刑事コロンボ・ビデオテープの証言/バーナード・L・コワルスキー監督
まずこの家の仕掛けが特殊なのである。手拍子のような大きな音に反応してドアの開閉ができる。何でセンサーでの自動ドアでは駄目なのかという疑問はあるが、それはコロンボの謎解きのためである。さらにビデオカメラで家の中を撮影しており、管理人というかガードマンを常駐させている。もちろんカメラ映像は録画もしてある。いくら金持ちといえども警戒しすぎという気もするが、アメリカにはアルソックが無いのだろう。金の心配を金をかけて解決するなら、この家のような仕組みになる場合もあるのだろう。
さて、しかし本当に金を持っているのは足の不自由な奥さんの家である。いわゆる婿として資産の恩恵を受け、会社の地位もある男らしい。目障りなのは姑で、実際に姑の権限で解任の危機である。受け入れられないのなら、殺すより他にないのだろう。奥さんをまったく愛してない訳ではなさそうなのだが、結構浮気っぽいところもあるらしい。相手の資産を利用して、自分にはおいしいところがたくさんあるわけだ。しかし、奥さんからは引き続き愛されているようなところがあって、離婚に至るような心配はなさそうだ。それでも欲が勝るということか、犯人は実行に移す準備を前もってしている。姑がそのような判断をすることが予想できるような頭を持ちながら、対策は最悪の選択をしてしまう。まったく人間というのは愚かなのだが、しかしそれだけこのトリックに自信があるという裏返しとも取れないことは無い。まったく相手がコロンボで無かったら、容易にこのトリックが崩れることも無かったかもしれない。
ピーター・フォークは、個人的にもこの奥さん役のジーナ・ローランズとは友人関係にある。というか、その旦那であるジョン・カサベテスと友好が深いらしい。このコロンボシリーズでは旦那とも奥さんとも共演している。さらにカサベテス映画でジーナとはやはり共演している仲である。そういう意味ではアメリカ的な家族関係で製作が行われているらしいことがわかる。持ちつ持たれつを大切にするのは、何もアジア的な人間関係だけではないらしい。さらにこの友人関係が、観るものを楽しませることにも有効に働いているという幸運も兼ねている。
実際にはこのトリックの成立のためには、いろいろ偶然や幸運を重ねる必要があったようにも思うのだが、そのような背景や仕掛けも含めてそれなりに楽しめる作品である。芸術作品をめぐっての、お茶目なコロンボの姿も見られる。マニア的な見方を楽しませる仕掛けにも凝るようになって行く、コロンボシリーズという方向性の中にある作品のひとつといえるだろう。