パワー・オブ・ザ・ドッグ/ジェーン・カンピオン監督
牧場を経営している兄弟とカウボーイたちが、牛を売るために町までやってきて、あるレストランに入る。そこは未亡人とその息子(従業員もいるが)が切り盛りしていて、なかなかにいい感じの店なのだが、マッチョで粗野な男たちにはいささか気どり過ぎたものがあり、そのリーダーのフィルはせっかくの手作りの造花の花に火をつけて煙草を点けるなど、店のサービスを踏みにじり侮辱する。しかし同行していた弟のジョージは、未亡人のローズに恋心を抱き、これがきっかけで結婚してしまうのだった。
連れ子のピーターは男としてはなよっとした感じで、明らかにゲイっぽい雰囲気を漂わせている。当時の時代背景もあるのか、カウボーイたちにとっては、ちょっと許せない男で侮蔑の対象になっていた。しかし、牧場生活になじめない母を支える存在でもあり、いわば耐え忍び、将来は医者になる勉強をしながら生活を送っているという感じだろうか。
一方マッチョのカウボーイの真のリーダーであるフィルには秘密があり、実はゲイであることを隠しているのだった。彼は男らしい世界の中で、屈折したものの見方をする偏狭な価値観にとらわれている人間だった。実は大学出のインテリで、音楽にも通じてバンジョーの腕もある。馬に乗ることももちろんだが、カウボーイとしての道具の扱いにも通じており、風呂に入らないなど妙な男らしさの信念があるものの、この世界の男らしさの象徴でもある。しかしゲイであることは知られてはならず、弟の妻になったローズも嫌いだし、そもそも女性嫌悪があるようなのである。そういう中、連れ子のピーターは、ちょっとしたきっかけでフィルがゲイであることを知るのだった……。
ものすごく評判のいい映画で、なおかつnetflixで観られることもあって、鑑賞できた。まあ、ジェーン・カンピオンの映画だな、ということは言えて、こういうのが批評家ウケする現代作品なんだな、という感じである。性的問題を現代的な正しさで観た場合に、このように料理すると素晴らしい、ということなのであろう。後半ちょっと分かりにくいところはあるが、ミステリとしてもどんでん返しはあって、まったくの芸術だけの作品でなく、娯楽作としても成り立っているということだろう。
でもまあ、そうはいっても終始嫌な感じは付きまとうし、楽しい映画ではない。演技合戦はいいのかもしれないけど、あえて謎めいた説明を省きすぎているので、よく分からんものは分からんのである。とりあえず褒めておくにはいいというだけのことで、本当の傑作なのではないだろう。世の中には観るべき映画はたくさんある。けれど、結構つまらないものを観てしまうのは避けられない。その中間くらいの映画かな、という感じであろう。