田植えの季節に大量に発生するホウネンエビ。名前は豊年海老の意味らしく、たくさん発生するとその年は豊作であるとされる。縁起がいいのである。
このホウネンエビというのはちょっと不思議な生き物で、田んぼに水を張ると、土の中の卵が一斉に孵化するものらしい。そうして一気に微生物などを食べて成長し、繁殖期になると雄が把握器というものを使って雌を抱き込んだようにして結合する。そうして結合したまましばらく生活する(その間にやるべきことは済ませるということだろう)。最終的には水底にばらまくように産卵をし、その後成体は一生を終える。孵化してひと月くらいの寿命だという。
卵はすぐに孵化することなく土中にて休眠状態になる。冬季の低水温でも持ちこたえ、また長期の乾燥にも耐えうる。そうして越冬し、また春に暖かい水温になると孵化する。卵というより、植物の種のようなものかもしれない。
一時期しか見ることはできないが、あおむけになって泳ぐさまは、なかなかユーモラスでかわいい。ふだんは緩慢に泳いでいるように見えるが、外敵から身を守るなどの行動は素早い。生きている時間は短いものの、生命をつなぐ能力は、なかなかの優れものなのである。
※追記:実際のところ、長崎県ではホウネンエビは絶滅危惧種である。水田で有機農法を禁止している地区も多いので、生きながらえなかったといする人もいるが、真偽は知らない。田植えの終わった水田をあちこち眺めて歩いたけれど、ご近所ではめったに見られなくなったようである。何匹かは目にしたが、ホウネンの名前ほどにはおらず、結構探してしまった。もちろん、それでも豊作はお祈りしております。