前回は一応モーニングで驚いた話だったが、その時名古屋に来た折には、食べ物には好印象だったのだ。それというのもきしめんで、着いてすぐに食べたのがきしめんだった。これはへんてこだというのはそうなのだが、ちゃんと旨い。わざわざ平べったくする必要性はよく分からないまでも、ダシも効いているし、具だくさんだったようにも思う。一応麺だからずるずると食べられるし、基本的には味はうどんである。平べったいからぜんぜん違う食い物であるということでは無く、そういううどんだって有りだよな、という程度には受け入れが容易なのではないか。結局そんなに今までも機会が多くは無いが、行く度にはきしめんは食っているように思う。最近は名古屋に限らずきしめん屋を目にするようになったけれど、よその土地では特に頼みはしないものの、名古屋にいくときしめんはすする。平べったい分スープとなじみが良いんだろうか。煮込み時間が短くて済むんだろうか。理由はよく知らないが、讃岐うどんのようにコシを重視するのでなければ、十分に美味しいレベルで楽しめるのではないか。
ところで名古屋には味噌煮込みうどんというのも名物である。味噌煮込みは名古屋以外にもあるが、しかし名古屋の味噌煮込みは、確かに味噌で煮込んであるというそのまんま感が少し強い。味噌のドロドロ感が強いというか。それでもあんがい強烈に濃いということでは無く、ちゃんとスープも飲めるという不思議さはある。濃いと言えば濃いが、見た目ほどではなく濃いということか。そうして猛烈にぐつぐつ熱くて、旨いが難儀である。これが不思議なことに、味噌煮込みうどんといえばうどん麺だったりする。味噌煮込みきしめんというのがちゃんとあって、それはそれで別の食べ物である。当たり前の人には当たり前かもしれないが、名古屋にいくとちょっと不思議な感じがしてしまう。これなんかは味噌煮込みきしめんでもいいのではないか。僕はうどんの方がいいけれど。
しかしながら味噌煮込みうどんはやはり夏にはつらい。あえて食らうという変人もいるだろうが、食えば暑いに決まっている。真夏に酔狂だが、自分でなければかまわないだけのことだ。そうするとこの名物は夏には少し遠慮することにはなるが、きしめんには普通に冷やしメニューが存在するのだ。20年以上前にそうだったから恐らく最近目にするようになったぶっかけうどんとは違うんだと思う。それというのもしょうゆだれをぶっかけるというよりも、普通にダシまで冷たいきしめんという感じなのだ。温かいダシと同じなのかどうかまでは知らないが、少なくとも近いのではあるまいか。あったかいダシのきしめんもあり冷たいダシのきしめんもある。昔話で語っているので感覚としてあまりそのことに感慨が伝わらない気もしないではないが、ともかく九州にはそのようなうどんは存在してなくて、これは暑い夏には合理的で良いな、と思ったことだった。ずいぶんして讃岐うどんブームがあって、ぶっかけうどんというのを普通に見ると、やはり名古屋の冷やしきしめんとは違うものという思いを強くした。冷たくてもひらひら旨いというのは、あんがいきしめん文化として正当なものなのかもしれない。(たぶん続く)