よく噛んで食べるようにはいわれる。もうかれこれ五十年近く。要するに子供のころから言われ続けている。なぜそういわれるのか思い当たるフシはあって、要するに、あまり嚙んで飲み込んでいないように見えるのだろう。どうしてそう見えるのかというと、食事の時間が短い、というのと、食べ出したらすぐに飲み込むからであろう。こちらの方言では「かつれる」というが、飢えた人ががっついて食べる、ような感じで食べる習慣があるように思う。
思えば僕は6人兄弟のだいたい真ん中で、そういう普段の生活にあって、そういう習慣が身についたのではないか。もちろん日本風に最初から食べ物が取り分けられていた場合もあるが、大皿だとそうもいかない。そういうものだと思っていた。なんかの統計データでは、一人っ子は食べるのが遅い傾向にあるという。数が多くなれば比例するのかどうかまでは記憶にないが。
しかしこの理屈は多少おかしなところがあって、どんぶりものやカレーなどは、特に速度が増す。最初から競争する必要のない状況であっても早いというのは、必ずしも大皿問題との関係性を説明できるものではないのではないか。しかし一般家庭で、どんぶりものが普段の生活にあるのか、という疑問もある。まあそうだが、実際どんぶりのようなものは、早く食べやすいのは間違いない。
もうかれこれ二十年以上ダイエットをしている。だからよく噛んで食べるように気を付けてはいるのである。でもそう簡単にうまくいくものではないのも確かである。一時期は本当に一口30回噛む実践をしていて、実は面倒だったからいつの間にかやめたのは本当だけど、しかし思い出すと、たまにはこれをやっている。ずっとやっているかどうか記憶があやふやなだけで、結構やっているはずなのだ。もっと前には、三十回噛んだ毎にメモ帳に〇をつけながら食べていた。二十数回だと×を書く。たいてい〇だったから、できないことはなかったのである。
だから、時にはよく噛んで食べている。そんな風に食べていても、しかし家族の中での話だが、たいていは一番最初に食べ終わる。特に休肝日は、早いといわれる。酒を飲まないと間合いがない。実直に食べていると、どうしても早くなるのは当たり前だ。だからよく噛みなさいと、結局怒られる。噛んでいる場合があるはずなのに、誤解されていると思う。僕はよく噛んでも食べるのが早いだけではないだろうか。