KCIA 南山の部長たち/ウ・ミンホ監督
1979年の韓国。腐敗した政治を告発した政府の要員が、ヨーロッパに逃れていた。一方で国内でも、政府に不満を持つ大衆デモが起こっている。大統領はその権力の座を守るために粛正をかけていく中、その部下である部長と呼ばれる次の権力者の軋轢も、激しさを増していく。もともとの理想主義の中、クーデターにより政権を奪取した過去の経歴がある。そうした同志でもあり、大統領を守り抜く覚悟のあったキム諜報部部長だったが、過去の理想とかけ離れていくように見える大統領の姿に、苦悩を募らせていくのだったが……。
史実をもとにしているので、結果は分かってはいるものの、権力闘争と、その政治情勢の中にある緊張感が、ひしひしと伝わってくる韓国映画らしい演出である。彼らはつまるところ暴力に長けている。爆発するまでの耐える時間を、じっくりと味わう映画ともいえるだろう。最初に静かに演じている俳優たちも、次の瞬間には激しいアクトになっていく。もうほんとに恐ろしいのである。
その立場によっては、立場なりの正義のようなものがあるわけだが、見ている分には、そのどちらも悪人にしか見えない。そういう意味ではやくざの抗争のようなものだが、困ったことにこれは政治である。ちゃんと描かれてはいないが、その当時の韓国は、凄まじい経済発展を遂げ、最貧国から経済優等生へ踊り出した頃のことである。朴大統領は、そういう意味では評価の高かった部類だが、長期政権で事実上の独裁を批判されてもいた。このような内部軋轢のあったことは、事実としてあったのだろう。その後娘も大統領になるのだが、このような事件の後にも、一定の国民の支持があったことと無関係では無いだろう。
日本では表立っての諜報機関は無いのだが、果たして本当にそうなのだろうか。権力に維持のためだけに諜報活動をしているものでは無かろうが、諸外国の考えというものも含め、諜報活動なしにその国の行方を決めるのは難しいことのように思える。つまりどの国であっても、多かれ少なかれ、諜報活動は行われていることだろう。もっともこの映画のように、暗殺までやっているのかどうかまでは、分かりえないのだが。まあ、やってはいるかもしれないけれど。
ともあれ腐敗にしろ理想主義にしろ、人間というものは恐ろしいな、という史実でありました。