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女房の叔母が軽井沢の山荘に遊びに来ていて、義母も連れて何処かにということになって、もう80歳になっている老人二人なので近くで温泉にも入れて食事と軽い名所巡りというぐらいがいいかと、それなら信州の鎌倉といわれる別所温泉周辺が一番じゃないかなと車で出かけることにした。別所温泉はかの枕草子にも、好ましい湯として七久里の湯の名であげられているという、由緒正しき温泉なのです。
浅間サンラインができ、高速道の上信越道もできて交通状況は昔に比べて格段に快適(昔は細いクネクネの抜け道をよく通ったものですが)、まず途中の旧東部町の公衆温泉(循環温泉だが)と地ビールレストランのある湯楽里館OH・LAHO!に寄道する。ここではまず牛乳味の濃いジェラートを食し、今日の夕食用に朝採りのトウモロコシやトマトなどの野菜を買い、近くの山野草業者が出しているテント販売の岩植えを見物、叔母は松本センノウ草を買って関西まで持ち帰るというのにはビックリ、といったところで再出発して上田方面に。
左手がOH!LAHO!
温泉棟側
南側の展望では蓼科山が望める
別所温泉のスペイン料理店壺屋には12時前に到着、まずは昼食ということに。この店は上田では有名で、ここの他に丸子町音楽村のイタリアン杉屋や上田市街の洋食蔵屋と洋風居酒屋エル・ビノなども同系列店なのです。もう30年近く前になるか、車で通りかかった時、田んぼと竹薮の中にシャレた一軒家を建設しているのを見つけ、以来気になっていたので次の年に行ってみたらレストランでよくぞポツンと建てたものだと。さっそく昼を食べてみたのが最初、その当時は本格スペイン料理というより変った洋食屋というメニューで、確か馬肉カツステーキを食べて存外旨かった覚えがある。オーナーシェフは夫婦共々画家で、絵を習いにスペインに行って、料理の美味しさに本場の味を習って帰国後は、こちらを商売にしてしまったと何かで聞いた。そういうわけで料理を取分ける中皿などは全てオーナーが窯元で手描きしたもので、一皿として同じ絵が無くて、これも食事の楽しさを増してくれるのです。<この場所の壺屋は土地ともに他に譲ってしまって、信州音楽村の杉屋のあった場所に完全移転して壺屋として営業している>
一軒家レストランの壺屋
入口
本日のご注文(老人二人ということに配慮して)は
オニオンスープ 4
壺屋のサラダ 1
自家製ソーセージ 1
チーズとベーコンのトルティージャ 1
タパスはミノのトマト煮と地鶏のニンニクオリーブ煮 各1
魚貝のパエリア小 1
昼ということでワインも旨いのを置いているが今回はお預け、またデザート類も老人はもう入らないというのでこれだけに、〆て消費税込み1万円弱であった。
ここではスープ類はオニオンスープするかブイヤベースかの選択にいつも悩む。とにかくパエリアやブイヤベースなど一品でボリュームがあるので、コースでとると女性だけのグループでは食べきれないことも、僕はいつもアラカルトで頼むことにしている。でもパエリアなどは持帰りに応じてくれるので遠慮なくお願いしましょう、ワインも好みを言えばお薦めの銘柄をいくつか選んでくれますよ。料理の方はとにかくしっかりした味付けで僕好み、一年に数回は行ってしまうのです。
次は名所巡りということになって、まずは安楽寺の八角三重の塔へ、日本唯一の形状の塔で国宝とのこと。曹同宗の禅寺で十六羅漢堂の脇、剪定された槇の大木が頂点を尖らせて直立しているのが印象的ではあるが、本堂は茅葺の上をトタン葺してしまっているのが残念。八角三重の塔はこれらの裏手の小高い場所に建てられている。
最下部に裳階がついて四重に見える塔が裏手に
さらに近くの川口松太郎が発想を得たという愛染桂で有名な北向観音まで温泉街の中を歩いていく。善光寺の南面に対しているとのことで北向の名が、両方をお参りしないと片参りとか(もう一つ長野県には飯田に元善光寺があり、甲府にも信玄が戦火を怖れて移築した善光寺があって、それぞれこちらもお参りしないと片参りだと案内に書いてあった)、小さいながらも似た姿のお堂に一同でお参り、でも老人二人はクリスチャンなんですがね。ここは芸能人の参拝が多いそうで、ちなみに桂の葉の形はハート型なんですよ、でも愛染の名はここに愛染明王のお堂があるからでしょう。また境内の閼伽はやはり温泉で、それもかなり暖かい湯なのですよ。
