熊本県川柳研究協議会(熊本川柳研)

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会員しろ猫エッセイ

2023-01-31 00:00:41 | 川柳一般

     私が死んだ?

それは、去年の暮れの一本の電話が序章だったのです。

大先輩にあたる人からの電話だった。

大先輩:「あれ、本人だよね、やっぱり人違いだったか」

しろ猫:「え?どういうことですか?」

の、やり取りの後で聞いた話は、買物帰りに葬儀場の横を通り掛かったら私の通夜が行われていて、慌てて確認の電話をしたとのことでした。直ぐにピンと来たのは私より10歳くらい年配の同姓同名の方の存在でした。

しろ猫:「生きてます、ご安心下さい、多分同じ町内の同姓同名の方です」

と返事をして電話を切りました。

その翌日は、朝刊の訃報欄を見たという友人・知人から電話の嵐がやって来たのです。「年齢が違っていたけど誤植ということもあるし…」という懐疑派まで登場し数日は電話の嵐でした。

この町で生活を始めた頃は、郵便物が違って配達されたり、銀行が間違えて振込んだり、若い二人づれが「今度お部屋を借りることになりました○○です」と挨拶に来られ、同姓同名の方はアパート経営かなと想像したものでしたが、ここ数年は静かだったのです。

電話の嵐から数日後、今度は「ご愁傷さまです」で始まる忌日の料理や引出物等、そして墓所・墓石のセールスまでが玄関へ…。事情を説明すると、みな一様に頭を垂れて引揚げていきました。

私は生きています。と、とりたてて名乗る事に不思議な感慨を覚えたものでした。

福分けの元のあるじに辿り着く・・・しろ猫

 山茶花の絨毯 Byしろ猫

      さざんかは笑い上戸にちがいない  Y


会員エッセイ

2023-01-26 00:00:01 | 川柳一般

     ✎ 文字 (もじとおん)

常々、表現した短文芸を表出させるときに文字なのか音なのかということに関心をもっていたが、目から鱗のコラムをみつけた。

現代の表出方法はその従来の2つ以外にもあるのではないかという作家がいる。下写真のコラムの〈文字に引っ越した「声」〉というサブタイトルがそのことを端的にあらわしている。メールやラインやSNSの登場とともにコロナ禍が従来の伝達方法だけではなく、文芸における表出方法にも影響を及ぼしているというのだ。

「文字情報の中に声のニュアンスを感じ取る…」「眼が耳の代わりを務める」「感覚器官が交換可能な世界」などとある。これらのセンテンスを真に理解できるのは、SNSに日常的にかかわっているひとに限られるかもしれないが。文字情報に記号や絵文字や字空は含まれるのかどうかもここには書いてはない。

おおかた川柳のことを書いていながら、文末に(歌人)としか書いてないところにも驚く。川柳結社には所属していないとはいえ、昨年は某川柳の大会で選者をしたり、川柳句集を出版したりしているのに。

それにしても、新しい考え方を発信する若い自由な文芸人にうれしくなるのは、もうこの世から片足が浮き始めたからかもしれない。(いわさき楊子)

熊本日日新聞2023.1.23から


川柳句集紹介

2023-01-21 00:00:01 | 川柳一般

『言の葉で人生は輝く』北村あじさい川柳句集 から

   迷うからそう何回も聞かないで

   約束の場所には来ないブーメラン

   花束をいただいてからのそれから

   しあわせがこぼれるように盛るごはん

   呼び止めたけれど無言のシュレッダー

   言い負けてくれた貴方の思いやり

   あと一本抜けない棘の立ちくらみ

   老老介護できる幸せだってある

   浮いた灰汁少し残して生きてます

   節電の努力をほめる請求書

   饒舌な友のはがきのウラオモテ

   かなもちてととくこひふみちれつたゐ

   母さんが可愛くなっていく介護

   真っ直ぐに伸びたらきっと飽きられる

   手植えした花は私を向いて咲く

   しあわせと思う特技を持っている

     写真は孤遊さんから 撮影場所は熊本市の江津湖

 

『言の葉で人生は輝く』北村あじさい川柳句集 

          2022年10月16日初版 新葉館出版

句作の年代順に、「暗中模索」「切磋琢磨」「一意専心」の3章で構成されています。最後に抄出した句にあじさいさんのすべてが表れています。現在、本研究協議会副会長。川柳真風吟社代表。

                                              (句抄出と紹介:いわさき楊子)


『金曜日の川柳』樋口由紀子 編著から

2023-01-16 00:00:41 | 川柳一般

「きゃりーぱみゅぱみゅ」三回言えたら大丈夫   山下和代

徘徊と言うな宇宙を散歩中  野沢省悟

踊つてるのでないメリヤス脱いでるの  根岸川柳

乳のある方が表でございます  草地豊子

紀元前二世紀ごろの咳もする  木村半文銭

ほんものの息子は電話してこない  真鍋心平太

老人は死んでください国のため  宮内可静

べんとうの無い児も君が代を歌ってる  高木夢二郎

わたくしがすっぽり入るゴミ袋  新家完司

院長があかん言うてる独逸語で  須崎豆秋

革命を考えているおばあさん  鈴木節子

花の名を忘れ薬の名を覚え  松岡雅子

男か女くらいは分かる九十八歳  柴田牛朗

生きられて百になったら何しよう  野村圭佑

少しなら飲んでもという医者に替え  早川清生

平凡な孫の名前にホッとする  山本宏

おれの ひつぎは おれがくぎうつ  河野春三

骨は拾うな 煙の方がぼくなんだ  海堀酔月

白黒の力道山は強かった  木村和信

みんな去って 全身に降る味の素  中村冨二

 

『金曜日の川柳』樋口由紀子 編著 二〇二〇年三月三日 第一刷発行 株式会社左右社

どうして、こんなことをわざわざ書くのだろう。と、帯にあります。全333句の中から、高齢者にひびく句を抄出しました。樋口さんは現在も ウラハイ=「週刊俳句」(ブログ)に毎週金曜日に1句掲げて鑑賞を書いておられます。この本はそのウラハイに書かれたものをまとめたものです。(いわさき楊子)