いますぐ抱きしめたい/ウォン・カーウェイ監督
この監督のデビュー作らしい。出演者はなじみがあって、若いころからずっと一緒にやってきたという事なのかもしれない。低予算だというのは分かるが、非凡な映像世界もあって、さすがだな、というのが分かる。でもまあ、僕が馴染んだカーウェイ監督作品というのも、実際ははるか昔の話であって、古さというのでは、大差ない話なのかもしれないが。
チンピラの男の家に、病院に通う必要のある従妹のマギーが転がり込んでくる。チンピラ・アンディには問題ばかり起こす弟分のジャッキーがいて、そのやらかしたへまの後片付けのような事ばかりしている。それはヤクザ社会の中にあって、見栄もあるが、たいへんに危険を伴うものである。そのアンディには、チンピラ同士のライバル関係にあるトニーとの対立があるようで、そこにジャッキーは火種をどんどん持ち込んでくるような事ばかり繰り返すのだったが……。
元々アンディには彼女はいたが、事実上フラれ傷心に苦しんでいる。そういう中従妹とはいえきれいになった女性が転がり込んでくるので、忙しいながらも気になっていくわけだ。しかしジャッキーが問題ばかり起こすので、マギーもついて行けないという感じで、故郷の島に帰ってしまう。そうしてそこで地元の医者の彼氏ができるのだが……。
いくら弟分とはいえ、ジャッキーは基本的に馬鹿である。見栄を張るためライバルから借金をして首が回らなくなり、兄貴のアンディに助けてもらうが、その恩を返そうともしない。そうして更に抗争に火をつけるようなへまをやらかす。普通なら死んでいるが、助けるためにアンディは、さらに無茶をして相手を怒らせることになる。こうなると、ちょっと手が付けられないな、という感じにまでなってしまうが、さらにジャッキーは一発逆転を狙う無謀な賭けに出るのだった。
まあ悲劇だと言ってもいいのだが、こんなになるんだったら、最初から自分でやってもいい問題もあったのではなかろうか。ここまで子分に献身的な兄貴がいたら、ヤクザ社会ももう少しましになるような気がしないではない。実際のところは知らないので、実は何も言えないのだけれど、やっぱりあり得ない話なのかな、とは思う。ヤクザが人情に篤いなんてことは幻想であるのは、猫でも知っている事実だろう。そんな人がヤクザになれるわけが無いのである。何故なら堅気の方が、ヤクザに比べたら何倍も人情が篤いのだから……。
ということで、いい人は報われない、というお話なのであった。