野生の動物界においては、出産後しばらくの子供時代は、天敵に狙われるなど、たいへんに危険な時期である。シカや牛などの哺乳動物においては、出産後数時間もしたら立ち上がって走り出すことができるという。敵から身を守るためには、まずは自分が逃げなければならない。弱い立場の者たちは、逆に最初からたくましいのである。
一方で人間はどうなのかということだ。生まれてから数年間は、親の保護が無ければとても生きてはいけない。食料を取ることももちろん、身の回りのことのほとんどを、自分の力でやることはできない。このようなことから、人間という生物はなぜこのように未熟なのか、という疑問を持つ人も多いことだろう。
もちろん諸説あるにはあるが、基本的に人間の幼少期に生きる力がないのは、脳の発達を優先しているためではないか、と考えられている。脳が様々な学習をするうえで、幼い好奇心があるままでいたほうが、都合のいいことがあるというのである。そもそも人間の脳は体のわりに大きな状態で生まれてくるわけだが、それでも発達の上では未熟な状態で生まれる。もっと発達した状態で生まれてしまうと、大きくなりすぎて母体がもたない。外に出られる最大の状態であっても、まだまだ未熟であるから、それからの発達がさらに続くものと考えれている。そうして子供の状態が長く続くことで、脳の発達はさらに伸びることになる。大人として成熟し固定されてしまう脳になる前に、十分に時間をかける必要があるようなのだ。
人間になつく動物は、特に犬のような生き物は、大人になってもいつまでも子供の性質を残したままのように見える。実はこれはそのような性質をもった個体を選別して人間が飼ってきたために、犬の方で獲得したというか、いつまでも子供のまま成熟せずに大人になる個体になってしまったものである。いわば人間が作り出した動物なのである。人間にはこの子供っぽい性質に対して(男性であっても)母性的な本能が刺激されるようで、長く人間の子供を育てるために持っている本能的なものなのかもしれない。結果的に人間の特性として、ペットを飼うようなことをしてしまうのだろう。人間が生きていくというのは、子育てをすることを目的としたプログラムがあるに違いない。