。
また日本人学生では、日本を挙げた者2名、住みたい国は特にないと答えた者2名。この後者では、やはり、結局は自分の国に住むのがいいという結論でした。
すると、14名中、6名が、住みたい国というイメージを持たず、日本に落ち着きたいと考えていることになります。
理由はだいたいご想像がつくでしょう。治安の良さ、暮らしの便利さ(たとえば自販機やコンビニの整備)、人々の礼儀正しさや親切さ、災害時の秩序を守る態度など。日本は世界の中でも特殊だと、的確な指摘をする学生もいました。なかなかすぐれたレポートでした。
留学生で、日本をべた褒めしている子がいるので、その子には、もう少し日本の悪いところも見てほしいと講評しておきました。しかしいずれにしても、日本の学生も含めて、彼らの指摘する日本の長所が、客観的に見ても的を射ていることは確かです。
「暮らしやすさ」という観点に関する限り、複雑な問題を抱える諸外国から見たら、日本はまだまだ「天国」のように映っているといっても過言ではありません。
もちろん、日本人のお花畑思考、お人好し、外交力のなさ、主体性のなさ、グローバリズムに侵蝕されている現状、内政のだらしなさとそれによる凋落ぶり、などを講釈する場所ではないので、講評では、そういうたぐいのことには触れませんでした。長所が同時に短所としてあらわれることにもなるというのが現実なのですが。

ところで、そんなに世界情勢を勉強しているはずもないのに、こうした学生たちの素朴な表現には、何となく世界の現状に対する直感が働いているのがうかがわれます。もっとも、サンプル数が少なすぎて、ここから直ちに結論を導き出そうとするのには、慎重を期すべきです。

ひところ、と言ってもそう遠くない過去に、他国と比較して、いまの日本の若者たちが海外に進出していこうとする積極性が欠けていることを指摘する論調が目立ちました。それは実際数字に表れている傾向ですから、間違ってはいないのですが、この傾向を単純に嘆かわしいこととしてとらえるのが正しいかどうかは、また別問題です。
もしかしたら、コロナの疫病としての被害が欧米諸国に比べて極端に少ない原因の一端にも、この「心理的鎖国」がほんのいくらかは関係しているかもしれません。

さて財界、政界、官界、学界の主流は、デフレ脱却、コロナ恐慌回避の大前提をすっかり忘れて、外資歓迎の規制緩和、構造改革路線、中小企業潰し、消費増税促進の空気に沸き立っています。菅政権になってから、その傾向がさらに露骨に出てきました。
政権交代という単なる「儀式」に過ぎないものが、空気をすっかり変えてしまいました。いま自民党の中枢部からは、第三次、第四次補正予算の必要を訴える声が聞こえてきません。今さらながら、「空気」というものの恐ろしさに戦慄します。
代わって、竹中平蔵という売国男がにわかに元気づいて、ベーシックインカム7万円というとんでもない国民殺しの政策を吹聴するかと思えば、デーヴィッド・アトキンソンという不良ガイジンが、菅義偉・無能総理にべったり張り付いて、中小企業360万社を160万社に減らせという日本破壊の音頭を取ろうとしています。その菅政権、支持率何と74%!
一方、党幹事長に留任した二階俊博は、民間の対中国利権の代弁者たるべく、相変わらず習近平閣下の国賓招請を画策している模様。

こうして奈落の底に落ちようとしている日本。
革命が起きてもおかしくない、と思うのは一部少数者だけで、実際にはマスクも取らずに過酷な状況に静かに耐えている大多数の日本人がいるだけです。そんななかで、ほとんどの若者たちは、政治経済はおろか、海外進出への意欲すら示さず、おとなしくバイトにいそしんでいます。

財政破綻危機の大ウソが功を奏して長い長い時が過ぎました。先日、私の親しい友人が、遅まきながら国債の返済不要性と銀行の信用創造の理屈を数人の知人に話してみたところ、だれもが「そんなバカな」と、聞く耳を持たなかったそうです。
この絶望的な状況の中で、私は苦し紛れにこういうことを考える――若者たちの意欲喪失による「心理的鎖国」状態は、ひょっとして、一つの希望をあらわしてはいまいか、と。
つまりこうです。
世代交代が進んで(もちろんいまの政府の中枢を占める売国男どもには引導が渡され)、内向き志向の若者たちが働き盛りの年代になれば、それがかえって内需の拡大にむすびつくのではないか、と。
この心理的鎖国状態をうまく活用すれば、ひょっとして現実的鎖国状態を作りだすことは不可能ではないのではないか、と。
もちろん現実的鎖国状態と言っても、それは程度問題です。
オール・オア・ナッシングがいいとは思いませんし、資源、食糧の安全保障で大きな危機を抱える日本が、他国に依存せずに自給自足経済を維持することなど不可能事中の不可能事です。
しかし、コロナや米中戦争でブロック化しつつある世界経済の現状は、ひょっとして(という言葉をすでに3回使ったのですが)、バランスある半自給自足状態を実現する糸口になるのかもしれません。
もしそうなら、いまの財界、政界、官界、学界に君臨するオヤジどもは、いつまでも新自由主義やグローバリズムのイデオロギーに金縛りになっていて、早晩、古臭いゾンビと化するのではないか。
あと20年後、30年後の日本は、意外と需給関係のバランスがとれた経済社会を実現できている可能性が無きにしも非ずです。
もちろん、そのためには、PB黒字化だの消費増税だの福祉破壊のBIだの中小企業潰しだのといった、日本国消滅の元凶をすべて取り払うべく、私たちが不断の努力を重ねて、若者世代のための露払いを行なっておかなくてはなりませんが。

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1 コメント

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住みたい国 (橋本留治)
2020-10-01 10:19:09
仕事柄もあり、29ヶ国を訪れ、3ヶ国で赴任生活を送りましたが、帰国して感じるのは、住みたい国は日本以外にはありません。経団連のトップを務めた方が社長をしていたころにグローバリズム最盛期を経験しましたが、今の若い人はデフレで給料が上がる期待も少なく気の毒だと思います。しかも、政治的には情けない国になり果てた日本に住みたいと思わない気持ちも理解できます。しかし、一度は外の世界を体験してみれば、日本の素晴らしさが理解できると思います。
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