このあとここの鄙びた公衆温泉に入ってもよいのだが、池波正太郎の真田太平記で幸村と女忍者が結ばれたという設定で有名な石湯などは熱い風呂なのと、共同浴場風の脱衣場と浴槽だけの小さな風呂なので老人には不向きと別な所で入ることにして、塩田平へ足を延ばす。なお石湯の奥には老舗の木造3階の温泉旅館柏屋別荘があり、5月連休後のツツジの時期は無料で館内を公開していて、一回だけ見学してみたが、古木も多くて趣きのある庭で建物とともに風格を感じましたよ。<現在は大型の日帰り公衆温泉施設としてあいぞめの湯ができている>
塩田には未完成の三重の塔で有名な前山寺があって、四季折々の花も楽しめるこの寺の本堂は今でも茅葺(冒頭写真)で風情ある真言宗寺院、付け加えるとここの大黒さんが作るくるみおはぎ(市内にある刀花<もう無いかも>という喫茶店でこれを真似たものが食べられる)は有名で、要予約とのことだが余っていればその時でも食べられるはず。周辺は中世塩田城を廻る散策路もあって、子供が小さい時はハイキングで数回も、長野県最古の木造建築の中前寺のお堂などにも行ったのを思い出します。アジサイの季節には散策路沿いに連なっている場所に一大苑もあってなかなかのものでは。
また前山寺に隣接して、村山魁太など夭逝した画家のデッサンを中心に展示する信濃デッサン館は一見の価値ありで、ここの喫茶からの塩田平の眺めはまことに素晴らしい。そのあとにできた戦没画学生の作品を集める無言館とかは、入場料は本人が遺作追悼を勘案して決めて下さいとかで1円でもよいというのだが、あまり恥ずかしいことはしないで下さいな<その後は料金は決められたのでは>。ちなみにこの二館のオーナーは随筆なども書いている窪島誠一郎氏で、若い頃に画商をしていてこれらの絵を集めたとか。もう一つ話題になったのは、彼は父なし児だったそうで、親を捜し求めてついに訪ね当てたのがあの有名作家水上勉だったという、この話は有名でしたね。その他にも別所温泉からここ周辺にかけてはいくつかの神社仏閣、上田紬やその他の工芸品など扱う店など探せばまだまだ見所がある所である。
未完の三重塔で回廊や扉が無い
塩田平の風景
このあとに廻った青木村の方にはもう一つの国宝で、その美しさから旅人が何回も見返りの塔と呼ばれる三重の塔がある大宝寺も一度は訪れると良い所でしょうか。鎌倉時代後期に北条一門がここを根拠に数代に渡って睨みを効かせた所とあって、古くから豊かだったろうと往時が偲ばれる土地柄で、温泉だけじゃないのが魅力だと周辺も含めてのPRをもっとしたらいいのにね。付け加えると塩田平周辺は松茸の一大産地(品質の東日本最高はこれも信州四賀村産だそうだ)で、秋には城山園などの松茸狩りと松茸料理尽をセットにした所がいくつかあり人気のようだし、別所温泉奥の森林組合の施設でも手軽に食べられると聞いいている。
ささやか日帰り旅行の最後は青木村の方向に走って手前の標識を右手北側に数キロ入る、山と村の交流施設と言ったか、室賀温泉ささらの湯へ、泉質は単純硫黄泉ですべすべする湯に入って帰ることに。もっと先に行けば田沢温泉にも公衆温泉(ここは洗湯も温泉となっている)があって、泉質は柔らかい単純硫黄泉でこのあたりでは僕は一番好きなのだが、施設はこちらの方が充実していて、循環湯ではなく、入浴料400円<今は500円>でシャンプーも用意され、内湯、露天風呂、サウナと一応揃っているのがうれしいのです。地元客が中心らしく年間利用定期で通う常連も多いようで、行くたびに見たことがある顔ぶれがいる。露天風呂はやや温めでサウナのあとには心地よい風で上半身を冷しながらゆっくり長湯を、これが極楽気分ですな。ここでも農家直売の枝豆など野菜をいくつか買って無事帰宅となった。
ささらの湯(これは秋の時の写真)
夕食は家でこれらを中心に一杯やらかすことに、かあちゃん!夕食の用意は全部おまかせ、有難うさんということに。
店データ他
OH・LAHO! 湯楽里館 東部町字和 3875 0268-63-4126
壺屋 上田市大字山田 553 0268-38-8550
<上田市生田 2937 0268-42-0042 信州音楽村に移転>
ささらの湯 上田市上室賀 1232 0268-32-1126